<18話> 「英雄vs勇者・前編」 =Fパート=
魔将と対峙しているスパスとヴェレネッタは堂々とした足取りで、ゆっくりと歩む。
二人はアーチ状の石柱まで辿り着くと、急に速度を上げ俊敏に動く。
そして飛び退き、左右に別れた。
石柱に身体を隠しきるその直前、それは起きた。
スパスは羽織っていた黒い外套を脱ぎ捨てる。
中はいつもの緑ではなく、青い服だった。
クロスボウを構えてるとボルトは光りに包まれる。
そして呟いた。
「Dead Aim」
ボルトは放たれ、複数の魔将を貫く。
電磁加速砲を彷彿とさせるそれは、発射元で白煙を上げ、魔将を貫きプラズマを発した。
ヴェレネッタもクロークを脱ぎ、ボディースーツ姿となる。
そして背負っていた四門の魔砲筒から一斉に攻撃を放った。
轟音は暫く続く。一発では終わらず連射しているのだ。
放たれた弾が爆発し続け、辺りに粉塵が舞う。
視界が霧の様に悪くなってしまったが、かなりのダメージを負わせられた事であろう。
スパスは石柱に隠れながら、背負っていた弓に持ち換え、矢筒から四本の矢を抜く。
ヴェレネッタは撃ち尽くすと、直ぐ石柱に隠れる。
そして背負っていた魔砲外し、身軽になった。
塵が収まり、漸く生き残った魔将を目視できる。
生き残った魔将は七体の様だ。五体は既に跡形もなく消えていた。
スパスは残った魔将へ向け、四本の矢を同時に撃ち放つ。
同時に放たれた矢には、あまり速力がなく、魔将たちは矢を容易に躱す。
「くくッ。バカめ。俺の天才的な策略に、甘ちゃん共は……引っ掛かったみてぃだなぁ。おい」
スパスは戦闘中にもかかわらず、額に手を当て、笑いの仕草をして見せた。
手前に居た四体の魔将は、その場から動けなくなっていた。
「これが『影縫い』ってぇーヤツよ」
スパスはワザと、だみ声で告げる。
よく見ると、魔将たちの影に矢が刺さっていたのだ。
『影縫い』の効果でその場から動けない様だ。
その動けない魔将たちに向け、スパスは玉を投げた。玉は野球のボール大であり、ボールの様に床を何度か跳ねた。
三つ目の球を投げた所で、最初に投げた球から順番に爆発しだした。
更に腰と腿に帯付けしていた筒を取り、構える。
それはキャサリンと戦った時に見た事のある魔砲の筒だった。
ロケットランチャの様なそれを追い打ちとして容赦なく放つ。
最終的に十二体の魔将は、四体にまで減り、内の二体は影縫い状態で動けないままだ。
開幕での集中攻撃により、一方的な展開だ。
そうして、スパスが魔砲の筒の構えを解き、石柱の影へ移動しようとした時だった。
魔術で作られた黒い矢が突然、スパスの身体を貫いたのだ。
たまらず、石柱の陰に隠れるスパス。
「やるじゃねえかッ」
たまらずポーション2つをお腹に掛け、ハイポーションを口にした。
「Sh*t!! やるじゃねえかッ。 What the f*ck!!」
スパスは石柱に立て掛けておいたクロスボウに付いている金属の棒を足で踏み込んだ。
クロスボウは一瞬にして弦が引かれる。
傷が癒え、クロスボウをリロードし終え、スパスが石柱から覗き込む頃には四体だったはずの魔将は、一体が復活し五体へと増えていた。
そして更には、魔将たちの負っていた傷が全て癒えていたのだった。
私たち突入組は、スパスとヴェレネッタの戦闘をただ見守る事しか出来ない。
「徐放魔力回復魔術」
「岩壁城壁」「闇乃羽衣」
「土乃羽衣」「水乃羽衣」
「攻撃間隔短縮」「閾値障壁魔術」
「上位自己蘇生魔術」
「上位物理防御力上昇」「上位魔術防御力上昇」
「上位精神魔術耐性上昇」「上位自動回復魔術」
私には十種類の魔術が掛かる事となる。
キュリアは片方の小手を外すと、鎧の隙間へと細い指を入れた。
そして胸元からネックレスを取り出すと、それに付いている黄色い玉の一つを捥ぐ。
どうやら玉は果実の様だ。キュリアは黄色いミニトマトの様なその果実に唇を優しく当てると、次の瞬間それを前歯で噛む。
そして咀嚼し飲み込んだ。
「エミアス殿、食べ掛けで誠に申し訳ございませんが、希少な物ですので……」
そう言うと、エミアスの口元へと食べ掛けの果実をキュリアは運ぶ。
エミアスは少し屈み、舌を出して口の中へと受け入れた。
ソフィアは一人、両手剣を構え「黙想」をしている。
練られた魔力が剣へと伝わり、剣はその魔力を帯び光る。
「エンチャント・ダークフレイム」
光りを覆う様に漆黒の炎が剣を包んだ。
Gパートへ つづく




