<19話> 「英雄vs勇者・後編」 =Eパート=
お待たせ致しました。風邪はだいぶ治りました。ご心配をお掛け致しました。
キュリアは魅憑鬼と対峙していた。
「ティーナと戦いたかった――のでは?」
「貴女を倒したら、次に戦いますよ」
キュリアは青い鎧に金髪。対するミツキは紫の紋付き袴に黒髪。
『獅』対『虎』あるいは、『竜』対『龍』といったところであろう。
ミツキは和風の舞傘をゆっくり畳み、微笑む。
「そうですか。残酷――ですね。わちきに勝てず、果たせないのですから」
キュリアは右腰に差している魔剣を抜き放つ。
左手で抜かれたそれに、右手を添える。魔剣は直ぐ瘴気に包まれた。
「言いますね……」
ミツキは舞傘の柄に両手を添え正眼、つまり正面に構える。
「そちらこそ――」
どうやらミツキは、傘で戦う気の様だ。
必然的に魔剣と舞傘は衝突する。金属同士の様な衝撃音を発生させて。
その音だけで、只の傘ではないと想像が付く。
だが魔剣グラムも当然、只の剣ではない。
魔剣の持つ瘴気が、傘を蝕むのだ。
瘴気により、舞傘の持つ艶やかな色彩は変貌を遂げる。
ミツキは舞傘で、強引に魔剣を薙ぎ払った。
「戦闘が長引くのは――得策ではありませんね」
キュリアは魔剣を構え直し、距離を詰める。
魔剣と舞傘が再び重なる。だが今度は一瞬で離れるのだ。
舞傘は魔剣を往なす。そして重い突き技にて、キュリアを鎧の上から襲う。
「ぐっはッ……」
苦痛を声に出し、一瞬だがキュリアは動きが止まる。
隙を見い出したミツキは、舞傘を両手で開くと、その状態で回転させる。
舞傘は回転するノコギリの如く、高音をがなり立ててキュリアを襲った。
キュリアは剣で咄嗟に防ごうとする。
しかし力無く、簡単に剣を弾かれてしまった。
先ほど喰らった突きにより、呼吸が儘ならなかった為であろう。
キュリアには、もう一本の剣を抜くという選択肢が残されていた。
ところが、それを選ばなかったのだ。
力の籠らない剣ではなく、別の選択肢を選んだ。
それは『魔術』だった。
キュリアによる「ファイア・キャニスタ」の詠唱は一瞬で終わる。
至近距離から出現した数十の火弾がミツキへと迫るのだ。
先の戦いで黒魔術師の魔将が放ったのと同様、相当な熱量を有している。
火弾はミツキの回転させた舞傘に衝突し、焦げた臭いが辺りへ充満する。
舞傘により弾かれ四散させられてしまったのだ。
それでもミツキをその場に足止めさせるには十分だった。
その隙に、キュリアは魔剣グラムを拾い上げられたのだから。
ミツキは舞傘を閉じると、尚もキュリアを襲う。
魔剣は攻撃を受け止め、瘴気を浴びせ返す。
そして幾度かの攻防の後、それは訪れた。
キュリアは魔剣を逆さにし、舞傘を防ぎつつ二本目の剣を抜いたのだ。
抜かれた剣は黄金に輝きを放ち、抜いた勢いのままに舞傘を薙ぐ。
庭鋏のように交差する二刀。一瞬にして枝である舞傘を斬り裂いた。
そうして斬り落とされた舞傘の先が発する鈍重な衝突音。
それが発せられるよりも早く、黄金の剣がミツキを襲う。
ミツキは帯から瞬く隙もない程、素早く鉄扇を抜く。
逆さで閉じた状態のまま、黄金の剣を防いだのだ。
だがそれだけで終わりではない。
キュリアの二刀目、魔剣グラムの突きがミツキを襲う。
『扇の舞・玄武』
突如、鉄扇が青い光を放つ。
開かれた鉄扇は魔力を帯びると、玄き液状の盾を瞬時に形成する。
そして、キュリアを身体ごと弾いた。
間合いが開くとミツキは、斬られた舞傘を投げ放つ。
更に、空いた左手を右肘に当て鉄扇を振るう。
すると、炎を帯びた旋風が出現した。
それはさながら西遊記に出てくる芭蕉扇の様であり、振るうミツキは持ち主である羅刹女、鉄扇公主の様である。
だが炎を帯びた旋風は、キュリアまでは届かない。
岩で出来た壁が現れ、ただの炎と化したのだ。
その炎も、魔術により現われた金属製の盾により遮られる。
キュリアは更に詠唱を重ねる。
一瞬にして、新たな「岩壁城壁」が掛るのだった。
それを見て、ミツキは気怠そうに言い放った。
「厄介ですね。そして――二刀流ですか」
Fパートへ つづく




