表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第五章 4節   <20話>
173/200

<20話>  「勇者と聖女とオオカミ」   =Fパート=


昨日と同じ道を辿たどったので、あたしたちは迷うことなく花園へ着くことができた。

違うところは、直ぐ後をペンネが追い掛け来ている事くらいだ。


花の冠は昨日と変わらず、小動物に荒らされることもなく、花園の大きな岩に被せたままだった。

岩の隙間から伸びた枝が影を作っている。その影の落ちた先に、花の冠はあった。


「良かったぁ……」


「良かった! ティーナちゃん、これでマザーに今日、渡せるね!」


「うん! 取りに来て、ほんと……良かった……。ありがと! リーナちゃん」


前日とはいえ、無事にまだあるのか、心配だった。

妙な不安があったのだけれど、気のせいだった。

きっと悪夢を見たせいだろう。心が落ち着かないのは。



ペンネと出会ったのも、この辺りだ。

怪我を負い、丸く小さくなっていたペンネを思い出す。


すると、いくつかの記憶が、川に投げた石のように飛び跳ねる。

生まれた波は、シスターフリアの呟いていた言葉へと及ぶ。


「魔物とはいえ、オオカミが群れでいないのはおかしい」

――たしか、そう呟いていた。



あの時、辺りにペンネ以外はいなかった。


ペンネは仲間と、はぐれただけなのか?

それとも、仲間は既にやられていなくなってしまったのか?


考え込んでいると突然、ペンネが吠えた。


「え?」「え!?」

あたしとリーナ、同時に出た二人の声が共鳴する。


「あり……えない……」

巨大な岩と岩の間から伸びていた木の枝が、動き出したのだ。



「もんすたー?」


リーナの言葉を聞き、あたしは戸惑う。

「え? 敵? 敵?」


倒れていた巨樹きょじゅが起き上がるという現象を前に、あっけに取られる。

ニョキニョキと伸びて、あたしたちの何倍もの大きくなるのを、ただただ見つめた。


そんな中、ペンネのみが勇猛果敢に巨樹きょじゅの化け物に立ち向かう。

ペンネは甲高い鳴き声で威嚇した!


すると何かが、花々を掻き分け勢いよく迫る。

鞭の様な風切り音を感じると、突っ立っていたあたしの真横をツルがうねり走り抜けた。


結果、ペンネの「きゃいん」という悲鳴が、不気味と静寂に包まれた森の方へまで響く。


「ぺんね!!!」


あたしの心は一瞬にして、怒りで満ちた。

ペンネはツルの一撃を浴び、ピクリともしなくなってしまった。

それも直ぐ近くで。



「הבהל」(レハヴァ)


怒りは魔力を通じて具現化ぐげんかする。

真っ赤に燃えた炎として。


けれど、その炎は言う事を聞いてくれなかった。

瞬く間に大きく燃え広がってしまう。


あたしは慌てて魔力を抑えた。

炎の塊はガスが爆発したかの様に、大きな音を立て、弾けて消える。


「なッ?」


森は魔で溢れていた。その影響があったのかもしれない。

だからか、感情の高まった状態で魔力を制御することが難しかった。


魔法は魔術と違い、込めた魔力量に応じて結果が変わる。

つまり、この森では威力の微調節が効かないのだ。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


あたしが一人でバカをやっている間に、リーナはツルに捉えられてしまった。

魔力を帯びたツルがリーナの身体に巻き付き、小さな身体を簡単に持ち上げる。


締め付けられ、苦痛に喘ぐリーナ。

悪夢と同じ声だ。

そんな声は聞きたくない。今度は夢ではないのだから。


けれど魔法で倒そうにも、加減が分からない。

さっきから弾けた炎の燃えカスが、あたしの鼻を突いている。

花園や森までも焼いてしまうのではという不安が頭をよぎるのだ。


そして、リーナまで焼いてしまうのではないか?

あたしは、それを一番に恐れた。


「だめだ。私にはできない……」


躊躇する。

僅かな時間だが、何も行動を起こせずにいた。


「あうぐぐうぐっ」


「りいなちゃん!!」


あたしは良い案が見つからないまま、行動に移る。

ただし、前に進もうとするも勇気が足りず、半歩後ろに下がるのだった。



Gパートへ つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ