<18話> 「英雄vs勇者・前編」 =Dパート=
「姉様、私、強くなった」
「リル殿、ここはお任せを」
「姉様、見て」
「リル殿、どうでしょうか? 今の太刀筋」
ソフィアとキュリアの二人は、競う様に魔物を倒していく。
私は倒す事を諦め、剣を鞘に収めた。
エミアスは杖を高く掲げ、光りで廊下や部屋を照らしてくれている。
お陰で蛍光灯の付いた部屋の様に、内部が明るい。
私たちは宮殿内部を進んでいるのだ。
ここには魔人族がおらず、代わりに魔物が多数点在している。
廊下や階段は人間にとってはかなり広いものであるが、魔将の体格であれば通るだけでやっとの大きさなのだ。
それもあってか、魔人族と遭遇せず、本殿付近まで容易に来る事ができた。
そして、灯りが必要ではなくなる。
天井の一部が発光しており、その光りが白い壁へと反射し、建物内の全体が明るいのだ。
まるで二十一世紀の様であり、まるでゲーム内の様でもある。
エミアスは定期的に防御系魔術を張り替える。
ヴェレネッタは討ち漏らしがないか注視しながら、影に徹している。
スパスは戦闘には参加せず、変な踊りをして余裕をかましている。
童話に出てくる様な、実にエルフらしい行動だ。
(ただの煽りプレイっぽいけれど……)
廊下を抜け、いよいよ本殿という所で、中を覗き込む。
すると小部屋の天井近くに、光り輝く鳥が留まっているのを発見した。
その鳥は霊魂の様な、青白い光に包まれている。
「あれは、魔術詠唱に感知するタイプの使い魔ですね」
エミアスは、皆に魔術の行使をしない様、注意喚起する。
「まだ、こちらには気が付いていない様ですが、使い魔と言う事は使役している魔人が居るのでしょうか?」
キュリアの発した小さな声が思いのほか可愛らしく、不意を突かれた私は、萌え悶えた。
もはや回答どころではない。必死に耐えたのだ。
ソフィアはそんな私を不思議そうに見ている。
(イリーナに知られたら、大笑いされて嫌みを言われそうだわ……)
そんな私をよそに、エミアスは屈み小さな円陣を組むと、淡々と話を進める。
「確かにその可能性もありますね。倒してしまうと、使役している魔人に知れてしまう事もあるでしょう」
「姉貴、とりあえず回りには魔人はいなそうだぜ。倒しちまおうぜ?」
「エミアス殿、私もその意見に賛成です」
「お、いいね。さすがは八英雄きゅらら♥たん」
「キュリアですッ」
キュリアではなく、エミアスが不安そうな表情を浮かべている。
敢えて表情に出したのであろう。
「して、もし気付かれてしまったら、どういたします?」
キュリアとスパスは共に即答する。
「殲滅させます」「ゼンメツだぁね」
(あっ。安定の脳筋くぉりてぃー♪)
ソフィアは私を見て、何故か親指を立てている。
円陣に混ざっていない私は、上から皆を覗き込むと、提案を出した。
「リル様、その作戦でいきましょう」
「さすがはリル殿」
「さすがは姐さん」
(スパス、あなたが言うと何か馬鹿にされている様な気が……)
「あ、いや? 馬鹿にしてないッすよ?」
「え? (心が読まれた!? また??)」
壁を使い目視できない位置から、ソフィアは属性強化魔術を詠唱した。
すると光る鳥は「殴り返してやる!」、そんな勢いで、こちらへと向かってくる。
上手く廊下へと誘導した所へ、スパスがクロスボウを撃った。
クロスボウの矢は命中し、光る鳥は奇声を上げる。
そしてボルトの刺さったまま、光る鳥が今度はスパス目掛けて突撃してくる。
直線的なその軌道を読んでいたキュリアは、赤い刀身の剣を抜いた。
剣が光る鳥を襲うと、瘴気が鳥を覆い、光りを闇が閉ざす。
光りを失った鳥は、硬い石の廊下へどさりと落ちた。
最後はソフィアが、闇属性を纏わせた両手剣を突き指す。
卵が潰れる様な、嫌な音とエフェクトを残し、鳥が消えた。
「見事な連携だわ」
士気を高める為にも、わざと声に出した。
これならば安心して、勇者パーティーと戦闘できるであろう。
「リサイクル。リサイクル」
スパスは、地面に落ちたクロスボウのボルトを拾う。
「マメね。意外な一面だわ」
スパスに感心していると、キュリアが納刀し、先頭にいる私へ近寄ってきた。
「さて、使役していた魔人は来ますかね?」
「どうかしらね。うじゃうじゃ来たりしてねっ」
「脅かさないで下さいよ」
私たちは廊下で、魔人が来るのを待ち構えた。
漫画やアニメなどでよく、狭い通路であれば一対一だから個の力が物をいうというシーンがある。
ゲームの世界では、どうかというと、余程の実力差が無いと不可能だ。
特にFPS等では、圧倒的な物量によるゴリ押しには、なかなか対抗できない。
では、魔法や魔術の存在するこの世界は、どうであろうか?
その疑問が沸いた時、私は以前にハマっていたあるゲームを思い起こした。
それはフォートレスという、籠城戦がメインのVR型FPSだった。
籠城戦がメインである為、護る側には様々な防御手段が用意されており、例えばだがSFの様なバリアシールドを展開したり出来るのだ。
丁度この世界での戦闘に近い。
通路での戦闘はこの世界においても、防御手段さえあれば数の暴力で押されようと、個の力で打ち勝ち挽回できるであろう。
それは元の現実世界でも同じだった。
防御に向くレーザー兵器の発展により、遠距離からの旧式ミサイル攻撃が過去の物と化してしまった2050年の世界においてもなのだ。
Eパートへ つづく




