<19話> 「英雄vs勇者・後編」 =Aパート=
本日、異世界GM初のレビューを戴きました。
小鳥遊翼先生、ありがとうございます。重ねて御礼申し上げます。
2019年09月27日 すめらぎ
『幸せな人生を送るには』 小鳥遊 翼
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「リルじゃったな……おんしゃぁ、それでも生存してると言えるんかのぉ?」
八英雄、神龍ナシャは私に問う。
ナシャの言葉に不意を突かれ、私は言葉を失った。
「ぬぅ?」
悪びれる事なく、童の無邪気さをナシャは発揮していた。
(ちょっと、この女童……何言っちゃってるの? これから戦闘だっていうのにさ……)
そう思った私だが、実はそれほど動揺していなかったみたいだ。
「私としては――イリーナを救う事以外、些細な事です」
なぜかこの言葉が、すっと出てきたのだ。私は一度瞳を閉じ考え、見開くと続けた。
「自分が生きているか、死んでいるか、存在しているか、存在していないか、私自身にもそれは分かりませんよ。そうですね……。それは助けた後、イリーナに聞いてみたいと思います。あの娘なら、きっと答えを導き出してくれそうな――そんな気がするので」
ナシャは丸い目を何回もぱちくりさせる。
「おんしゃぁ、イリーナの事をぉ信頼しておるのじゃあーなぁ」
「ナシャ様? それは少し違うかも知れませんよ。家族の様な絆とでも言えば良いのか。そこには信頼すら超えた何かが、確かにあります。そういった意味では、私も繋がっており、存在しているのでしょうね」
「うぅむぅ。イリーナは幸せ者じゃのうぅ」
そう言うとナシャは、かつての戦友である八英雄キュリアの顔を覗き込み、まじまじと見つめるのであった。
ナジャとのやり取りを思い出した私。
その自分の瞳に、イリーナの姿が映った。
「イリーナ……」
強くだが優しく――多分私は、そう呟いた。
私たちは黒い聖母像に触れると、転移魔法の様に瞬間移動をしたのだ。
ここは独立した閉じた空間だ。
イリーナの多次元収納内へ入った時を思い起こすと共に、どこか子どもの頃から馴れ親しんだMMORPGの占有型バトルフィールドらしさを私は感じた。
くすんだ白壁には、不気味と紫の淡い光が反射している。
構造物は曲線で出来ており、二十一世紀後半の世界に住む私ですら、どこか近未来的な印象を受けた。
肋骨の様なアーチ状の柱に包まれたその先端、天井の中心部に、イリーナは居た。
衣服は纏っておらず、逆さ釣りのまま腰の辺りまで天井に埋まっている。
不思議と青き髪は重力に逆らい、天井へと垂れ上がっていた。
両の手は祈る様に、堅く結ばれている。
意識があれば、銀色に輝くその瞳をこちらへと向けていたに違いない。
だがその瞳は今、瞼によって閉ざされている。
「必ず、助ける」
私はこう思っている。
――闘いの数だけ、人は強くなれると。
そして闘うという事は、実際の戦闘ではなく、生きる姿勢、生き様なのだ。
私は強い。
恐怖に打ち勝つ。
重圧に打ち勝つ。
己自身に打ち勝つ。
そういう姿勢で臨むのだ。
気持ちで負けていては勝てない。
ソフィアは友であるイリーナを救う事が出来ず、嘆いていた。
エミアスは我が子の様に愛していたイリーナを攫われ、嘆いていた。
キュリアはかつての過ちを繰り返すまいと誓いを立てたイリーナを護れず、嘆いていた。
皆の思い。
ソフィアの友愛、エミアスの慈愛、キュリアの忠節。
その全てを……。
その全ての思いを……。
私は皆に聞こえる様、ハッキリと口にした。
「私は……負けない。必ず勝ってイリーナを救う」
真っ赤な出で立ちの私は、共に赤く光る黄昏の剣を抜き放ち、言葉を言い放った。
「良いのでしょう? 私独りで、四人相手に勝ってしまっても」
「カーッ、カッカッカッカっ」
目の前の空間が歪み、勇者ティーナたちが現われる。
次元の裂け目とでも言うべきか、そのヒビの入った空間より、何色にも染まらない純白の盾が現われた。盾の持ち主は勇者だ。
純白の鎧は金色に縁取られ、装備する者を勇者たらしめる風格を持つ。
ティーナは盾を構えると、ルーンの掘られた剣を抜刀し、名乗りを上げた。
「勇者ヴァレンティーナにござんす」
背程の高さの裂け目より落ち、長い厚手のスカートが靡き、裏地の刺繍が露わとなる。スカートを整え会釈したのは、メイドの機械だった。
「ワタシハ、カレン。X-101AI」
裂け目より現われると悍ましい気配が漂う。
白く長い髪に褐色の肌。金と黒のローブを纏いし女性。
災厄の魔女だ。
「……。イシズ……。……。」
最後は裂け目ではなく、地面の魔術陣から、和風の舞傘が現われる。
それを持つのは、艶やかな紫に染め上げられた紋付き袴姿の巫女だった。
「わちきは、魅憑鬼でありんす。舞わせて――おくんなまし」
皆が名乗り終えると、ティーナは告げた。
「さぁ、幕は上がりゃぁしたぜっ。始めましょうや」
Bパートへ つづく




