<22話> 「食後にデザートはいかがですか?」 =Aパート=
※このパートの冒頭は第II部連載中に大幅加筆修正される場合があります※
吟遊詩人の声が、弦楽器の旋律に乗る。
歌っているというよりも、曲に合わせてリズムに乗って語っているのに近い。
その調べに、誰もが口を閉ざし、聴き入っていた。
【黒曜龍】の息吹が 魔を焼き払う
【狙撃手】が放ちし一撃は 天をも貫く
【戦乙女】が二つの剣を振るい 天と地をも別ち
【魔賢者】の詠唱は 魔界より死を誘う
【予言者】は未来を見通し 仲間へ警鐘を鳴らす
【銀武者】は仲間を庇い
【姫巫子】は祝福で癒やす
1時間を超える八英雄の物語が終わりを迎えると、宮殿にいる全ての者が拍手し喝采を送る。
詩の中で黒曜龍と称されている八英雄・神龍ナシャは堂々とその場にて胸を張り、八英雄・戦乙女キュリアはナシャの後ろに隠れ恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
けれど、背の低いナシャの後ろに立った事で、逆に目立ってしまい、2人は吟遊詩人と共に視線を集める結果となった。
私は自分に視線が集まっていない事に安堵し、そっとキュリアの横を離れた。
「あ、リル殿、まっ……――」
丸みを帯びた波打つフリルが遇われた無垢なシャツを着こなすキュリア。
視線が集まり、黒い花びら状のスカート裾を少しだけ持ち上げお辞儀する。
翻り見えるスカートの裏地には、夜空の星々が散りばめられている。
それに比べ私は、オシャレでこそはあるものの黒い中二病なガチ装備なのだ。
(中二病でも、おしゃれしたい……)
オシャレ装備のドレスには、直ぐに着替える事ができる。
けれど、宴の始まる前は、そんな気分にはなれなかったのだ。
途中で着替えるのもアレなので、そのままでいた。
皮肉なもので、聖母教総本山での戦闘が終わったというのに、今は着替えたいという衝動と格闘しているのだ。
『 乙女道と云ふはタヒぬ事と見付けたり 』
この世界で、さして知り合いが多い訳ではない私は、独りお酒を飲み、壁際に張り付き、壁紙と化す事とした。
「リル様。リル様――」
声を掛けてくれたのは、共に戦った司祭の2人だった。
木製で彫刻の施された壁に、壁紙は不必要だった様だ。
(私の潜伏技術も、まだまだの様ね……)
そんな時だった。宮殿内が一斉にざわつく。
人と人の僅かな隙間から見えた青い髪。間違いなくイリーナだ。
側に居るのは、晩春の若葉が折り重なった様な新緑色のドレスを着たエミアスだった。
一人、宝石の宿った装飾品を身に着けている。
聖母教の大司教にして、私たちの母である。
やがて、足音が近づいてくる。
ウエディングドレスを彷彿とさせる刺繍の施された純白のドレス。
そこから伸びる脚より出でた白いヒールの音だった。
「お姉様……」
「おかえり、イリーナ」
◆
自由落下した私を待ち構えていたのは、黒髪を乱し鬼気迫る勢いのミツキだった。
「シズ、ふたりを頼みます。――撤退する時間は、稼ぎます」
赤紫色の妖気とでも呼ぶべき魔素が、ミツキを包む。
そして額より、角が出でる。
『 鬼 哭 啾 啾 』
「それが貴女の奥の手という訳ね……」
私はミツキへ大剣を投げ付ける。
それと同時に黄昏の剣を取り出し、装備し斬り込んだ。
直線的な動きであるも、身体半分ほど左にズラす。
この微妙なズレが、相手の狙いを阻む。
経験から来る自然な動きだ。
ミツキは屈み、大剣を避け、顔を伏せたまま二つの短刀を振るう。
「ふんッ」
黄昏の剣で鬼の首を取りに行く。
だが、掲げられた短刀に捕まるのだった。
「りゃあぁぁぁ!!」
ソフィアは斬り込む。私の投げた大剣を受け取って。
するとミツキは魔術陣と共に地面へ消えた。私はそれを転移魔法で追う。
空を斬るソフィアの大剣が地面に激突し、火花が散る。
その背後へと、ミツキは再転移していた。
「 剣舞『夜叉ノ舞』 」
一瞬にして、ソフィアの背中が真っ赤に染まる。
連撃だった。それは私にも分かる。
だが速過ぎて、何連撃であるかを見極められなかった。
直感では、おそらく“十六連撃”。 怖ろしい技だ。
魔術≪上位自動回復≫が掛かっていなければ、即死していたかも知れない程の鮮血が飛ぶ。
一時的な失血により、ソフィアはその場で気を失い倒れた。
「姉…様……」
Bパートへ つづく




