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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第五章 4節   <20話>
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<20話>  「勇者と聖女とオオカミ」   =Dパート=


「るんるん~♪」

リーナの鼻歌が、お風呂場に響く。


脚を一本一本、丁寧に洗っていた。

半固形のシャボン液が脚にねっとりとこびりつく。

シャボンの持つほのかな薬草の匂いが辺りに充満する。


「リーナちゃん、私が洗ってもイイ?」


「う……うん。じゃあ、お願い。

 あのね、優しく……だよ……。そーっと……だよ……」


「うん。わかった……。いくよ、リーナちゃん……」



「あっ」


「ゴメン、痛かったかなぁ? リーナちゃん」


「多分……、大丈夫」


「リーナちゃん……。だって凄く脚、細いんだもの」


「もう……。気を付けてね、ティーナちゃん」



「んー。どうかな? このぐらいの強さなら」


「うん……。ちょうどいいかも」



あたしは今度は慎重に、優しく、細い脚を洗っていく。

この……毛むくじゃらな脚を。

そう、ペンネの毛むくじゃらな細い脚を。



あたしとリーナは、お風呂場でペンネを丸洗いしていたのだ。

香草の匂いがする半固形のシャボン液を使い。


初めはおとなしく、すがままのペンネだった。

けれど、野生の動物――野生の魔物だからか、途中から嫌がりだした。


自分の匂いが消え、更に薬草の匂いが体に染み付く。

それが嫌なのかも知れない。


二人がかりでようやくペンネを洗い終えると、あたしたちも汚れを落とすことにした。


ペンネはお風呂から出ると、体全体を振り、水飛沫を周りへ飛ばしていた。

そして一生懸命に、体を布に擦り付けたりもしていた。


お風呂で綺麗になった後、あたしたちは夕食を取り、床に就いた。

もちろん、ペンネも一緒だ。





「ねぇねぇ、起きてる?」

あたしは大っきなヒソヒソ声で、隣のベッドに寝ているリーナに話し掛けた。


「なになに? 起きてるよー」

リーナは掛け布団から頭だけを出し、ヒソヒソ声で返す。


「マザーに会えるの、楽しみだねっ! 明日には会えるかも知れないねっ!」


「うん。私も楽しみー!」


そして、あたしはある事を思い出す。

「そういえば、花の冠……。せっかく作ったのに、置いて来ちゃったぁね……」


「また作ろうよ」

リーナの声は嬉しそうだった。

一緒に作ったのが、よっぽど楽しかったのかもしれない。


でも、あたしの思いは違っていた。

「明日、渡したかったなぁ」



少しの魔力の流れを感じると、部屋が明るくなった。

リーナが魔術で光をともしたのだ。


「じゃあさ、明日、取りに行く?」

リーナはベッドから身体を起こし、こちらを向いていた。



「それも、良いかもしれないね」

あたしも起き上がり、そう答えた。



「明日、マザーをビックリさせたいね。

 ねぇねぇ。ティーナちゃんは次の目的地、どこだと思う?」


「一度、総本山に戻るんじゃないかなぁ?」


「あぁ、言われてみれば……そうだね。ティーナちゃん冴えてるね」


「そっ、それほどでも……」

リーナに褒められたあたしは、顔が火照る。


「……という事は、アトリ様にも会えるね」


「アトリ様かぁ……」

その名前を聞いて、あたしは複雑な思いがした。



聖母教にはあたしも含め、3人の巫女がいる。


あたし、バレンティーナ。親友、イリーナ。

そして、あたしたちよりも先に神の依り代となった、アトリ様だ。


アトリ様にあまり良い印象はない。

「依り代となられた後、ちょっと怖くなった……」


リーナは眉をしかめる。

「力を持つ者としての重圧でしょうかねー?」


「あたしも……、ああなっちゃうのかなぁ? 嫌だなぁ……」


「何かあったら、私が助けますよ。私も一緒に依り代になるのですからね」


リーナの真剣で、でもそれでいて優しい声は、あたしの胸を温めてくれた。



「でも、まだ少し怖いよぉ。神様が入ってくるって、痛いのかな? 痛いのも嫌だなぁ」


「アトリ様に会ったら、聞いてみましょうか?」


「えー。でも、それで痛いって判明したら……。

 儀式までずっとずっと、あたし、怯えていそうだなぁ」

 

「じゃあ、止めときますかー。私も聞きたくなくなってきちゃったし……」



Eパートへ つづく

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