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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第五章 4節   <20話>
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<20話>  「勇者と聖女とオオカミ」   =Eパート=


「やあああぁぁぁぁぁぁぁぁ、ああぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁ」


一つ隣にある祭壇さいだんからだ。


「んんーッ! ああああ、あぁぁっ! あああああ……ぁぁぁ」


悶絶もんぜつしているのは、傷口に塩を塗られても〝耐えろ〞と言われれば耐えるであろう、イリーナなのだ。


あたしは耳を塞ぎたくてたまらない。

でもそれは、手足が呪術的な鎖により自由を奪われていた為、叶わなかった。


血生臭い香りが鼻を突く。

臭いの原因は、イリーナの鮮血に他ならない。


悲鳴が止むと、浴槽より溢れ出る水のような音がした。

だがそれは水ではない。

祭壇から溢れ、垂れた血の音。

発する音より想像される血の量からも、尋常じんじょうではないことがうかがい知れる。

死ぬ程の鮮血を発し、死ぬ程の痛みを感じてなお、高度な回復術式により、生かされて、死なないのだ。



あたしは悲鳴を発しなくなったイリーナの方を向き、恐る恐る瞳を開ける。

美しく成長したイリーナ。幼女の面影は、僅かに残るのみだ。

イリーナは膝をつぼめて立て、足は広げ踏ん張り、必死に耐えていた。

青色の髪は自身の鮮血に浮き、不気味な紫の光沢を放っている。



生暖かい感触が、あたしの内ももを蝕む。

あまりの恐怖に、ぐしょりと濡らしてしまった様だ。

それも、気が付かないあいだに。


「……ぃ……ナ……」


声がうまく出ない。

どうやら、魔術による麻痺効果の影響下にある様だ。

感覚が極めて鈍い。


けれどその鈍い感覚の中、今度は全身に()を感じた。

身体が完全に痺れという感覚に支配され、いよいよ次は自分の番なのではないかと、思い始めた。


自分が自分でなくなってしまうのでは?

――という恐怖。


イリーナが邪神に飲まれ、自分も自我が崩壊してしまうのではないか?

――という恐怖。


怖い。神への生け贄になるのだ。


(た、す、けて……)




徐々に痺れは、僅かな痛みへと移行していく。

麻痺効果の影響で、感覚が麻痺しているのだが、それでもなお痛みを感じるのだ。


そして、その痛みに段々と慣れてくると、おへその辺りに温かい物を感じた。


(え? なに?)


するとどこからともなく、声がする。


≪ 怖がらないで、どうか受け入れて下さい。私を……。私たちを……。 ≫







身体が動かない、痺れの中、重い重い瞼を開けた。

すると、目の前には銀色の丸い何かがあった。


焦点を合わせよく見ると、その正体がペンネであることに気付く。

そう、あたしのお腹の上にはペンネが乗っていたのだ。


「え“!?」


どうやら、あたしは予知夢とでも言うべき、現実のような悪夢を見ていたみたいだ。


「ペンネ、きみかぁ。きみのせいで……って?」


あたしはペンネが乗っている温かいお腹よりも、内ももの辺りの湿った温かさが、より気になった。

そしてペンネを両手で持ち上げる。


「あぁぁぁ!! ペンネ、やってくれたねぇ!!」



「どうしたのです?」

隣のベッドで寝ていたリーナが起きる。


「見てよこれ……。ペンネがおねしょしてて……」


「おやすみなさい。むにゃむにゃ」

リーナは何事もなかったかの様に、再び眠ってしまった。


「えー。そんなぁ……。リーナちゃん助けてくれないのぉ!?」







――早朝。

あたしたち二人はシスターフリアの助言を聞かず、花の冠を取りに、森へと足を踏み入れた。

悪夢を見た記憶が強く、あたしはシスターの忠告をすっかり忘れていた。



『あの森には、昔から魔物が住み着いているとの噂ですから……。危険なのです』



Eパートへ つづく

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