<19話> 「英雄vs勇者・後編」 =Dパート=
咳の風邪をこじらせ、執筆が遅れています。申し訳ございません。
「姉さま、見ていて……。姉さまの戦いを見ていて、気合入った。私」
ソフィアは漆黒の炎を宿した大剣を軽々と、片腕で掲げる。
子どもの様に細い腕は、魔力により強化されており、信じられない程の怪力を発揮するのだ。
だがそれは、ソフィアが対峙していたメイド・マトンであるカレンも同じだった。
カレンは先の戦いで黄昏の剣による斬撃を素手で防いでいた。
もはや身体その物が凶器と言っても過言ではない。
「……」
カレンは無言のまま、メイド服の長いスカートに手を掛け、片膝を深く折りお辞儀をしてきた。
スカートの隙間からは白いストッキングの様な物を履いた細い脚が現れる。
足元には厚底の可愛らしい少女趣味な靴が垣間見える。
厚底の分を除いても、カレンはソフィアより少し背が高い様だ。
「ヨウコソ、オコシくだサイました。ワザワザやらレニ」
手を離したスカートが重力に負けて落ちるよりも速く、それは起きた。
カレンは一瞬にしてソフィアとの間合いを詰めたのだ。
いとも容易く、ソフィアの大剣が持つ殺傷圏の内側へと侵入する。
「速い! お母様程に」
ソフィアは大剣を黒いワンピースの胸元まで手繰り寄せる。
カレンの両の腕が、大剣と交差した。
それは素手の手刀とは思えない程の高い金属音を発す。
カレンは攻撃を緩めず、続けざまに左右の手刀を繰り出す。
その度に発される音は、徐々に甲高く、声高となる。
炎に包まれた大剣が火花を散らす様は、まるで手持ちの花火だった。
暫く続いたカレンの火遊びが終わりを迎える。
速度に慣れたのであろう、ソフィアがカレンの腹へと横蹴りを入れたのだ。
ソフィアの子どもの様な細い脚と、丸味を帯びた可愛いらしい黒靴が冴える。
蹴りにより間合いが開いたところへ、遠心力の乗った大剣が追い打ちを掛ける。
カレンは片腕で防御するも、弾かれ、大剣が脇腹を直撃する。
更に大剣の炎はカレンを蝕もうとする。
そして直撃を受けたカレンの身体は、大きく壁面付近へと飛ばされた。
「姉さまの剣は、読めたと思っていても、その読みの更に上を行く。
でもアナタの動きは読みやすい。そして、確かにアナタは速い。
ヒトの反応速度を超えている……。でもそれは私も同じ」
カレンは、遠くでゆっくりと時間を掛けて起き上がる。
その動作とは裏腹に、カレンには傷一つ付いていなかった。
蝕む炎も既に消えていた。
「なっ!?」
無傷に驚き、ソフィアは思わず声を漏らす。
「ワタくシニ、状態異常ハ、無効……です。属性耐性モ、かなりアリます。
コノ≪勇者ノ鎧≫のオカゲです」
カレンは腰に手を当て、胸を張っていた。どうやら、自慢をしたい様だ。
その子どもの様な仕草に、ソフィアは見事引っ掛かる。
「ず。ずるい……。なにそれっ!」
そして不用意に壁際のカレンの元へと近寄るソフィア。
「私も……欲しい!」
「アゲマせん……よ?」
再びソフィアの大剣とカレンの手刀が交差する。
メイド服を巡る戦いに幕が上がる。
カレンは大剣の軌道を反らし受け流すと、距離を詰めに行った。
ソフィアは手刀により反らされ、大剣の勢いが落ちたのを利用する。
手前側の刃で薙いだのた。日本刀とは違う、諸刃である面を活かした剣技だ。
大剣はカレンに迫る。距離を詰めに行った事が裏目に出たのだ。
手刀は微かにソフィアへと届く。しかしもう一方の手刀で大剣を受けた事により、威力が皆無であった。
カレンは振り抜かれた大剣により、再び身体ごと飛ばされる。
だが今回は壁際なのだ。
壁に足を付き着地するとカレンは、蹴り上がり天井へと至る。
そして天井をも蹴り、大剣を振り終わったばかりのソフィアへと突撃した。
手刀はソフィアの左肩と右腕を確実に捉えた。
黒いワンピースの肩は裂けたものの、中に着ていたボディースーツまでは傷付けられなかった様だ。
それでも鎖骨は折れたであろう。
斬られた右腕からは一瞬だけ血が噴き出すも直ぐに止まる。
カレンの手刀は次々に追い打ちを仕掛けた。
それらを、舞い戻って来たソフィアの大剣が防ぐ。
ソフィアは致命傷にこそならないものの、顔や脚などに傷を受けてしまう。
だが、折れたであろうはずの鎖骨は自然と直ぐに回復し、ソフィアに反撃の斬り落としを放たせた。
その斬撃に、カレンは直ぐ身を引いた。
魔剣師ソフィアの身体は、魔術≪上位自動回復≫により、瞬く間に完治する。
エルフであり純血種に近いソフィアの魔力は、≪上位自動回復≫が常時発動していても殆ど減らないのだ。
その後もソフィアとカレン、互いに斬り結ぶも無傷という膠着した状態が暫く続いた。
Eパートへ つづく




