<19話> 「英雄vs勇者・後編」 =Fパート=
「仕方がありません。秘技――お見せ致しましょう」
ミツキは扇を畳み、帯へと戻す。
そして袖の中へと両腕を入れると、短刀を取り出した。
鞘は落ち、カランカランと乾いた音を立てる。
短刀は真っ直ぐで、刃先は諸刃となっている。
それが左右に二つ。ミツキは双剣使いであったのだ。
「ご賞味下さい。わちきの『剣の舞』――」
距離を詰め、迫るミツキ。
キュリアの持つ剣は、短剣よりも長い。だがミツキは身長のある分、腕が長い。
結果的には、キュリアの方が剣の届く範囲は広かった。
ミツキが攻撃を当てる為には、より内側へと侵入しなければならないのだ。
キュリアの剣による二刀流と、ミツキの短刀による双剣が衝突する。
黄金の剣と魔剣が上段から同時に降り注ぐ。
それらをミツキは短刀の手元付近で受け流した。
しかしその衝撃音は軽く、既に次へと移っていた事を示す。
二つの剣が水平に押し寄せる。
それらをミツキは刃先を下に向け、当てて軌道を逸らす。
互いの剣がハの字に交差し、膠着してしまう。
見つめ合う二人。紫の瞳と黒の瞳より発する視線は絡み交わる。
キュリアの剣には追撃効果がある。だが、先に退いたのはキュリアの方だった。
そして、停まった二人の時間を動かしたのもまた、キュリアであった。
キュリアは先程とは異なり、右の剣を振り下ろす。
さらに時間差で、左の剣は手の甲を返さず、右へと薙ぎにいった。
それは初動のない「無拍子」であった。
振り降ろした右の剣は、左足で踏み込み身体を横にした体捌きで躱されてしまう。
だが、躱した先で待ち伏せているのは、無拍子で放った左の剣なのだ。
左の剣はミツキの短刀と激しくぶつかり合い、火花が走る。
キュリアは、回転し勢いの止まらないミツキの身体を鎧で受けた。
再び膠着する。先ほどの膠着は向かい合ったままであった。
だが今度は、キュリアがミツキを後ろから抱きしめる様な体勢なのだ。
背の高いミツキの黒髪により、キュリアは視界を遮られている。
また左右の剣は、同じく左右の短刀で防がれている。
どうやら純粋な腕力では、ミツキの方が勝っているのかもしれない。
すると、一瞬にしてキュリアの視界から黒髪が消えた。
気が付くと、蟹の挟みで抓まれたかの様に、横から両足で挟まれていた。
更に鎧の肩口を掴まれると、受け身の取り辛い体勢のまま後ろへと倒される。
キュリアは後頭部を床へと叩き付けられてしまったのだ。
鎧に襟がなければ、おそらくそのまま短刀が喉に達していた。
そして防御魔術がなければ脳震盪を起こし戦闘不能になっていた。
ところが、膝を折り仰向けに倒れたキュリアから、ミツキは直ぐに離れたのだ。
秘密はミツキ首元で輝く、剣の存在にあった。
倒されながらキュリアは、ミツキを狩りにいっていたのだ。
ゆっくりと起き上がるキュリア。ゆっくりと距離を取りつつ立ち上がるミツキ。
その後も、二刀流と双剣の鬩ぎ合いは続いた。
同じに見えた互いの戦闘様式。だが、その違いが徐々に出始める。
半身になった時の身体の角度も、その一つだ。
キュリアの構えは現在真横に近く、ミツキの構えは正面に近い。
キュリアは上段に構え、ミツキは中段寄りに構える。
キュリアの剣には静と動があり、最短距離で獲物を仕留めに来る。
ミツキの短刀は弧を描いて迫り、遠心力が乗っている。
弧を描いている為、軌道を読みやすくはある。
だが、連撃が多く更に双剣であるが故、読めていても反応し辛く厄介なのだ。
幾度かの攻防の後、背後を取ったキュリア。あるいは取らされたのか。
右の剣をミツキが背中に回した二刀で受けた時だった。
忽然とミツキの姿が消えた。
ただ視界から消えたのではない。本当に姿が消えたのだ。
そして床には魔術陣だけが残る。
ミツキはキュリアの背後、床から音を立てずに、ぬるりと現われる。
しかしキュリアは、既に魔剣グラムを鎧の左肩上部から回していた。
背中に迫る二本の短刀。それらを肩当てに乗せた魔剣で防いだ。
更に逆手に持った黄金の剣でミツキを突く。
「私への魔術陣を使った転移攻撃は……奇襲たりえませんよ」
「なるほど。初見でこれを防ぐとは――お見事です。賞賛に値します」
足運びで突きを躱したミツキは、距離を取って再び構える。
「なるほど。では、こういうの嗜好はいかがでしょうか? 剣舞『羅刹ノ舞』」
キュリアも応戦する為、右の剣を上段に構える。
「私は、食が細いもので……あまり気が進みませんね」
ミツキは楕円軌道で迫るも、ふらりと読みづらい動きで距離を詰めた。
「喰らいなさい――」
“八連撃”
何発かが鎧ごとキュリアを斬り裂く。
キュリアも何回かの反撃をミツキへと入れていた。
あまりに速い八連撃の為、斬撃は殆ど見えず、音さえも後から追い掛けていく様な錯覚さえ起こす。
だがしかし、互いに傷を負わせる事に成功するも、戦闘は進展しないのだ。
「中位回復魔術」
キュリアの傷は、直ぐさま回復する。
「治癒の舞」
ミツキも片手で短刀二本を持ち、帯から扇を抜くと、傷が癒えていた。
キュリアの鎧は、青く光り自動的に修復された。
ミツキの着物も、いつの間にか直っていた。
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