<21話> 「転移魔法」 =Aパート=
MMORPGにおいて、占有型閉鎖フィールドでの短期決戦は最も熱いバトルだ。
決闘用のコロシアムとでも言うべきそこは、通常フィールドとは違い、時間や広さや人数の制限がある。
だからこそ、そこには様々な作戦や戦術が生まれる。
その内、複数対複数において最も多く使用される方法が『速攻型』だ。
開幕に最大火力をぶつけ、頭数を減らす。
強化魔法や特殊能力が切れる前に、ひたすら敵を削る。
漫画やアニメの様に出し惜しみはしない。
やらなければ、やられるのだ。
ピンチが訪れた時には、もう挽回できない状況な事の方が多い。
だからこそ、極力そのリスクを回避するのだ。
次に多い戦術が、最後に全火力を使う方法の『追い込み型』だ。
これは敵の数が少ない場合に用いられる事が多い。
漫画的な展開に思えるであろうが、実はその逆なのだ。
なぜならば、敵が終盤に使う強力な技の回数を抑制するのが目的だからだ。
例えば、敵がHPの四半分を切ると本気を出す演算手順で動くとする。
その場合、HPが四半分を切る直前に、全火力を使って畳み掛け、そのまま何もさせずに撃沈させるのだ。
この展開は、敵が本気を出す前に倒すので、漫画や小説ならば、残念ながら盛り上がりに欠ける事であろう。
他にも、これら2つを複合させた戦術や「ペット作戦」「ゾンビアタック作戦」と呼ばれる方法など、多岐にわたり存在する。
攻略方法を考える事は、MMORPGの楽しみ方の一つでもある。
時にそれは、開発側の想定を超える事さえある。
いずれにせよ、プレイヤーたちの努力と試行錯誤の末に、攻略法が築き上げられていくのだ。
さて私たちがこれから行う戦術は、堅い盾役や回避力の高い盾役が敵を引き付ける「おとり作戦」や、俊足な者が敵を引き付け誘い出す「マラソン作戦」に近い。
私が敵方の3名を引き付けている間に、仲間全員でティーナ1人を倒すのだ。
黄金に輝く聖剣と瘴気を放つ魔剣とが織り成す軌跡。
束ねられた金糸髪までも舞う。
青き鎧を纏し八英雄、キュリアだ。
銀と金が織りなす紋様が刻まれし剣は鎮座する。
桜の如き髪が咲き誇る。
何色にも染まらない純白の大盾と、そして鎧。勇者バレンティーナだ。
まずは、互角だった。
盾を持ったティーナは強い。
そして何より堅い。
鋼を相手に修練するような、まさに鉄壁の防御力だ。
「隙が無い……。リル殿はどうやって攻め入ったのだ……」
キュリアの剣が放つ軌跡は、その質が変化する。
織りの様な繊細な物から、鈍重な針金を編み込んでいる様な荒々しい物へと。
ティーナは大盾で、キュリアの一刀の剣を防ぐと、反撃した。
だがキュリアは、その反撃に合わせ、キュリアはもう片方の剣を繰り出すのだ。
互いの剣が、鎧ごと身体を切り裂いていく。
鎧を装備していなければ、瞬く間に致命傷だ。
キュリアは斬撃を身体で鎧で受けながら、反撃する。
ティーナの隙が無い剣技。そこから隙を作るべく、キュリアは動いた。
相打ち覚悟での攻めを始めたのだ。
まさに消耗戦だ。
ティーナは盾で身を隠しながら、自身で回復魔術を詠唱し、傷を癒やそうとする。
だがキュリアは、エミアスの回復魔術により、傷が既に癒えていた。
キュリアはすかさず、ティーナの回復を阻止する。
二刀の剣が執拗にティーナを追い詰める。
ティーナは回復魔術を中断し、剣と盾で防御した。
「邪魔しやがって。この、すっとこどっこい!」
辺りに雷鳴が轟き、エミアス目掛け落雷が降り注ぐ。
「םער」
怒りの矛先は、キュリアを回復したエミアスへも向かっていた。
「こいつぁ、しまっ……」
けれど落雷は、エミアスへと至らない。
魔剣師であるソフィアが防いだのだ。
ソフィアの腕は、大剣とは不釣り合いで、折れてしまいそうな程に細い。
だが、自身の身長よりも大きな大剣を、片腕で軽々と掲げていた。
それも空中で。
大剣を含めたソフィアの周りには、球形状の魔力障壁が張られている。
落雷は、ソフィアの方へと吸い寄せられ、そして弾かれ、地面へと往なされたのだ。
地面に着くシャボン玉の様に、障壁に守られながら着地するソフィア。
障壁は着地と共に弾けて消える。
着地したソフィアの足元では、エミアスの張った三重の魔術陣が起動していた。
ソフィアの髪はゆっくりと靡いている。
しかし、髪は直ぐさま靡くのを止めた。
ソフィアが大きく跳び、ティーナ目掛けそのまま斬り降ろしたのだ。
大剣が降り注ぐ。
ティーナは垂直に立っていた大盾を斜めに構える。
大剣と大盾が激しく衝突し、ティーナの盾は悲鳴を上げた。
大剣に込められた魔力は重い。
キュリアが攻撃している間、ずっと溜めていたからだ。
それまでキュリアに対し防戦をしていたティーナには、大剣を大盾にて防ぐ事により、更なる隙が生じた。
当然キュリアは、その隙を見逃さない。
背面に回り込み、二刀ほぼ同時に斬り付ける。
一刀は剣により受け往なされるも、一刀は確実にティーナの脇腹を捉えた。
鎧は大きく引き裂かれ、血は辺りを湿らす。
「ריפוי」
ティーナが唱えると、傷は瞬く間に癒えた。
それに付随し、追随して、鎧までもが修繕される。
「残っ念ん……。振り出しへもどる」
「むうぅぅぅ……」
ソフィアは小さき頬を目一杯に膨らませ、ただただ悔しがる。
しかし、キュリアは動揺を誘う為であろう。敢えて声にした。
「貴殿はそろそろ魔力が……枯渇してきたのではありませんか?」
ティーナはその問いには答えない。
不気味に口元を動かし、ニヤけてみせた。
Bパートへ つづく




