<21話> 「転移魔法」 =Eパート=
キュリアは同時に2つの詠唱を完遂する。
「岩壁城壁」「中位火弾魔術」
複数の火弾が降り注ぐ。熱量は満ちている。
それに呼応し、ティーナの剣に刻まれたルーンが輝き出した。
火弾は剣に吸収され、剣は赤き炎を纏う。
赤き炎は刃となり、刃はキュリアを襲う。
しかし、漆黒の炎が出現し、赤き炎の標的を変えさせた。
≪エンチャント・ダークフレイム≫ 漆黒の炎を宿したソフィアの大剣だ。
港街スミュールでの戦闘にてキュリアは倒された。
ティーナに古代魔法を模した魔術を吸収利用されて。
だが今回は違う。ティーナの剣に敢えて吸収させた。
吸収時に生じる僅かな隙、それに合わせて攻める為。
ソフィアの大剣は、まさにそれを狙ったのだ。
ティーナは大盾で防ごうとするも、上段からの攻撃に分が悪かった。
大盾の角度を合わせるのが間に合わず、ソフィアの馬鹿力で放たれた剣撃により、盾による防御網をこじ開けられてしまう。
大振りなソフィアに対し、漸く標的を定めた炎を纏いし剣。
けれどソフィアは、躱そうとすらしない。
「てッっ!?」
ティーナは変な声を上げる。
岩で出来た壁が現われ、ソフィアの身代わりとなったのだ。
キュリアが同時に唱えていた「岩壁城壁」は自身ではなく、ソフィアへ向けて掛けたものだった。
ティーナの鎧に二つの剣が爪痕を残し、鮮血が舞う。
キュリアが、スミュールでの借りを返したのだ。
そして、ソフィアの漆黒の炎を宿した大剣が、縦一文字にトドメの一撃を刻む。
だがそれでもティーナは沈まなかった。追撃を防ぐ為、剣で牽制をする。
剣は、それにより大剣と激しく衝突し、互いいを弾く。
更にキュリアへも対応するべく、大盾でソフィアを丸ごと覆い隠した。
背の低いソフィアはすっぽりと収まる。
そうしてやっと、キュリアの方へと剣を向け直した。――その時だ。
大盾に、衝撃が走る。音はほぼ無く、大きな衝撃だけが伝う。
ティーナは大盾ごと大きく吹き飛ばされていた。
身体は宙を浮き、転がされ、鎧が地面と幾度か激しく衝突する。
地面は鎧により削られ、鎧は青白い火花を発する。
大盾を地面に突き立て、ティーナは漸く自分の身体の制御を取り戻す。
「ריפוי」
ティーナの傷は瞬く間に癒えた。鎧や大盾までもが修繕される。
「いけねッ。こいつぁ、まずい。魔力がねぇや。カルキの力を使うかぁ?」
一方の私は、ミツキと鬼ごっこをしていた。
ミツキが私を転移陣で追い掛ける。
だが、追い掛けて転移した先に、もう私は居ない。転移魔法で逃げるのだ。
「お待ちなさい」
「いやいや、止まったらやられるから……」
ミツキは更に転移し追い掛け、短刀を振るう。
当然だが、そこに私は居ない。
二つの短刀を構え直すと、背に乗っていた長い黒髪がバサリと垂れた。
「いつまでも逃げ続けられると、――思っているのですか?」
「思って……いないわね」
そう言うならば私の方から攻めてみるかと、ミツキの元へ転移する。
転移と共に剣を振るう。だが、ミツキの身体は転移陣に吸い込まれ、斬撃は空振りとなった。
「もー。自分だって、逃げるじゃない……」
ミツキ少し離れた位置の転移陣よりヌルリと出でる。
「私は良いのです」
「は~ぁ?」
納得のいかない私は、ついつい奈良の大仏ばりの仏頂面を晒すのだった。
(これは、おしおきする必要があるわね……)
ミツキは二刀を構え、凜としていた。
「随分、余裕そうですが――。
そう頻繁に魔法での転移を繰り返してなど、いられるものですか」
それに対し私は、直ぐには答えない。黙秘をした。
「やはり、限界は近い様ですね」
「そんなことないわ。まだ十回以上、転移できるもの」
ミツキが攻め、私が逃げる、鬼ごっこが再開した。
それと同時に、ミツキによる勘定が始まる。
壹。
貳、參、肆。
伍、陸。
漆・捌・玖
拾、拾壹、拾貳、拾參、拾肆。拾伍、拾陸、拾漆・拾捌・拾玖――
「なぜです? なぜ魔力切れにならない。これ程頻繁に転移魔法を使い――」
数だけが蓄積していく。
攻めるのを止め、ミツキは漸く気が付いたようだ。
けれど、怒った顔のミツキは可愛らしく、気品があった。
「謀りましたね。魔力が切れるなどと――」
「あら? そんなこと、私、したかしら?」
額に指を当て、少しだけ考える素振りをした。
「ああ、そうね。嘘ではないわ。……まだまだ十回以上、できるのだけれども」
Fパートへ つづく




