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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第五章 4節   <20話>
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<20話>  「勇者と聖女とオオカミ」   =Hパート=


付与した雷撃は、巨樹の化け物の全身へと駆け巡る。

行動不能スタンとなり、ただの巨樹と化している。

合成した剣は、まだ深く突き刺さったままだ。


「リーナちゃん、お願い! あと少しだけ……力を貸して」


一命を取り留めたリーナは、自己治癒を行っていた。

互いに魔力が枯渇し始めている。

それにも関わらず、リーナは力強くうなずいてくれた。


「一撃で、決めるわ!」

あたしはリーナの冷たくなってしまっていた手を握る。


「もう、終わりにしましょう」

リーナはそう言葉を添え、ありったけの魔力を渡してくれた。


魔力と共に、想いまでもが手を伝わってきた――そんな気がする。



「םער」(ラムア)



辺りに雷鳴がとどろくと、上空の白い雲が裂け、黒い雲へと置き換わる。

そして、落雷が降り注ぐ。


一撃必殺。


巨樹の化け物は、瞬く間に炭化した。

剣の刺さっている根元辺りからは、さらに炎が上がる。


しかし炭化した巨樹は、燃える事なくその場で消滅した。

周囲へと炎が燃え広がる心配はなくなった。

辺りには大量の灰が残り、巨大な紫色の魔石が埋もれている。



あたしとリーナは「もしかしたらペンネが無事なのでは?」と思い、かすかな望みを掛けて周囲を捜索した。

戦闘に集中していて、気が付けば花園から離れ、ずいぶん遠くまで来ていた。


そうして花園へとたどり着くも、結局ペンネは見付からなかった。


ペンネは天に召されたのかも知れない。

仲間のいる天国へと旅立ったのかも知れない。


――今は、祈ろう。目頭がヒリヒリする。



その後は話し合って、できの良いイリーナ作った花冠かかんをペンネのお墓に飾る。

お墓は聖母教の聖叉せいさに見立てた枝を、花園に突き立てて作った簡単な物だ。


「短い間だったけれど、ありがとう。ペンネ……」


あたしはこの日以来、剣の修行を欠かさないと、天国のペンネに誓った。





教会への帰り道だった。突然に、魔の存在を感じる。

あたしとリーナの魔力は、まだそれ程回復していなかった。


けれど、その心配は直ぐに消える。

感じている魔の存在は温かく、覚えのあるものだったからだ。



魔の溢れる森を、一陣の風が吹き抜ける。

春の妖精が森の奥へと訪れるように。


司教マザーはやって来た。金の髪は流れる。

吹き抜けた風を追い、さらなる風を背負い。


そして、風は目の前でぎとなる。


「貴女たち、無事だったのですね」


聞き覚えのある声。温かい声。

司教マザーであり、あたしたちの実質的な母親でもあるエミアスだった。


「もう……。心配させないで下さい。到着早々、きもが冷えました……」


エミアスはあたしたちを迎えに教会を訪れた。

すると、あたしたちが居ないと知る。その直後、森の奥で落雷が落ちたと。

修道女シスターのフリアから慌てて詳しい話を聞き、急いで駆け付けたそうだ。


シスターは教会に置いてきたという。

魔物に襲われた時に、護りきれないかも知れない為。



リーナはエミアスに深々と頭を下げる。

「ごめんなさい。私がいけないの。ティーナを叱らないで下さい……」


エミアスに会えた安堵感からか、リーナは泣いていた。

そのまま包み込む様に、エミアスは膝を突きリーナを抱き寄せた。


リーナがエミアスの前で泣いているところを、あたしは殆ど見た事がなかった。

泣きながらエミアスに、昨日と今日の出来事を話していた。

巨樹の化け物の事。そしてペンネの事。


「そうですか……。本当に……二人とも無事で、良かった」


エミアスは、悲しみに沈む青い髪を撫で、ゆっくりと立ち上がる。

「それにしても、オオカミの魔物ですか……」


「ペンネだよ!?」


「え?」


あたしは魔物という言葉に拒否反応を起こし、つい声を荒げてしまう。

「ペンネが勇気をくれたから、生き残れたの! 魔物だなんて言わないで!」


エミアスは突然に興奮したあたしに対し、戸惑いを隠そうとして、ぎこちない表情を浮かべる。

「ですが、魔力を帯びているのでしたら……」


巨樹の化け物との戦いによる恐怖。ペンネとの別れによる悲しみ。

それらにより、あたしの心は平常に保てないでいた。


リーナを危険な目に遭わせてしまった。

ペンネも死んでしまった。

目の前でリーナが泣いている。あたしが悪いのだ。

あたしの力不足が――。


そのやるせない気持ちを、感情の高ぶりから、母親のエミアスにぶつけてしまう。


「何で? あたしたちだって魔力があるでしょう?」


「ええ……」


「じゃあ、私たちも魔物なんじゃないの?」


エミアスは一呼吸置き、優しい声で語る。

まるで聖母様のように。

「巫女である貴女が、滅多なことを言うものではありませんよ」


エミアスは再び両膝を突き、あたしと視線の高さを合わせ、見つめる。

「よいですか――血に魔が混じっている私しか居ませんから大丈夫……ですが。

 『その様な考え方』を決して口にしてはなりませんよ。

 ここは聖母教の地であり、貴女は聖母教の巫女なのですから。

 まず、その自覚をお持ち下さい」


「マザー。ごめんなさい。でも、でも……」

あたしもリーナの横へ行き、一緒にエミアスの服へとしがみ付く。


「ティーナ、貴女は優しい……」

エミアスは抱きしめ、あたしの髪を撫でてくれた。


あたしは背徳感よりも、エミアスを困らせてしまったことを、悔やんだ。



「あのね。まざー。これ……」

あたしはスカートの中に隠していた、不格好ぶかっこうな花冠をエミアスへと渡す。


エミアスは花冠を受け取り、頬を濡らしながら被ってくれたのだった。






あれから、100年。

時代は移り変わり、魔の薄まった世界。



あたし――あたいは金髪の嬢ちゃんが向けた2本の剣を、盾と剣で防いでいた。

赤髪の鬼神ノ剣とくらぶれば、さして重い斬撃ではなかった。

けれど、気迫に気圧けおされて半歩分、足が下がる。


しかしなんとか半歩で踏み留まれた。

ペンネが最初に与えてくれた勇気を胸に。


これ以上は下がれない。

あたいはもう、勇気ある者……†勇者†なのだから。


立場は違えど、母親であるエミアスに無様な闘いは見せられない。

成長した、()()()を見せるのだ。



21話へ つづく

20話をお読みいただき、ありがとうございます。

未熟者ゆえ、連載に時間が掛かってしまいました。


第I部は終焉を迎えます。

あと暫し――、お付き合い下さい。

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