<22話> 「食後にデザートはいかがですか?」 =Cパート=
大技は、撃った後の隙が問題となる。
仕留めきれなければ、こちらが殺られる。
そう、ソフィアの様に。
そうなれば、またイリーナは連れて行かれてしまうかもしれない。
リスクがある。しかしリスクを取らなければ、おそらく勝てない。
このまま戦えば負けないかもしれない。けれど、それで良いのか?
勝てば必ずイリーナを取り戻せる。
負ければイリーナは連れて行かれてしまう。
では、引き分けならば――
鬼の持つ双頭の刃が、私の装備を掠めた。
魔術陣から出でた鬼に、防戦一方。
剣を重ねる度に、ジリジリと押し込まれる。
軽く感じられたミツキの短刀は、鬼と化した今、ティーナをも凌駕している。
攻撃を受ける度に、衝撃が伝わってきた。
「こんのぉぉぉぉぉォォオ!」
私は現状を打破するべく、敢えて力技で打ち返す。
手加減なしの力技は、刃で防がれたものの、一旦距離を稼ぐに至った。
いけない。気持ちで負けては。
勝負の世界は、甘くはないのだ。
引き分けで良いと思ってしまえば、負けてしまう。
考えろ。考えるんだ。――私。
考えが纏まらなくても良い。まず、考えるんだ。
直感を信じ選択しよう。
そうすれば、その先に勝利がある!
「こう言うのを焼きが回ったって言うのかしらね?」
一歩踏み込む。この世界でも、私がナンバーワンだ。
勝ちを譲るほど、満たされてはいない。
私は、いつでも貪欲な挑戦者なのだから。
鬼を見据えて私は、無言で考えた。
脳裏へと、経験から来る攻めパターン20通り程が幻影として浮かぶ。
「いける」
――私は無心で攻めた。
鬼の刃を掻い潜り、黄昏の剣は、確実に削いでいった。
幾度かの攻防の後、隙を生じさせた。
だが、そこで大技を放つ事ができず、見過ごしてしまったのだ。
攻めるべき時に、攻めきれなかった。
勝負感がまだ戻っていない様だ。
実戦から遠ざかっていたブランクであろうか?
「この闘いが終わったら、鍛え直しだわ」
その後、私は逆に攻めを読まれてしまう。
大技を決めようとした、その焦りが攻め方に悪影響を及ぼしたのであろう。
「 剣 舞 『 夜 叉 ノ 舞 』 」
鬼が舞う。
ソフィアが喰らった技だった。
その恐怖から逃げるべく、転移魔法を私は使う。
「次は逃がしません」
(まずい……。どうする?)
鬼は再び舞う。
「 剣 舞 『 夜 叉 ノ 舞 』 」
「壹」
「貳」
「參」
この技を見るのは、これで三度だ。
それだけ見れば、ある程度は反応できる。
壹撃目は避け、貳撃目はギリギリで躱す。
參撃目、どうやら反応できるのは此処までの様だ。
私は転移魔法で逃げた。
しかしながら、鬼も転移し追い掛けてきたのだ。
肆撃目が迫る。
その最中、私は装備を白い鎧とローブへと変えた。
「 The Knights of Twelve 」
―― 光属性の追加効果を持つ十二の斬撃 ――
「肆」 「un」
「伍」 「dau」
「陸」 「tri」
剣撃は拮抗し、互いに無力化された。
そして私は、装備を黒へと戻す。
「漆」 「pedwar」
「捌」 「pump」
「玖」 「chwech」
拮抗していた剣撃は、徐々に私が優位になり、押し返す。
剣そのものは弾かれているが、光属性の追撃が鬼を攻める。
「拾」 「saith」
「拾壹」 「wyth」
「拾貳」 「naw」
このまま押しきれば!!
「拾參」 「deg」
ダメか? 届かない……?
「拾肆」 「un deg un」
押しきれない。まずい……。
このままでは、確実に16撃目を喰らってしまう。
「拾伍」 「un deg dau」
私が発した剣撃の光が止む。
そしてそれは、大技を発動後の隙が生じた事を示す。
「拾陸」
鬼と化したミツキは勝利を確信し、数える。
「イリーナ……」
Dパートへ つづく




