<18話> 「英雄vs勇者・前編」 =Gパート=
《ファイア・キャニスタ》
黒魔導師魔将が詠唱した魔術により、幾重もの火弾が降り注ぐ。
嵐の中の雹の如き勢いで、吹雪の様に絶え間なく続く。
それらは雹や吹雪とは真逆の熱波を有し、近づく者を阻み続ける。
輻射熱により石柱は灼熱の石窯と化した。
「おいおい、俺をコンガリ焼いて食べるってのか? 美味しくないぜ」
スパスはたまらず、隣の柱へと避けた。
火弾の中に黒い魔術の矢が混ざっており、熱によるものも含め、少しダメージを喰らっているのだ。
ポーションを自分の身体に浴びせかけるスパス。
クロスボウで反撃をするも、焼け石に水の様だ。
再び石柱の陰でクロスボウをリロードするも、キャニスタによる熱風が迫り来る。
スパスはポーションを再び身体に掛けると、柱を蹴り上がり、キャニスタの放たれていない角度からクロスボウを撃った。
今度は確実に狙い撃て、キャニスタを放っていた黒魔術師に命中させる事ができた。
おかげで、ファイア・キャニスタが一旦止まる。
だが、着地直後をスパスは狙われた。
近づかれた暗黒騎士魔将に剣で斬り付けられたのだ。
スパスは踏み込んで敵の左脇を駆け抜け、すり抜ける事に成功する。
暗黒騎士は重装備で巨体の為か、細やかな動きが制限されている様だ。
それでも斬り落としの追撃を放ってきた。
回避行動と共に、振り向こうとした魔将の背後を更に取る。
スパスは攻撃のチャンスであった。だがそれをしなかった。
そう、これは一対一ではないのだ。
石柱を背にしてスパスは駆ける。
暗黒騎士魔将は剣で突こうとする。
しかし石柱に阻まれ、空を突くのだった。
その一瞬の隙を逃さなかったのはヴェレネッタだった。
突きを放ち、両腕が伸び無防備となった所へ、撃ち込んだのだ。
近距離で二丁の銃から放たれた魔術が暗黒騎士を襲う。
二発は着弾すると炎となり包み込む。
暗黒騎士は、その場にうずくまる様にして倒れ込んだ。
そこへ、スパスを狙ったファイア・キャニスタの流れ弾が飛んで来る。
火弾の爆発によりヴェレネッタは近づけなくなってしまった。
スパスはポーションを自分の身体に掛ける。
そしてクロスボウを天井に目掛けて撃った。
特殊なボルトだった。鉤爪と太い紐が付いていたのだ。
鉤爪が石柱にぶつかると傘の様に開き、装飾に引っ掛かり固定される。
紐を掴み目前にある石柱を駆け登ると、そのまま紐にぶら下がり、一つ先の石柱へ移る。
そして黒魔導師魔将の頭上から弓を引き、一発、二発と矢を放った。
雷属性を帯びたその矢は、いずれも脳天に突き刺さり、追加の雷撃を発生させた。
周囲には焦げ臭そうな黒煙が、薄くだが立っている。
更に紐を伝い着地すると、詠唱補助の杖を持った白魔術師魔将に、零距離で矢を脳天へおみまいする。
「残る敵は二体か?」
今度は、槍兵魔将の槍がスパスを襲う。
振り向き紐を使い躱すと、追撃が来た。
それに対し、なんとスパスは正面から突っ込んだ。
槍による突きを紙一重で躱し、そのまま擦れ違い進む。
互いに振り向くと、槍兵は薙ぎ払いを繰り出す。
薙ぎ払いを潜る様に回避し、至近距離からスパスは矢を放った。
槍兵の身体に刺さり雷撃の追撃が発動する。だが、それだけでは倒せなかった。
スパスと槍兵は再び擦れ違う。
今度は先程と違い、スパスのみが振り返ったのだ。
二発目の矢を放つスパス。槍兵はその場で力尽き、倒れた。
「よっし、残る敵は後一体?」
紐でたぐり寄せ、クロスボウを手元に戻すと、足で金属の棒を踏む。
ボルトをセットし、リロードを完遂させた。
「これ、全滅させて一緒に入れるんじゃ? ワンチャンあるんじゃない?」
そう、声を発した時だった。
そこに背後から、短剣を持った魔将が現われたのだ。
短剣とはいうもののそれは魔将の武器のサイズであって、人からすれば普通の片手直剣剣よりも大きいのだ。
それが今、スパスの背に突き刺さったのだ。
「どこから、現われやがった……。くそッ」
ヴェレネッタは咄嗟にカバーへと入った。
一発放ったのだ。弾は追尾し、回避行動を取らせた。
暗殺者魔将は反撃に出る。ヴェレネッタを襲ったのだ。
ヴェレネッタは近距離から撃つも、回避されてしまう。
そして、短剣がヴェレネッタを襲う。
浅くだが確実に、ボディースーツごとヴェレネッタの肌が引き裂かれた。
切り刻まれながらも、必死に躱すヴェレネッタ。
振り下ろされた短剣をヴェレネッタは二丁の銃をクロスさせて受け止めた。
その刹那だった。暗殺者の脳天に、後ろから何かが貫通したのだ。
「クソがぁ……」
スパスは口に銜えていたハイポーションの瓶を吐き捨てて言い放った。
石柱に寄っかかりながら、クロスボウを放ったのだ。
残っている敵は、片手剣を持った恐らく回復魔術を使える剣士。
そして、ヴェレネッタが止めを刺せずにいた暗黒騎士だ。
暗黒騎士は既に回復して傷が癒えていた。
しかし、ヴェレネッタは回復の為、一度下がる必要があった。
「すまね、皆。後二体……間に合わないわ。作戦通り、行ってくれ」
スパスはこちらへと声を投げ掛けた。
覚悟を決めたのか、いつになく凜々しく、そしてその立ち姿は英雄の様でもあった。
「スパスさん、ヴェレネッタさん、本当にありがとう! おかげでバッチリ準備ができたわ」
私はせめてものお礼にと、アイテム収納にあった十本以上のハイポーション全てを置いていく事にした。
残り二体である十二体の魔将を倒せたとしても、それだけで敵の侵攻が終わる保証などないのだからだ。
それと、私たちが接戦の末ティーナたちに勝ち、出てきたところを敵に袋叩きされるのはゴメンだ。
「すぱす、かっこ付け過ぎ」
ソフィアは嬉しそうな顔で貶した。
「格好良い……ではありませんか」
キュリアは穏やかに微笑んでいる。
エミアスは無言のまま、慈悲深い眼差しを向けていた。
そして――、
私たちは黒い聖母像に触れた。
『故善戦者立於不敗之地、而不失敵之敗也、』
(故に善く戦う者は不敗の地に立ち、敵の敗を失わざるなり)
『是故勝兵先勝而後求戦、敗兵先戦而後求勝、』
(是の故に勝兵は先ず勝ち而して後戦いを求む、敗兵は先ず戦い而して後勝を求む)
18話へ つづく
18話をお読みいただき、ありがとうございます。
異世界GM、ついに10万PVを達成いたしました。
ご愛読ありがとうございます。
タイトルが途中から変更となっています。
17話「英雄vs勇者・前編」➡17話「聖母教総本山」
18話「英雄vs勇者・後編」➡18話「英雄vs勇者・前編」
19話「そして……(仮)」 ➡19話「英雄vs勇者・後編」
と、変更になりました。




