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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第五章 4節   <20話>
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<20話>  「勇者と聖女とオオカミ」   =Cパート=


「なかなか食べないね……」


「そう……だねー」

リーナも困った顔をしている。

干し肉を食べさせようとしたのだけれど、オオカミは匂いを嗅ぎペロリと舐めるだけで、食べなかった。


仕方ないので、あたしは厨房へと向かった。

何か余っている食べ物がないか、誰も居ない厨房内を探す。


そして、小さなチーズと、ペンに似た形のパスタを手に入れ、リーナのいる中庭へと戻った。



「どう? 何か、あった?」

リーナは目を輝かせ、期待の眼差しを私に向けてきた。


その期待に応えるべく、握っていた手を開き、リーナに見せた。

「うん。えっとね……これっ」


右手にはチーズ、左手にはでたパスタ「ペンニ」が。



あたしはかがみ、まず最初にチーズをオオカミにあげてみる。


「ひやッ」

右手ごと、オオカミはチーズを舐めくる。

ねっとりとした唾液が手に付くも、チーズはそのままだった。

「これも、ダメかぁ」


諦めず、あたしは左手を出す。

暫く握っていて、生暖かくなったペンニ。

オオカミは鼻を、あたしの手の平に擦り付けると、そのままパクリと食べた。


「やったね! ティーナちゃん!」

リーナは両手を合わせ、無邪気に喜ぶ。


「くすぐったい……よぅ」

手にあるペンニを全て食べ終えると、オオカミは名残惜しそうにあたしの手を舐めてきた。

左手はヨダレと、握っていた時の汗とで、ベタベタになってしまう。


けれど、あたしは左手より気になる事ができていた。

「ねぇねぇ、この子の名前なのだけれど……」


「あ、私も同じ事を考えていたのー!」


あたしは立ち上がり、リーナを間近で見つめる。

本当は手を握りたかったのだけれど、ベタベタなのでそれは止めた。

でも、心の中では握ってた。そうして訴えた。


「リーナちゃん、ペンニが好きだから『ペンネ』って名前にしようよ!」


「うんうん。一緒一緒。私も思い付いたの……同じだよー!」


リーナとあたしは、意気投合して、ついつい声が大きくなる。

さらに食べ物を与えることができた喜びを共有した。



「おや、まぁ。にぎやかで」


突然、聞き覚えのある声がした。

夢中になっていて、気が付かなかったけれど、あたしたちの声は中庭に響いてしまっていたみたいだ。


「ふっ……フ……」

あたしは焦ってしまい、上手く言葉が出なかった。

反射的に、ベタベタになっていた手を後ろに隠す。

服では絵を描く時に使う調色板パレットの様に、森での土と手よりのベタベタとが混ざり合ってしまう。


「シスター・フリア様。ごきげんよう」

あたしの代わりにイリーナが挨拶を交わしてくれた。


フリア、正確にはフローリア。

修道女なのだけれど、この教会で司祭の次に偉い。

そして、あたしは……怖かった。


「ご……ごきげんよう」

私は下を向いたまま、挨拶を口にした。


「シスター。今朝は、ありがとうございました」

リーナはそんなあたしとは対照的に、ハッキリとした口調で喋る。


フリアはこちらへと、ゆっくり歩いてくる。

「どういたしまして。ですがイリーナ様……。二人で森へ行ってはいけませんよ」


そう言われ、ドキっとしたあたしは、不意に視線を上げた。

するとフリアと目が合う。


「あの森には、昔から魔物が住み着いているとの噂ですから……。危険なのです」


あたしは、見透かされたように言われ、再び下を向く。

けれど、またしても目が合ってしまった。


目が合った相手は、あたしの足元にへばりついていた。

下げた視線の先にいたのは、命名したばかりのペンネだった。


フリアはあたしの視線を追ったようで、足元への視線を感じる。



「ま、まっ、まっ、魔物ではないですか!?」


あたしはフリアの言葉に驚き、フリアの方へと振り向く。

フリアの声は上ずっていた。そして初めて見る表情をしていた。


常に冷めた様な言葉を投げかけてくる印象のフリア。

こんなに慌てて取り乱しているのも、初めて見る。



「オオカミだよ?」

あたしはフリアを安心させようとしたのだ。


だけれど、フリアは直ぐに強い口調で否定した。

「これはオオカミなどではなく、魔物や魔獣の類です。

 魔力を帯びているのですから」


フリアは目を覆い隠すように手を当て、何かを考えている。

手を戻した時には、いつもの冷静沈着な表情に戻っていた。

「なぜ、魔物を連れ帰って来たのですか?」


あたしはとっさに、反射的に謝った。

「ごめんなさい。ごめんなさい……」


リーナがそんなあたしの代わりに答える。

「怪我をしていた為、傷の手当てをしたので……」

今にも泣きそうなあたしと違い、リーナの声は、落ち着いたものだった。


「でも、怪我が治ったのならば、その魔物は人を襲うかもしれないのですよ?」

フリアの冷めた声が、静かな中庭に不思議と響く。


「ペンネは、そんなことしないよ! それに魔物でもこんなに可愛いんだよ」

あたしはペンネを護る為、ちっぽけな勇気を足元の温もりから絞り出した。


ペンネは初めて出会った時のように、あたしの足と足の間から、頭だけを出す。



「か……」

何かを呟こうとしたフリア。今度は顎に握った拳を当てて考えている。


「分かりました。とりあえず、一晩保留とします。

 どう対処すべきか、司祭様と相談の上、明日の朝、伝えます。

 ただし、『明日、森へ帰す』……それが前提ですからね。

 おそらく明日は私が付いて行く事になるでしょう。

 貴女たち二人では危険ですし、貴女たちに何かあったら大変ですから」


「今日は、どうすれば……」

リーナが率直な疑問をぶつける。


「まずは夕食の前に、その清楚ではないお召し物を、取り替え下さい」

フリアは、はぐらかす様に答えた。


だからあたしも聞いた。

「えっと、もしかして……今日はペンネと一緒に居ても良いの?」


「仕方……ありませんね」

そう言うと、フリアは顔を横に伏せた。


あたしはペンネを足に挟んだまま、フリアの顔を覗き込む。

フリアは凄く優しい顔をしていた。

あたしたちには普段見せない顔だった。


「ふろーりあ様、だい好きっつ」



Dパートへ つづく

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