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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第五章 5節   <21話>
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<21話>  「転移魔法」   =Bパート=


あでやかに紫く染め上げられた、紋付き袴は乱れていた。

主である魅憑鬼ミツキは、仲間二人が一瞬にして墜ち、相当に警戒している。

私はそんなミツキと対峙していた。


そこで、今ならば答えてくれるかも知れないと思い、質問をぶつける事にした。

「1つ聞いても良いかしら?

 ミツキさん……貴女の故郷は、遙か東の大陸の、そのまた東ではなくて?」


虚を突かれたのであろう。

質問に対し、ミツキは一瞬だが困惑した表情を見せた。

そして直ぐに冷めた表情へと戻り、えりに手をやる。

「今は此処こことは別の魔王の国と成り果てた――『終焉しゅうえん』でありんす」


(え? 別の魔王? 終焉……、つまり()()()の地?)


乱れた着物を直しつつ応じるミツキ。

冷めた表情で行うその仕草や声には、妙につやがあった。

私はせられ、剣の構えを一旦解く。


「それはもしかして日本国ジパング、あるいは遠東ひんがしくにと呼ばれているのではなくて?」


日本国ジパング――どこかで聞き覚えのあるような? あるいは、ないような?

 いずれにせよ日本国ジパング、そちらは違います。遠東ひんがしくにと呼ばれる事はありますが」



「機会があれば行ってみたいのよ……ね」


「――百鬼夜行の我が祖国に興味がおありで?」


「ええ、まあ……そうね」

(本当は、超々行きたいんだけれど!)


「でしたら、そういうお話はティーナとなされた方が」


「はえ?」

何故、そこでティーナの名前が出てくるのだろう?

ティーナは確かに江戸言葉えどことばを話している節がある。

江戸言葉は、自動翻訳システム機能の誤作動ではないのか?

誤作動ではない場合、それはつまり、ただ単に日本語であるがゆえに、自動翻訳されていない可能性を示唆する。


ではティーナはプレイヤーであり、日本人なのであろうか?

しかし、ティーナがプレイヤーなら、イリーナもプレイヤーという事に?


――いや、それはない。

ティーナもイリーナも、この世界の人間。私の様に別世界から来たとは思えない。



それとも、幼少の頃に別世界からやって来た?


――いや、それもない。

少なくともイリーナは、幼少の頃よりこの世界にいる。ティーナもそうであろう。


「ならば、何故ティーナは日本語を話すのだ?」





幾つもの疑問が生じ、幾つもの考えが浮かぶ。

疑問はやがて渦となり、考えを飲み込んでゆく。





「考えは――まとまりましたか?」

ミツキは着物を直し終えていた。私が独り熟考している間に。


「んー。貴女たちを倒した後、また考える事にするわ」

私は大げさな素振そぶりでおどけてみせる。


ミツキは優しく微笑んでいた。そんな表情を見るは初めてだ。

「それもは妙案みょうあんかも知れません――ね」




私が再び黄昏たそがれの剣を正面に構えると、ミツキも二つの短刀を構える。


一連の会話により、ミツキは冷静さを取り戻したようだ。

けれど、私はそれに見合う「情報」という名の対価を得たのだ。


――いつか、行こう。

麒麟のいる遙か東の大陸の、更に東にあるという「終焉しゅうえんの地」へと。

何か重要なイベントが起きそうな、そんな予感さえするの地へと。




黄昏の剣は不気味に赤く輝き、ミツキの短刀をぎょする。

重なり合うがさねのやいばは、美しいとさえ思えた。


幾度いくどか交差した。が、簡単に弾く事ができる。

ティーナの剣に比べれば軽かった。


同じ片手の斬撃であるのにもかかわらず、ここまで攻撃力が違うのかと思わされる。

それはただ単に、筋力的な問題なのか。

あるいはティーナの剣には覚悟からくる想いの強さが乗っていたからなのか。


さすがは『勇者』だ。――改めてそう思った。


しかしながら、ミツキの短刀は私の剣よりも速い。

今の装備は敏捷性(=AGI)に割と特化している。

それでいて、負けるのだ。


決してあなどってはいけない。

私がミツキの速さに対応し戦えているのは、斬撃の軌道が予想できるから。


そしてそれができるのは、ミツキとキュリアの戦いを観察していた為だ。

だからなのだ。

(ありがとう。キュリア……。貴女あなたのお陰よ。貴女の命、無駄にはしないわ!)


私は頭に浮かぶ予想した軌道に剣を重ね、鍔迫つばぜり合いへと繋げる。

そして、力で強引にミツキを吹き飛ばしてみせた。


「ホンに、かいちからでありんすぇ」

ミツキは両膝を突く。折角直したはかまは、すそまくはだけてしまっていた。


「え? それって怪力……、怪力女って事かしら?

 うら若き乙女のこの私が、よりにもよって……。何て事なの!?」


鬱憤うっぷんを剣に乗せ、私はミツキを薙ぐ。

二つの短刀にさえぎられるも、十歩分は地面をらせた。


「この世界の人たち……嫌いだわ。

 デカいとか、目が合っただけで殺されそうとか、ゴリラ女だとかーッ!」


「ゴリラ? それは魔獣の名なのですか? 聞いた事――ありませんが」


「こほん」

私は咳払いをする。

(あ、最後のは被害妄想だったかしら?)



Cパートへ つづく

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