<22話> 「食後にデザートはいかがですか?」 =Bパート=
キュリアは輝く剣を地面に突き刺し、支えとする。
片腕で構えられた赤黒い魔剣に、もはや瘴気は無い。
それは同時に、魔力の枯渇を意味する。
回復魔術により大きな外傷こそ無いものの、衰弱しているのは誰の目にも明らかだ。
胸元から縦に裂けた青き魔法の鎧は、魔力不足により未だ修復に至らず、キュリアは素肌を晒している。
「……。同一人物だとは、にわかに信じられませんね」
「ええ。私が戦った時とは、全くの別人の様に見えます。
武器だけは同じでして、不思議なものです」
エミアスには、まだ幾ばくかの魔力の余裕がある。魔の血が流れているが故に。
生きた400年という歳月を感じさせない容姿なのは森エルフであるが故だ。
皺一つ無い肌は、ヒトではあり得ない程に若く見える。
キュリアともまた違う黄色味掛かった髪が揺れると、際だって長い耳が目立つ。
「おばさんたち、そこ……どいて」
銀髪の少女が開口する。
「おば? おば? どこですか? おばさん。――居ませんね。この領域には」
エミアスの眉間に、それまでは無かった皺が寄る。
「そうですね、エミアス様。見渡しましたが、そういった者たちは居ません」
引き攣った眉を戻すと、キュリアはエミアスと互いに顔を見合い、二人頷いた。
すると何の前触れも無く、目の前で光が集約する。
二人の前に、首から上のない鎧が現われたのだ。
「あの灰色に輝きし鎧は『銀鋼』。友の所有物に似ているが……まさか……」
「首無騎士……?」
対峙したまま、立ち尽くす二人。
銀髪の少女は、首無を囮にして、ティーナに駆け寄る。
そしてティーナは召喚された物体の上に載せられ、運ばれていく。
運ぶ時間を稼ぐ為であろう。銀髪の少女は二人の方を向く。
するとまず、首無しがエミアスに斬り付けてきた。
エミアスは杖の柄で咄嗟に防ぎ、キュリアが庇うべく、割って入る。
杖は光りの槍となり、エミアスは反撃に出る。
だが、鎧に当たるも光を弾いた。
「なっッ!? 聖なる光が……」
「下がって!!」
キュリアが輝く剣で斬り付ける。
だが、キュリアの剣も鎧に弾かれてしまう。
「くッ」
剣を持ったまま、首からぶら下がっている果実にキュリアは手を掛けた。
そこへ巨大な蛇が襲う。
キュリアは剣で斬り付け蛇を退治するも、飛散した体液は、剥き出しの肌を蝕む。
肌は蒸気を放ち、焼け融け爛れる。
「中位回復魔術」
回復したのはエミアスだ。
「助かります」
そう告げるとキュリアは、銀髪の少女との直線上に首無を挟み、敵を盾として使った。
エミアスもそれに気が付き、キュリアの背部で直線上の位置取りをする。
首無の持つ剣と、キュリアの剣が交差する。
力なく構えられていた一刀は、いつの間にか二刀に変っていた。
「舐めるなッ!」
魔剣に再び瘴気が生まれ、輝く剣は光を強める。
首無の剣はいなされ、輝く剣が鎧の関節部分を襲う。
反撃に出た首無の剣は、あっさり躱される。
「その太刀筋……。安心しました。中身まで本物では無くて。
本物であったなら、今の私には勝てなかった」
魔剣を地面に突き立てるとキュリアは、輝く剣を両手で構えた。
輝く剣が首無の剣と競り合う。
そして巻き取り、キュリアは相手の武器を弾き飛ばした。
首無は鎧の様々な関節部分に連撃を浴び、そのまま地面に倒れる。
そして、その場から消えた。
視界に現われた銀髪の少女は武器を構えていた。
威勢を張っている様にも見える。
するとエミアスは、キュリアの前に歩み出た。
「待って下さい。元々、私たちにこれ以上、戦う意思はありません――」
エミアスはキュリアを見つめ、キュリアは無言で頷く。
「――それは少しだけ、貴女の言葉で鬱憤が溜まりましたが、それだけの事です」
戦闘中に頭を下げるエミアス。
「ティーナを。……娘を宜しくお願いしますね、小さなイシズさん」
エミアスが目線をそらした隙に襲われる事は無かった。
そうして頭を戻したエミアスの顔には、笑顔が浮かんでいた。
「……イシズじゃ……ない」
一方、銀髪の少女は膨れていた。
私は、ソフィアの元へと転移し、抱きかかえる。
そしてフィールドの一部階段状になっている箇所へと転移する。
ティーナと一緒に観戦をしていた所だ。そこにソフィアを横たえ、大剣を添えた。
ソフィアの身体は見た目の通り、子どもの様に軽かった。
私は小さく細い指に触れ、重ねる。
「ソフィア、ありがとうね。駆け付けてくれて。
あなたがいてくれて、本当に助かったわ。
あなたがいてくれたから、私はイリーナを救える」
黄昏の剣は赤く光り、私の赤い髪を照らす。
私は立ち上がり、そして決意を口にした。
「アイツを、倒す」
決着は既に付いた。
けれど、私の戦いは終わらない。
イリーナをこの手の内に取り戻すその瞬間まで。
「硬いッ」
転移直後、黄昏の剣は鬼を捉えた。だが、掠り傷程度。
現実世界で丸太に斬り付けた様な、そんな手応えだ。
服を裂き皮膚にまで達した筈が、失血には至っていない。
メイドの機械カレンともまた違う手応えだ。
斬った感触があるのに、ダメージが通らないのだ。
「大技で決めるしかない――」
Cパートへ つづく




