表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第五章 3節   <19話>
166/200

<19話>  「英雄vs勇者・後編」   =Gパート=

加筆校正いたしました。2019.11.03



聖母教大司教エミアスは、災厄の魔女と呼ばれる死霊使いイシズと対峙していた。

「まさかこのような形で、あいまみえようとは」

純白のローブに包まれて、エミアスは背丈程の長い杖を斜めに構えて続ける。

「あのお伽話とぎばなしは、千年も前の物。そのはずです」


「知ら……ない。興味……ない」

イシズは本当に無関心なのであろう。冷たい声でそう呟いた。

身にまとっているのはエミアスとは対照的な、黒いローブであった。

金の糸で縁取りと刺繍がなされており、何処かの姫君なのかとも思える。


「なるほど。お伽話とぎばなしの真相を問うなど、妖精に説法せっぽうくのと同じく……。

 意味の無い事でしたね」

エミアスは険しい表情でイシズを見つめ、更に告げた。

「ですが、貴女の力は『この世の摂理』――そうそれは神の意向にそむく行為です。

 聖母教の司教としても、見逃す訳にはまいりません」


この世の摂理とはつまり、死後に肉体が天へとされるシステムだ。

召されてしまったら、甦生そせい魔術でも生き返らせる事はできないのだ。

だがイシズの持つ能力は、この世の摂理を超越している可能性がある。

そうエミアスはにらんだのだ。

「――司教として死者を冒涜ぼうとくする行為、許せません」


「どうでもイイ……」

イシズは覆っていた黒い外套の前部を開け、白い髪を腕に掛けて出しなびかせた。

外套の中には黒い半透明の服を羽織っており、白い下着と褐色の肌が透けている。

褐色の谷間と、それを支える僅かな純白の布が一際ひときわ目を引く。

そして妖艶さをただよわせていた。


「なッ! なんと、破廉恥はれんちなのです」

エミアスは口を開け放ったままであんぐりとし、眉間にシワを寄せるのだった。



外套の中にイシズは、二本の杖を忍ばせていた。

一本は小さな三本の脚が付き胸元まで伸びる細長い杖。

もう一本は聖母教の聖叉に輪が付いた短く太い杖だ。


そのうちの短い輪聖叉わせいさを、イシスは胸元へと手繰たぐり寄せる。

輪聖叉は輝きを放つと、紫黒色しこくしょくの闇が光りを飲み込む。

ちた腕が現われ、その数は瞬く間に十本を超えた。

それらは人の物にはあらず、動物というより植物、樹海じゅかい芽吹めぶく木々の様である。


無数の朽ちた腕、それらがエミアスを目掛け勢い良く伸びて、突き進む。

エミアスは身体を反らす。そして大きく避けた。


イシズはそれを見て、長い方の杖をかかげる。

すると朽ちた腕は直ぐに向きを変え、大きく避けたエミアスへと迫ったのだ。


エミアスは防壁魔術を素早く唱え、朽ちた腕を防いだ。

腕は障壁へと打ち当たり、障壁は紫色の血にまみれる。


更に何本かの朽ちた腕がエミアスを襲う。

蛇の様に地面をい、そしてエミアス目掛けて跳ねるのだ。


こう けん  じゅつ

エミアスが構えている杖、その先端より青白い光がでる。

光はやり刃先はさきごとく鋭利にとがる。


迫りくる何本かの朽ちた腕をエミアスは薙いだ。

朽ちた腕は、一振りの元に斬り裂かれたのだ。

斬り裂かれて尚、朽ちた腕は地面でモゾモゾとうごめいている。

エミアスはそれらに対し、何かの術を唱えた。

すると朽ちた腕は塵一つ残さずに直ぐさま消滅した。



光鑓こうけんと化した杖を前面に押し出し構えるエミアス。

イシズの魔力を吸い、輪聖叉が輝き始める。すると、朽ちた狼の魔獣が現われる。

その数、三体。

狼の魔獣は四本の脚でゆっくりと歩み、光鑓が持つ間合いの外で止まった。


エミアスはそれらに対し光鑓を構えたまま、詠唱を開始する。

「中位範囲回復魔術」


術の発動と共に聖なる癒やしの光りが現われ、三体の狼が一瞬にして消滅したのだ。


イシズはつまらなそうに呟いた。

「相性の問題……」


しかし、だからといってエミアスが一方的に攻められる訳でもない。

エミアスも攻めあぐね、近付けないでいたのだ。


イシズはなかなか攻めてこないエミアスの様子を見て、輪聖叉にそれまでとは比較にならない量の魔力を込める。


すると禍々しい漆黒の瘴気と共に、それまでよりも遙かに大きな何かが現われた。

それは巨人の物の様であり、竜の物の様でもある上半身だった。

下半身はドロドロに溶けており、何の生物なのかを判別する事は難しい。

醗酵しているのか、蒸気を発しており、腐敗臭が辺りにも漂ってきた。


「これは本気を出す必要がありそうですね」

エミアスはそう告げると、純白のローブを一気に脱ぐ。

ローブはふわりと、音を立てずに地面に伏せる。

胸元の開いた服、ピタリと張り付いたスカート、肌を大きく露出させたエミアスの姿がそこにはあった。


「最近の……若者は……」

イシズはエミアスの格好を見て、首を横に振り、なげいていた。

目をそむけたまま、イシズは長い方の杖をかざす。

腐った上半身は呼応し、口を大きく開ける。

そして、吐息ブレスを放った。


瘴気の混ざった吐息ブレス、エミアスは光鑓を両手で持ち、魔力障壁を発生させて防ぐ。

暫くすると、腐った上半身は体勢を崩し、軌道が変ってしまった。





「わっ。わっ。つか、くっせーーッ!! なッ。オイ!?」


吐息ブレスは軌道が変わり、勇者バレンティーナに直撃した。

ティーナは大慌てで背にあった大盾を装備し、防いでいたのだ。



私は、直ぐにティーナから遠ざかった。


「臭ッ」

そう、物凄く臭かったのだ。



Hパートへ つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ