<21話> 「転移魔法」 =Gパート=
≪神之支配者≫
「カーッ、カッカッカッカっ! カーッ、カッカッカッカっ!」
ピンクの髪が舞い、咲き乱れる。昂り、ティーナはいつになくゴキゲンだ。
金色の湯気が立ち登る。
イリーナと共存している邪神ルドラに勝るとも劣らない。
膨大な魔力は可視化できる程に絶大だ。
高度な魔力耐性を持っていなければ気を失う。
また、持っていたとしても立ち向かうのは容易でない。
「םער! ――םער、םער、םער!」
幾重もの雷鳴が轟き、落雷が降り注いだ。
雷光に爆音、空気を焦がす臭い。キュリアたちは五感の内、触覚以外の感覚を奪われる。
エミアスは、魔術陣を敷き魔力障壁を発生させていた。
キュリアとソフィアを守る為に。
キュリアは、複数の属性強化魔術を掛けると、盾を魔術で生成させていた。
ソフィアを守っていたのだ。
ソフィアは、自らを盾とし、魔法障壁の最前線で避雷針となっていた。
仲間の為に献身していたのだ。
そして、五感は徐々に解放される。
まずは戻った視覚が現状を知らせてきた。
三人は自分たちが無事である旨を把握する。
だが、聴覚が戻らない最中、何やらティーナの口元が動く。
エミアスは焦る。聴覚の回復を待つ余裕はなかった。
「まず…で…ね。…う何撃も……」
「雷神の怒り」
ティーナの叫び声と共に、赤い稲妻が降り落ちる。
球形状の魔力障壁を発生させていたソフィアは、魔力障壁ごと弾き飛ばされ、障壁は消滅する。
二刀の剣を持ったままのキュリアは、身体を張りソフィアを受け止めた。
赤い稲妻は、ソフィアの肌に浮き出た血管状の火傷を生じさせ、髪の焦げた臭いを漂わせる。
キュリアは火傷を負うソフィアに身体を重ね、後ろから支えた。
「上位回復魔術」
「最上位回復魔術」
キュリアとエミアスの回復魔術が順次発動する。
元の傷一つ無い状態へと、ソフィアの身体は戻る。
傷が癒えたばかりだというのに、ソフィアはキュリアに背を凭れつつ、大剣を正面に構えた。
だが大剣には、光と瘴気を帯びた二刀が直ぐに折り重なる。
「一人で、抱えるには大きな問題でしょう。でも二人、いえ、三人ならば!」
その言葉に、ソフィアとエミアスは無言で頷いた。
「カーッ、カッカッカッカっ! םער! םער! םער!」
更なる雷鳴が幾重にも轟き、落雷が降り散る。
だが、しかし、異質の稲妻が走ったのだ。
閉鎖空間内にいた、全ての者の視線が向く。
視線の先にあるのは、穴が開き、ヒビの入ったティーナの大盾だった。
「姉様!」
「リル殿!?」
「リル様……」
◆
「もう直ぐ、貴女を助けられるわ……イリーナ」
私は天井に逆さに立つ。イリーナの祈って重ねた状態の手を支えに使い。
長い赤髪は、イリーナの天井へと垂れ上がっている青髪とは対照的に、地面へ向けて垂れ下がる。
「ほんと、自分のバカさ加減が嫌になるわ。
イリーナ、貴女の窮地だというのに……。
戦闘が……、1対3の戦闘が、こんなにも楽しいだなんてね」
イリーナを眺めつつ、赤い布製の装備から紫の軽装鎧へと装備を変える。
そして、最強の武器である「麒麟の髭」を取り出した。
「そうね。私は大バカ者ね。
ゲームが好きで好きで。結局、ゲームを仕事にしてしまうぐらいだものね……。
でもね、イリーナ。ゲーム大好きな大バカ者の私だから、貴女を救える。
私の本気……、今、見せるから!」
「カレン、あれを止めて!」
ミツキの危機迫る叫び声に、カレンは無言で頷き、駆けて跳ぶく。
私は、祈りを捧げて固まっているイリーナの両手に手を重ね、ぶら下がった。
そして、麒麟の髭は放たれる。
カレンは私の狙っているティーナとの射線上に入った。
だが、それはあまり意味の無い行為なのだ。
カレンの目前で、麒麟の髭は消える。
転移魔法により転移し、再出現したその先にはあるのは――
『ティーナの大盾だ!』
麒麟の髭はティーナの大盾に、大きな風穴を開けると、追加の雷撃が盾を襲う。
「なッん!?」
ティーナは何が起きたのか、理解できていない様だ。
気が付いた時には、穴が開き、ヒビが入っていたのだ。
「知っていたでしょう? 姉様が最初から盾を執拗に攻撃していた事を」
ソフィアは落雷によりボロボロになった黒いワンピースを千切って投げ、ボディースーツ姿となった。
「リル殿は、貴女が魔力を大量に消費するのも、待っていたのですよ」
キュリアは一瞬でティーナとの距離を詰め、剣の間合いへと迫る。
「ヴァレンティーナ、様……。もう、良いのです。もう、これ以上……」
エミアスは顛末から目を背け、目を閉じ、杖を抱えて唯々祈る。
Hパートへ つづく




