<19話> 「英雄vs勇者・後編」 =Bパート=
「まったく。……懲りない人ね。でも、少しは懲りたのでしょう?」
「あたいは生憎、姉さんにやられたぁ……その憶えがねぇんでさぁ」
「そう、憶えていないのなら、仕方が無いわね……」
私は黄昏の剣を右手一本で、前に突き出して構えると、続けた。
「なら、身をもって思い出させて、あ・げ・る……わ」
ティーナは口を横に大きく開け、無言のまま笑っていた。
盾の隙間から、微かにその表情が窺える。
私に大盾を持った敵と戦った経験は、あまりない。
先の闘いで、ティーナ本来の戦闘スタイルは盾持ちであると予想できていた。
だが、これ程の大きさだとは。
――正直、想定外だ。
大盾を掻い潜り、斬撃を与えるのには、苦労しそうだ。
通常であれば盾のない側へ斬り掛る為、両手で持った剣を左寄りに構えるのかも知れない。
しかし私は、直感的に右に構えていた。
大盾での死角となる位置を予測し、そこへと剣を隠したのだ。
それに対しティーナは、動じる事なく大盾を構えている。
左の手足を前に突き出す、左半身の構えを取ったのだ。
(盾で突っ込んで来る気か? あるいは布石にして斬るつもりか?)
ティーナは大盾で自身の視線を隠す。
私はゆっくりと弧を描く様な軌道を取る。
摺り足で慎重に右へと、四半歩ずつ移動していくのだ。
それに追従し、大盾の向きも変わっていった。
まるで夜空に輝く月の様だ。常に大盾の同じ面を見せ付けてくる。
私が動くのを止めると、大盾も動きが止まるのだ。
(さすが勇者。騎士の様に盾を熟知している)
騎士というと、この世界へ来る直前知り合った女性騎士と、VR時代の仲間を思い起こす。
だが私は思い出を懐かしむのを直ぐに止め、目前に集中する事とした。
すると、小声でぼそりと呟く声が聞こえる。
「えんちゃうんとふぁいあぁ」
勇者ティーナの持つ剣が、赤き炎に包まれる。
私の黄昏の剣も、それに呼応為るかの様に黄昏色に輝き出した。
黄昏の剣、今宵の彼女は殺ル気全開の様だ。
私は彼女を信じ、こちらから仕掛けた。
それまで右にのみ移動していたが、一瞬左に移動した。
ただしそれはフェイク、そう……フェイントだ。
ティーナの持つ大楯が一瞬フラつく。
重心を移動させる、その一瞬を突いたのだ。
私は距離を詰め大盾の縁へと剣を打ち当てた。
大楯は弾かれティーナの鎧左脇腹部が露見する。
だが、私の剣も弾かれてしまっている。
追撃は間に合わないであろう。
そこで私は、弾かれた剣の反動を利用し、左足で大盾を御する。
更に左膝を曲げ距離を詰め、全力で蹴り倒した。
私の左足は鋭く伸び、右足一本で立つ。
すると、いつもとは違う、何か違和感があった。
「やだ……。そういえば今は、短いスカートだったわね……」
中にショートパンツをはいているとはいえ、短いスカート特有の肌を露出する感覚には、まだ馴染めない私だった。
一方の蹴られたティーナ、構えを崩す事はなかったものの、後方へと十歩分は押しやられている。
私の脚力はどうやら、相手と比べても相当の様だ。
装備変更による優位性、アドバンテージを早くも感じた瞬間だった。
ティーナも何かを感じ取ったのかも知れない。
大盾を前に構える左半身から、剣を持った右手右足を前へと出す右半身に構えを変えてくる。
私はその誘いに乗ってみた。
剣の柄を右耳の辺りまで持ち上げ、左の脇を締めて上段に構える。
この構えであれば剣を振った時、自身の左腕で死角を作る事はない。
脚力を活かし、わざと直線的な動きでティーナの目前へと強襲を掛けた。
私が剣を振り落としたその時だった。
ティーナは炎で包まれた剣を後ろへと引いたのだ。
いや、正確には身体ごと、半回転させて引いたのだ。
だが気が付いた時には既に遅い。
私の剣を躱す動作と、右半身から左半身へとスイッチさせる動作を一つにして行ってきたのだ。
迫り出された大盾が、黄昏の剣と衝突する。
激しい衝撃音を残すも、互いの武具は無傷だった。
その時の音は何故か広間内に反響せず、それが無気味さをより際立たせた。
大盾を押し当てられ、私の身体は少し浮き、吹き飛ばされていた。
「……やるじゃない」
(あの体捌き、並大抵の技術ではないわね)
「心ごと剣をへし折るつもりでやしたが、随分と頑丈な剣でござんすぅねぇ」
Cパートへ つづく




