<18話> 「英雄vs勇者・前編」 =Aパート=
旧タイトル「英雄vs勇者・後編」
「……って言う訳なんでさぁ」
「いや、全然分からないわよ」
私は森エルフであるスパスへと、早々にツッコミを入れた。
スパスは八英雄ベネリの弟にあたり、エミアスからすると義理の弟でもあるのだ。
魔将たちとの戦闘をスパスに止められた私たちは先程、遺跡エリアからの道を引き返した。
途中で道を外れ、草を分けて進むと、避難壕へと至った。
そこは隠れられる様、細工されていた。
壕の奥へ進むと、私は洞窟エルフの魔剣師ソフィアと森エルフの魔砲を操るヴェレネッタと、念願の再会を果たしたのだった。
ソフィアは再会に喜び、私に飛び付いてきたほどだ。
そして、ある事に気が付く。
「すぱす、何で右の頬が腫れてるの?」
ソフィアが首を傾げて、不思議がっている。
スパスは腫れ上がった頬が気にならない素振りをしつつも、目が泳ぐ。
「あー。エミアスの胸元ばかり見ていたからでしょう。義理の姉なのにねー」
私は避難壕に入って直ぐに起きた珍事をバラした。
ソフィアは目を細め、スパスを軽蔑視する。
視線を自分の胸へと移すと、両手で服の上から一生懸命に寄せて持ち上げた。
今日は戦闘用のボディースーツの上に真っ黒なワンピースを羽織っていて、身体のラインを隠せるのだ。
持ち上げた自分のとエミアスのとを比べると、ソフィアは深い溜め息をついた。
(ソフィアがいる時に、この手の話題はダメだったわね……。
久しぶりでつい……。ごめんね)
スパスを何故かオジムが励ましている。
(ハゲだけに?)
私はオジムと目が合う。
(心が読まれた!? ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい)
オジムはL字の指を顎に当て、謎の視線をこちらに送ってきた。
(あっ、何だか妙に眩しい……)
スパスの頬の腫れが引いた後、皆で情報交換をした。
イリーナが囚われてしまった事やティーナの事をソフィアに話した。
「今から救出するのだから、姉様……特段問題ない」
――と、逆に励まされる様な感じになってしまった。
てっきりソフィアは激昂するかと思ったのだけれど。
ほかには、キュリアをソフィアたちに紹介した。
スパスは元々面識がありそうな雰囲気だったが。
ソフィアたちは北方の山脈にある村にて四日前、総本山から逃げ延びた司祭と修道女たちと出逢ったそうだ。
それで偵察の為、昨日この総本山へやって来たのだと。
かつて一緒に闘った仲間たちとの再会は、最高の瞬間。
ましてそれが、背中を預けられる程の強者であるならば。
実に頼もしい存在だ。まさに戦友。
これからのティーナたちとの激闘を考えると、ソフィアたちに再会出来た奇跡は不正行為と呼べる程の出来事だった。
そして再開と同時に、新たな別れの時もやって来る。
メリダとミリアとは、この場で分かれる事となった。
宮殿の広場にて、私とキュリアが魔将相手に闘おうとした時、直ぐに姿を現して共闘の意志を示せなかった。
その事が彼女たちの枷となり、自分たちがこの先足手まといであると悟ったのだそうだ。
グリンは背の高いミリアの肩に手を置いた。
ミリアは小手とグローブを外し、その手の温もりを確かめるかの様に握り返していた。
オジムは背の低いメリダの頭にグローブをした手を乗せ、軽く撫でた。
メリダは思春期の少年の様に、すすり泣いていた。
己の無力さに気付く。そうやって大人になっていく。
私も、悔しくて何度も泣いた事がある。
諦めず続ける、あるいは諦める。
それらの繰り返しこそが、人生なのかもしれない。
「私の兄ならば、父ならば、それに対しどう答えるのだろう?」
無事に元の世界へ帰還できたら話したい事が、また一つ増えた私だった。
Bパートへ つづく




