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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第五章 2節   <18話>
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<18話>  「英雄vs勇者・前編」   =Eパート=


暫く廊下で待つも、魔人はやって来なかった。

キュリアは残念がっていたが、私は胸を撫で下ろす。

一瞬、待ち伏せがある可能性を考慮したが、結局のところやるべき事は変わらない。

私たちは、本殿を進む事とした。


その後も光る鳥は何体かいたが、難なく倒す。

例えば、キュリアが魔術を詠唱し、ソフィアが剣で斬り付け敵意ヘイトを稼ぎターゲットを取ったところで、詠唱の終わったキュリアの魔術がとどめを刺す。

初めて組むとは思えない、良い連携の流れができていた。


本殿は思ったよりも単純な構造であり、直ぐに中央の大聖堂付近まで辿り着く。

巨大なアーチ状の石柱が何十本もある広場を超えると、その装飾に私は圧倒された。

元の世界で言うなれば、バチカンのサンピエトロ大聖堂やイギリスのセントポール大聖堂を彷彿とさせる神々しい雰囲気に呑まれたのだ。


数ある石の彫刻や、この世界の神話をモチーフとしたであろうステンドグラス絵。

それから天井には、魔人と人間との戦争が描かれている。

これは未完なのであろうか、あるいはこれで完成なのであろうか、分からないが天井の半分にまでしか描かれていないのだ。

少なくとも物語の続きが描ける様に成っていた。


私はそれらに圧倒され、声なく、ただ震えるだけだった。

ただ一点を除いて、それらは神々しかったのだ。

身震いする程に。


そしてその除かれた一点とは、正面手前に配置されている黒い聖母像なのだ。

それだけ異彩を放っていた。


黒い聖母像へと近づく私たち。

すると像から、聞き覚えのある声がした。


「あーあ。本当に来ちまいやしたかぁ」


独特の喋り方と声、間違いなく勇者バレンティーナであろう。


「ティーナ……」

エミアスはそう呟くと、どこか覚悟を決めた様な表情を見せる。


「おやぁ、赤髪のお姉様に、それから金髪の嬢ちゃんまでいやすねぇ。確かに……ここで待っていると言いやしたが。本当に来る“すっとこどっこい”たぁー。あたいは知りゃぁせんでした」


キュリアは先程まで私たちに見せていたものとは違う八英雄らしい凄みのある声で放つ。

「ティーナ、約束通りやって来た。貴殿からイリーナ様を返して貰うぞ」


「あれ? あたい、そんな事を言いやした? 確か……」

ティーナの声色と口調が突然変わる。

「『奪えるものなら力尽くで奪ってみろよ! 掛かってこい!』だったと思いますよ。紫の瞳のお嬢さま」


「くッ」


「あははは。なぁんてぇーね。この像に触れれば、来られやすぜぇ。まぁ、ちゃっちゃとやられに入って来て下せぇい。こちとら気が短けぇんでぇ。来なけりゃ、けえりますぜぇ」

ティーナの声色は元に戻っていた。



突然、背後から工事車両が近づいて来るような、激しい音と振動を私は感じる。


「ロードローラーかッ!?」


振り返ると、石柱のある広場に魔将がひしめいていた。

三メートル以上の巨体。おそらく建物の外に居た十二体の魔将ではなかろうか。

まだ距離はあるものの、狭い屋内で見ると、その大きさに圧倒される。

古代遺跡で倒した魔将よりも、一回り大きいのかも知れない。



「エミアス殿、どういたします。全滅させてから、ティーナたちとの戦闘に臨みますか?」


「ティーナたちは四名。私たちは六名。これ以上突入時の人数を減らすのは得策ではありません」


「だが姉貴、帰れなくなっちまったら元も子もないでしょうに」


「確かにそうですが……」


「自分とヴェレネッタが残りますよ。元々、自分ら数に入っていなかったんでしょ?」


「確かに……そうね。ソフィアが来てくれた――それだけでもありがたいわ。良いでしょう? エミアス」


「リル様がそう仰るのであれば……」


スパスとヴェレネッタは広場の方へと、ゆっくり堂々とした足取りで引き返す。

魔将どもは待ち伏せる為か、静止し動かなくなった。



私たち四人は内部での戦闘に備え、準備を進める。


私はそれまでの冒険で装備していた対魔将魔物装備から、素早さ敏捷性重視の回避特化の対人装備へと切り替えた。

いわゆるAGIアジリティ特化型というヤツだ。


これまでこの世界で対人戦を考えた事などなかった。

しかしティーナとの戦闘やキュリアとの出逢いにより、考えなくてはいけなくなった。

ただし元の世界での現実の対人戦よりも、その仮想世界であるゲーム内に近いのだ。

したがって、私にとっては様々なゲームにて経験済みの問題であり、またゲームでの対人戦装備は悩むものではなく、むしろその過程を楽しむものでさえあった。

いわゆる「ボクのかんがえた、さいきょうそうび」なのだ。


それまでの黒を基調とした装備から赤を基調とした装備へと、見た目も変わる。

ほぼ布製で、今までよりも動き易い。多少肌の露出は致し方ない。

どうせ男の人の目など無いのだ。気にしたら負けだ。


久しぶりに短いスカートを履いた気がする。

中にショートパンツを履いているとは言え、生足を出すのは何だか気恥ずかしい。

更に胸元に大きなスリッドがあり、すぅすぅする。

それがこの装備を、今まで装備してこなかった最大の理由だった。

(イリーナに見られたら……絶対にがっつかれるわねぇ)


私は討伐が済んだら、救出前に着替えようと心に誓ったのだった。


なお、何故この装備が赤いのか……。私は開発に尋ねた事がある。

するとこんな謎の答えが返ってきた。


「赤は三倍なんだよ!! 昔からのしきたりなの!!」


「しきたりならば仕方が無い」と、ゲーム脳の私は直ぐに納得したのであった。



Fパートへ つづく

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