表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第五章 4節   <20話>
168/200

<20話>  「勇者と聖女とオオカミ」   =Aパート=


流した涙の数だけ、人に優しくなれる?

それなら涙の枯れてしまった、あたしは――。


最後に泣いたのは何時いつなんだろう?


リーナちゃんがさらわれた時?

うんん。あの時に支配していた感情は「怒り」。


()()()を倒した時?

うんん。あの時に支配していた感情は「嫌悪」。


最後に泣いたのは――何時だろう?



非力だったかつてのあたしは、リーナを守れるよう強くなりたかった。


そう。初めはただ、護りたかった。


そして世界の重みを一人で背負うリーナを、助けたかったんだ。

だから、「あたしも一緒に背負うんだ」と。

そう決めた日から、あたしは……()()()は――



幼い頃の思い出は、憶えている。リーナとの大切な思い出だから。


あれは、今より世界に魔が溢れていた時代の、花咲き乱れる季節の事だった。


リーナ――つまり後に聖女となるイリーナと、()()()――バレンティーナは、地方の教会に一時期、身を寄せていた。

今はもう存在しない国だ。



幼き日のリーナに、あたしは憧れていた。

優しくて明るく活発な女の子。

透き通る宝石の様な青い髪に、水銀の様に輝く瞳。

その瞳があたしへと向く。


「ティーナちゃんも一緒に行こうよ」


「えっと……その。……うん。一緒に……」

見つめられ恥ずかしくて、あたしは口籠くちごもり、声も小さくなってしまう。


リーナは笑顔で、そんなあたしの両手を握るのだ。

修道女シスターがね、教えてくれたの。お花のたくさんある場所を」


あたしは直視できず、少し目をらす。ほおが少し火照ほてる。

「そ、そう。あのシスターがねぇ。よく聞き出せたねぇ……」


嬉しそうに一歩踏み込むリーナ。

身を乗り出し、顔が直ぐ近くまでやって来た。

「もう直ぐね、司教様マザーがお迎えに来て下さるから。

 もう直ぐね、お別れだから。良いよーって!」


「リーナちゃん、いい香り……」

あたしは思ったことをつい、口走ってしまった。

その事が恥ずかしく、口を押さえて隠したかった。

でも両腕は今、リーナに誘拐されてしまっている。

口をあわあわさせて、やり場のない羞恥心を飲み込むこともできない。


「そうなの! ティーナちゃん! シスターとお花を飾る手伝いをしていたの。

 それでどこで摘んできたのかを聞き出せたの!」

リーナの顔が更に近づき、おでこ同士はくっ付く程の距離まで迫っている。


おでこが何だか、もわもわした。


あたしは流石に、迫り来るリーナを見つめ返してしまう。

リーナの瞳に映るあたし自身の姿を見付け、慌てて直ぐに視線を落とす。

落とした先には、小さな唇があった。


「だから、いい香り……なんだね」

あたしがそう言うと、リーナの唇は遠ざかっていく。

するとようやく、あたしは両手を解放された。


閉ざされているリーナの唇は、今にも「えへん」と言いそうだ。

リーナは腰に手を当て、片目を閉じ、あたしを満足気まんぞくげに見つめるのだった。




そうして、あたしたちはシスターに何も知らせず、こっそりと森の奥へと向かったのだ。


青々とした草木は影を落とし、日の光は僅かしか届かない。

木々が魔力を帯びているわけでもないのに、森全体にはうっすらと魔が存在している。


「ティーナちゃん、これだけ草があると、へびとかを踏みそうだから気を付けて」


「はうぁ。リーナちゃんっん、怖いよぉ。出てきたら助けてぇ」


怖くなり、あたしはリーナが差し伸べてくれた手を握る。

それでも得体の知れない恐怖がまだ残り、リーナの腕にしがみつくのだった。


しがみつかれたリーナは、歩く速度が落ちる。

小さなあたしたちは、進むのに草を踏み分ける必要があった。

奥へと行くにつれ、草が行く手をはばむのだ。


「うー。草の臭いがスカートに付きそう」


「あぁ。そうだぁねぇ。リーナちゃん、折角お花の良い香りだったのにね……」

すると、あたしは歩みを止める。靴越しに何かを踏み付けた感触がしたのだ。


「きゃああぁぁああああ。あわわわあわ」

甲高い悲鳴を上げ、必死にリーナに抱き付いた。


「もう。びっくりしたよお」

リーナは右のまゆ辺りを指でかきながら、視線をあたしの足元へ向けた。


あたしはその視線を追いかける。

足元にあったのは、ただの太い大木の根だったのだ。


安心し恐怖が過ぎ去ると、無性に恥ずかしくなってきた。

抱き付いていたあたしは、リーナを解放すると、少しだけ距離を取った。

足元に気を付け、目を向けると、そこには木の枝が落ちている。


あたしは枝を拾い、杖にしようと拾い上げた。

枝は太く、思いの外に丈夫だ。

「リ、リーナちゃん。あたし、もう一人でも平気……だよ」


手の震えを杖に閉じ込めて、あたしはリーナを先導した。

杖で草を分けて進むと、暗い森の中で一際ひときわ明るい方向があった。


自然と導かれるように、そちらへと歩んで行く。

すると森が一端拓け、様々な色の花たちが、あたしたちを出迎えてくれたのだ。


あたしは持っていた杖を放り投げる。

心奪われ、花園に魅せられてしまったのだ。



Bパートへ つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ