<17話> 「聖母教総本山」 =Iパート=
エミアスは着ていたローブをメリダに着せていた。
少し大きい様だが、上手く生地の端を結んで調節していた。
(エミアス、その格好で行くんかい……)
エミアスは穴の空いた服を着ているメリダよりも、肌の露出している面積が大きかったのだ。
オジムはなるべく見ないようにと、変な所に視線が行っていた。
大部屋の奥には扉がある。
その扉は木製で、まだ新しかった。
観音開きになっており、一枚でも十分に大きかった。
オジムとグリンは二人掛かりで、その扉を片方だけ開ける。
すると、下の階へと降りる階段が現われた。
私はキュリアの方を見て頷いた。
キュリアも頷く。
「私とキュリアで先行するから、皆は後からゆっくり来てね」
開けた扉に片腕を掛けながら、オジムは言った。
「わかったぜっ。ウチらは司祭の嬢ちゃん二人の準備が整うまで、護衛しておくわ」
メリダが強がって「一人で平気です」とか「直ぐに行けます」とか言うかと思ったが、それはなく大人しかった。
余程、先の戦闘が堪えたのであろう。
ミリアに至っては、未だに呆けているのだ。
私とキュリアは若い司祭二人の勇姿に感化されたのかもしれない。
足早に、そして軽快に、階段を降りて行った。
階段の先には、小部屋が見える。
どうやら扉は無い様だ。
だが扉の代わりに、槍を持った魔将が居たのだ。
槍の魔将は、音を立て階段を降りる私たちに気が付き、槍を構えた。
槍で階段の下から突かれると、非常に厳しい。
――通常であればそうだ。
私とキュリアは目で互いに合図を送り合う。
そして同時に頷く。
二人で一気に階段を駆け下りた。
槍の間合いへ入る直前に、私は転移魔法にて槍の魔将の背後へと転移した。
キュリアは二刀を抜刀し交差させ、交点に槍を合わせて滑らせると、殺傷圏の更に内側への侵入を果たした。
私は背後から首を横に薙ぐ。
キュリアは正面から二刀を斜めに斬り上げ、魔将に斜め十字の跡を残す。
瞬殺だった。
オーバーキルとなり、エフェクトを残し槍の魔将は一瞬で消えた。
(あれ……瞬殺? この魔将、さっきの三体より一回り大きくない? 個体差かな。見かけ倒し?)
「お見事です。リル殿」
「貴方もね。キュリアさん」
お互いに労い合う。
小部屋は松明があるわけでもないのに、黄金に輝いていた。
キュリアが納刀すると、部屋の輝きは一段収まった。
英雄に憧れる子どもの様に、その納刀する仕草に見とれていると、キュリアと目が合った。
「あの……。何か……」
「うんん……。何でも無い」
キュリアも鼻先を指で掻き、少し照れる様な仕草をした。
地面に目をやると、巨大な槍が落ちていた。
(あ、ドロップアイテム?)
「とりあえず、貰っていくわね」
私は魔将の槍をアイテム収納にしまう。
その後、小部屋を調べているとエミアスたちと覚しき足音が聞こえてくる。
どうやら、やって来た様だ。
「槍の魔将……ですか?」
「かー。すげえや。リルの姐さん、どうですかい、俺らのギルドに所属する気はねぇですか?」
「そういうのは無事に戻ってからに……」
言葉を途中で止め、グリンは後ろを振り向いた。
メリダとミリアが、小部屋まで追いついた。
まだ、くたくたの様だ。笑顔ではあったが終始無言だった。
皆が来るまでの間に調べていたが、この小部屋、壁には魔導文字であるルーンが、装飾と共に刻まれているのだ。
「ねえ、エミアス。この部屋も地下神殿の一部なのでしょう? 装飾が凄いわね。地上の神殿は、これを模した物なのかしら?」
「はい、リル様。ここが地下神殿への入り口となります。これを模したかまでは分かりかねますが、当然影響は受けていますでしょうね」
「この先に、ティーナたちが居るかも知れないのね?」
「左様です。ですが地下神殿はとても大きく、入り組んでいます」
(何そのラストダンジョン的なヤツ……)
私たちは覚悟を決め、小部屋に唯一ある扉に詰め寄った。
今度の扉は先程よりは一回り小さい。なので、魔将は通れないかも知れない。
扉はアルミやチタンの様な、そんな金属で出来ていた。
この世界で初めて見る材質だった。
極めて興味を唆られたが、解析は後日にするとしよう。
「開けますぜ」
そう告げると、オジムはゆっくりと扉を開いた。
グリンと私、そしてキュリアが中を覗き込んだ。
だが、暗くてよく見えない。
そこでキュリアは黄金に光る剣を抜刀し、中に差し入れ照らす。
内部は砂埃が酷い。
なんと魔人どころか、人が入った形跡すらなかった。
何十年も放置されていた様な、そんな状態なのだ。
私たちは扉をそっと閉じた。
Jパートへ つづく




