<18話> 「英雄vs勇者・前編」 =Cパート=
洞窟と一体となっている第二神殿。
奥へ進むにつれて日の光が届かなくなり、薄暗くなっていく。
程なくして目は慣れ、地下へと進む階段が見えてきた。
もし階段を降りずに直進すれば、宮殿部へと辿り着けるそうだ。
私たちは神殿の内部へと進路を決め、杖に光りを灯したエミアスを先頭に階段を降りる。
下の方からは、お香の様な、香水の様な、なんとも言えない独特な香りが漂ってきた。
臭いに気を取られていたが、徐々にこちらへと階段を登ってくる数名の足音にやがて気付く。
「これはエミアス大司教。お久しゅうございます」
そう声の聞こえてきた方向を覗き見ると、年老いた女性の司教と、付き従う司祭二名がいた。
「大司教トーラ……貴方なのですか?」
どうやら声で相手が誰なのか、エミアスには分かった様だ。
「あぁ、神よ。この様な窮地に、エミアス大司教が……。それも八英雄である戦乙女様まで連れて来て下さるとは」
エミアスとトーラは階段の途中で向かい合う。
二人は互いに手を取り合い、再会できた喜びを分かち合っている。
そこだけは時間が制止していた。
私たちは邪魔をしない様、皆が寡黙だ。
キュリアはその間、階段の壁に寄り掛かっていた。
どこか遠くを見ている。そんな風に見えた。
大司教トーラは、私たちを神殿の深部へと通し、祭壇のある部屋へ案内してくれた。
エミアスはトーラに、今までの経緯を説明する。
トーラは私たちに、今この総本山がおかれている状況を分かる範囲で教えてくれた。
それによると、この第二神殿にはまだ百名以上の者たちが取り残されているそうだ。
水は魔術により精製できるが、食料は十日もすれば底を尽きてしまうそうだ。
糞尿の問題は、宮殿部へ内部で繋がっている為、ないという。
一通り話の終わった所で、私は何かの気配を感じた。
なんとその気配は、一瞬にして私たちの前へと移る。
私は転移魔法に近しいものを感じ得た。
(え? 幼女ならぬ、童女?)
目の前に現れたのは、小学校低学年にしか見えない、女童だった。
「う〜むぅ。話は隣の部屋で聞かせてもろーたわぁ」
女童の黒髪は、辺りの光りを反射している為なのか、輝いて見える。
「これは神龍様。出てこられて平気なのですか?」
そう言うとトーラは両膝を付いて腰を落とし、目線の高さを合わせた。
「問題なかろぅ。安定してきおったしのぅ。それに……戦友の顔を見に来るワガママくらい、良いであろぅ」
(この女童が八英雄の神龍様なの!? 嘘でしょ??)
「ナシャ殿、お久しぶりですね」
キュリアは気恥ずかしそうにしながら、女童ナシャの前へと出た。
「おお、キュリア。久しいのぅ。お前は相変わらず若いままだのぅ」
(いやいや、女童に言われても……)
「ナシャ殿は、随分成長なされた様で」
(えっ? これ……で……?)
「うむぅ。朕は今、成長期であるからのぅ」
「えー!?」
思わず声の出てしまった私に、皆の視線が一斉に集まる。
(しまった……心の声が漏れてしまった)
「はっ。はじめマシテ、ぼーけんしゃのリル、です……」
「朕は、ナシャじゃ。その、ぼーけんしゃとは何じゃ?」
「えっと、えっと……」
「冒険者とは、例えば調査探索、魔獣退治、未知の獣人や未知の文化の調査等を行う者たちです。特に近年では新大陸での活躍が評価されております」
歯切れの悪い私の代わりに、エミアスが答えてくれた。
「おお、そうなのかぁ。凄いなぁ、冒険者っ!」
「そうですね。リル様は凄いのですよ」
「おー。イリーナを奪い返してくれたぁそうじゃあなぁ」
「左様にございます。そういえば、神龍様はこの第二神殿から離れられないとトーラから伺いましたが……」
「朕は、ここから動けぬ。結界の維持をせねば成らぬからからのぅ」
「やはり、そうなのですね」
ナシャは突然腰に手を当て、指さした。
「キュリア、貴君に賊の討伐は任せるぞよぉ」
「ナシャ殿、私たちにお任せ下さい」
キュリアは優しい顔でそう答えていた。
その後、ほかの仲間をナシャに紹介する。
そして休憩を取った。この第二神殿から先は、休憩できる場所は無いであろう。
第二神殿も宮殿部と隣接していて、宮殿部は全て第一神殿前の宮殿本殿へと通じている。
私たちは、内部からそこを目指すのだ。
ナシャやトーラたちは、第二神殿の深部への入り口である階段まで、見送りに出てくれた。
「なぁ、ちょっとイイか?」
そう声を挙げたのはオジムだった。
「メリダさんとミリアさんをここへとお連れしたいのですよ」
そう声を挙げたのはグリンだった。
メリダとミリアは、夜になったら闇に紛れて下山する手筈だった為、まだ避難壕に残っている。
「そしてその後、俺達はこの第二神殿の護衛に当たりたい」
「そうですね。それが本来の我々冒険者ギルドから派遣された者の任務でもありますから」
その提案に、エミアスは即答する。
「では、オジムさん、グリンさん。トーラに一緒に付いて戴きますので、司祭二人を宜しくお願いいたします」
トーラは大きく頷くと、両手を結び祈りを捧げる。
「聖母様の御加護があらんことを……」
私、キュリア、エミアス、ソフィア、スパス、ヴェレネッタの六名で、本殿を目指す。
最後に、気になっていたのでナシャを見てみた。
(検閲)
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<<नाश>>
称号†八英雄†
種族:龍
年齢:1208歳
職業:神龍
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ナシャも同じ事を考えていたのか、私と目が合う。
「おんしゃ、何者じゃぁ? 朕の通力でも、全く何も見えぬぅ」
ナシャは目を細め、変な人を見る様な目で視線を投げてきた。
「ジーーぃ」
(あっ。検閲バレた?)
「リルじゃったな……おんしゃぁ、それでも生存してると言えるんかの?」
「……」
「ぬぅ?」
(ちょっと、この女童……何言っちゃってるの? これから戦闘だっていうのにさ……)
Cパートへ つづく




