<21話> 「転移魔法」 =Dパート=
私は手首の辺りで腕を交差させながら迫る。
ミツキは黒き黄昏の剣を使い牽制の為の斬撃を放つ。
だが、その斬撃は私には至らない。
ミツキの懐へと、容易に侵入できた。それと同時に私は交差させていた腕を解く。
二つの短刀が、ミツキの首元を挟むように迫る。
左右の頸動脈を同時に狙ったのだ。
けれど私の斬撃もまた、ミツキには至らなかった。
二つの短刀は、ミツキの持つ扇により、阻まれる。
黄昏の剣はミツキの手を離れ、地面への落ちた音が響く。
私は目を逸らさず、強引に短刀を押し込もうとした。
しかし、斬れたのは首の皮。左右の一枚ずつだけだ。
『扇の舞・白虎』
一瞬、目の前に白い霧状の何かが現れた。
私は反射的に、自身の攻撃を空かす。
「なッ? カウンター技!?」
すると白い気体は、何事も無かったように、収まり消えた。
「あぶな……い、わね」
「よく分かりましたね。感? ――ですか?」
「んー。経験……かしらね」
「――なるほど」
ミツキは楽しそうに微笑んでいた。
そしてその笑顔と共に、再び転移陣の中へと消える。
私は足元や頭上も警戒しつつ、黄昏の剣――彼女の元へと歩む。
転移陣は私から二十歩以上は離れた位置に現れた。
私はミツキの全身が現われきるタイミングに合わせ、短刀を投げ付けた。
一刀は扇により阻まれ、時間差で投げたもう一刀は掴み取られてしまった。
(術後に硬直時間はなさそうね……)
私は黄昏の剣を拾い。
ミツキは扇で防いだ一刀を拾う。扇は帯へと戻された。
ミツキの手元には、小規模な転移陣が現われる。
二つの短刀は、そこへ吸い込まれるように消えた。
すると、短刀より二回り小さい剣が複数、転移陣より迫り出し、ミツキの指と指の間に挟まる。
(え? 棒手裏剣? 遠投攻撃?)
ミツキは腕を交差させた後、フリスビーのように遠心力を乗せて手裏剣を放つ。
一投目は的確に私を捉えた。
手裏剣と黄昏の剣が衝突する。
巧く防ぐ事が出来た。
ところがそこへ、更に二本の手裏剣が迫るのだ。
よくある手だ。一投目は囮。
そしてこの二投目は、次への布石。
私は、敢えてその流れに乗り、転移魔法を行使した。
転移先はミツキの後方、数歩で斬り込める位置。
振り向きざまに放たれた三投目が、私を襲う。
転移先を読んだのか、キュリアの様に何らかの方法で感知したのか。
それは判らない。しかし実際、手裏剣は私へと向かい投げ放たれたのだ。
それも、左右合わせ残り三本全て。
一本は屈んで躱した。
一本は私の髪を掠る。
最後の一本は、運良く黄昏の剣の柄での撃墜に成功。
至近距離からショットガンを撃たれた気分だ。
だがそれを見たミツキの方が、驚愕していた。
「あれを――躱しますか。尋常ではありませんね」
放たれた手裏剣は各々転移陣の中へと消えていく。
リロード完了といったところであろうか。
「貴女には躱せて?」
私は流れを止めるべく、挑発をする。
「さぁ――どうでしょうか」
ミツキは冷静に落ち着いた声で返す。焦りの色はない。
それではと私は、ミツキの様に複数のナイフをアイテム収納から取り出した。
当然、やり返す為にだ。
「いくわよ? ミツキさん」
ミツキにプレッシャーを掛けるべく、声にする。
ミツキは直ぐに、二つの短刀≪羽々斬丸≫を手元へ戻し、身構えた。
私はミツキと違い、ダーツの様に肘を支点にし、投げ付ける。
同時に放たれた二本のナイフ。だがそれらは、袂を分かつ。
転移魔法により一本のナイフは目の前から消えたのだ。
同じ様な転移の術を持つミツキ。
背後から襲うナイフに気付いていた。
ふらりと体を揺らして、のれんの如く躱す。
が、しかし、その躱した先には既にナイフが放たれていた。
目の前で二本のナイフは同じ様に別れ、前後で挟まれる。
けれど、今回はそれで終わりではない。
続けざまに更に二本が放たれていた。
二本は目の前から消え、左右から襲う。
前後左右の活路が塞がれ、逃げ道が奪われる。
これでは上か下に避けるか、転移陣にて逃げる他はない。
選んだのは「上」だ!
真上へ垂直に飛ぶのだ。
前後の二本は難なく躱せた。
しかし、時間差で放たれた二本は絶妙にズレていた。
このままでは、着地する時に喰らってしまう。
「剣ノ舞」
左右のナイフは、なんとか短刀での迎撃に成功した。
その時だった。
「クイーンズ・プレッション」
第三波。
前後左右の四本に加え、更に八本。
計十二本のナイフが、立体的に十二方向より迫る。
これは無理だと判断し、直ぐに地面に転移陣を発動させて逃げた。
――私は、この瞬間を待っていた。
転移のタイミングが分かるという優位性は、絶大だ。
後は、位置を合わせるだけで済む。
ミツキが離れた位置の転移陣より出でる。
そこへ私は魔法にて転移した。
地面から現われている最中のミツキを、私は渾身の力を込めて斬り付ける。
しかし、手応えは無かった。これは想定外だ。
思わず、私はバランスを崩してしまう。
そこへ、転移を完遂させたミツキが反撃する。
フラつきながら、私は短刀を受け流す。
そして今度は、私が反撃をする。
今度は短刀で受けられたものの、手応えが確かにあった。
「何となく、その転移陣の秘密が……分かったわ」
転移が使える者同士の、転移をしない戦いが続く。
相手の転移能力を見極めるのだ。
似て非なる能力。
先に見極めた方が、圧倒的有利に戦闘を進められる。
ここからは探り合い。そして、化かし合いなのだ。
Eパートへ つづく




