<17話> 「聖母教総本山」 =Fパート=
後衛の魔将はどうやら白魔術師で、回復役の様だ。
メリダとミリアが距離を詰めると、白魔術師は前衛の魔将二体に強化魔術を掛ける。
「上位物理防御力上昇」と「上位魔術防御力上昇」だった。
(魔将ともなると、敵も強化魔術を使ってくるのね……。硬そうだわ)
私は魔将の実物を見るのは初めてだった。
だが、ゲーム内で酷似した魔人族を知っている為、既知の存在ではあった。
故に強さの想像が付く。
ティーナと闘う前であれば警戒していた。
けれど彼女の強さを身をもって体感した私は、魔将が脅威に思えなくなっていたのだ。
前衛の魔将二体は、メリダたちが近づくと武器を構えた。
前衛はゲームに当て嵌めるのであれば、片手斧と小さな盾を持った戦士タイプと、短剣と投擲武器を持った盗賊タイプだ。
奇しくも、戦闘に参加しない私とキュリアを除くと、こちらのパーティー編成に酷似している。
(良い実戦訓練になりそうね)
魔将はかなりの巨体で、ミリアよりも更に一回り大きい。
メリダと比べると、大人と子ども程の体格差があった。
身体の大きなミリアは、背負っていた五角形の盾を左腕に填めると、メイスの柄を右手で持ち、左手を添えて構える。
対峙するのは戦士の魔将だ。
小柄なメリダは、遠投攻撃に気を付けながら、フレイルの殺傷圏の内側へと侵入されない様に距離を取り構える。
対峙するのは盗賊の魔将だ。
全身プレートアーマーに包まれたミリアは、音を立て、徐々に距離を詰めていった。
その距離は既に、互いの間合いを浸食していた。
近付き過ぎると、メイスを装備しているミリアの方が不利で、斧を装備している戦士魔将の方が刃物である分、有利だ。
そして距離が零となる。
互いに持つ盾と盾が衝突し、車が衝突した様な激しい音が立つ。
全体重を乗せ、戦士魔将に力押しで行くミリア。
戦士魔将は腰が浮くも、耐えきった。
そしてミリアの盾の縁を斧で狙う。
斧による衝撃で盾がずれると、そこを狙い更に追撃を放った。
ミリアは身体を盾と入れ替える様にして身体を捌き、躱す。
斧を盾でしっかりと受けて防ぐ事にも成功した。
一方のメリダは、盗賊魔将と睨み合いを続けていた。
フレイルは敵に当てる迄に、振りかぶる分の隙が出来る。
敵はクロスボウのボルトに似た長細い金属棒を握っていた。
隙が出来るのを待っているのであろう。
メリダはそのボルトを避ける、あるいはプレートアーマーで防いでしまえば、攻撃出来ると思ったに違いない。
フレイルは両手で低く構えられていた。
「もしかしたら、私と同じミスを?」
――そう思った時だった。
メリダは先に動き、振りかぶろうとする。
盗賊魔将はその隙を狙い、ボルトを遠投した。
「馬鹿野郎!」
怒号を上げたのはオジムだった。
ボルトはメリダのプレートアーマーの側面をかすめる。
巧く防げたと思ったのか、メリダが振りかぶり終え、攻撃に転じた。
フレイルの槍部分で攻撃していたのならば、あるいは間に合っていたのかもしれない。
低く構えていた分、振りかぶるのに時間が掛かってしまったのだ。
気付いた時には既に二投目のボルトが放たれていた。
目前で放たれたボルトの直撃をメリダは喰らってしまう。
メリダの前に岩で出来た壁が現われて身代わりとなったが、近距離である為、ボルトの威力は落ちなかった。
それでもメリダはフレイルの攻撃を止めなかった。
鎖に繋がれた鋼鉄製の棍棒が盗賊魔将を襲う。
だが、ボルトの直撃を喰らってしまったが故に速度が落ち、容易に躱されてしまった。
ボルトはプレートアーマーの腹部分を貫通していた。
出来た穴からは血が溢れ出ている。
盗賊魔将は更なる追撃にと、三投目を放つ。
放たれたボルトは、メリダには届かず、大きな戦斧の腹部分が弾いた。
「おいおい。嬢ちゃん。ありゃぁ、暗器。暗殺武器だぜ? 暗器を堂々と見せてたんだ。少し位は勘ぐろうぜぇ」
メリダの流血は直ぐに収まっていた。
エミアスが戦闘開始前に掛けていた「上位自動回復魔術」の効果で、直ぐに傷口は塞がったのであろう。
私の隣に居たキュリアが呟く。
「今のボルト一撃で最初に掛けた『岩壁城壁』は消滅し、『土乃羽衣』の効果も一時的に減弱してしまいましたね……」
前者はダメージを受ける時、一定量を岩で出来た壁が身代わりとなり防いでくれる術だ。
後者は土属性の恩恵が受けられ、土属性魔術効果上昇や土雷属性耐性上昇などが得られる術だ。
私が一番驚いたのはオジムの的確な判断と援助だった。
(ただの脳筋キャラだと思っていたのに……。さすがはギルドトップ。お髭は伊達じゃないわね)
ちなみに脳筋とは、脳まで筋肉で出来ているの意だ。≪注1≫
ミリアは戦士魔将に力押しで挑んでいたが、徐々に押し返される様になってきた。
体力の差が出てきたのであろう。
自分の力が魔将にどの程度通じるか、試すのには絶好の機会だったのであろう。
戦士魔将の放つ片手斧の攻撃をミリアは盾で受け流す。
そして短めに持ったメイスで反撃をする。
短く持ったが故に威力が落ち、盾で防がれてしまう。
「えぇーい!」
ミリアはそのまま盾ごと粉砕する勢いで、二度程殴り付けた。
戦士魔将は盾に体重を掛け、ミリアを盾で吹き飛ばす。
ミリアも体重を乗せた攻撃であった為、重心が崩れ、簡単に転んでしまう。
尻餅を付く形となってしまったミリアを今度は斧が襲う。
メイスの枝部分を片手斧の柄部分に当てて防ごうとするミリア。
しかし勢いは殆ど落ちなかった。
岩で出来た壁が現われて身代わりとなり、威力は多少落ちた。
それでもミリアは肩口をプレートアーマーごと押し斬られてしまった。
肩より伝い、ミリアの血が地面を染める。
ミリアの肩に刺さった斧は尚も身体を侵食する。
肩をやられ、メイスの枝部分を支え切れなくなっていた。
「ぐぅぅんん」
ミリアが苦痛と、踏ん張りの為か、声を挙げる。
「全く、魔将に正面から力勝負とは、呆れてしまいました」
グリンは戦士魔将の背中にいつの間にかいた。
「ギギぎぎぎッ」
今度は戦士魔将が苦痛で悲鳴を上げる。
グリンは大きな短剣を両手で、戦士魔将の背中に突き刺していたのだ。
戦士魔将はミリアの肩から片手斧を抜き、グリンを薙ぎ払おうとする。
グリンは軌道を読み、簡単そうに躱す。
「さすがは魔将。簡単には倒せませんね」
ミリアの肩口も「上位自動回復魔術」の効果で傷口が塞がった様だ。
地面に出来た血溜りは、それ以上広まらなかった。
白魔術師の魔将は、直ぐさま中位回復魔術を詠唱する。
あっという間に、グリンの短剣が付けた戦士魔将の傷は癒えてしまった。
(回復魔術の存在する戦闘。ここまで私のいた世界の現実と乖離するなんて……)
Gパートへ つづく
≪注釈1:出典元 FF11用語辞典 http://wiki.ffo.jp/html/135.html≫
脳筋とは、特にMMORPGにおいては「回復、支援役の負担やパーティ全体の事を考えないアタッカー」や「自身の最大火力に集中するあまり、被弾や他のメンバーに気が回らない人」の事を言う。




