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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第四章 5節   <16話>
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<16話>  「未来」   =Fパート=


「嬢ちゃん、強ぅござんすねぇ。だがこれで、もう六段目おしまい


ティーナは剣を横にし、ルーンの刻まれた黄金の樋部分に指を二本這わせる。


「えんちゃうんとウィンド」


ルーンが呼応し、剣の周りにある空気が音も無くただ歪む。

キュリアの師ブラギであれば、刻まれたルーンから効果を読み解けるかも知れないが、キュリアにはまだ真似はできない。


ティーナは剣を正面中段に構える。

ところがキュリアの目には、構えた剣が歪んで見えているのだ。

時にナイフの様に短く、時に大剣の様に長く。

見え方も、刻々と変化している。


キュリアは元の剣の長さを体感で覚えている。

幻術の類いで剣を当てられる程、間抜けではない。

しかし、結果は違った。


ティーナの斬撃がキュリアを襲う。

中段からあまり振りかぶらず放たれた斬撃。


それまでと同じ感覚で躱したキュリアは、斬られてしまった。

肩口から二の腕にかけて、ザクリ。


痛みを感じる間もなく、更なる追撃がキュリアを襲う。

キュリアは受ける為に、剣を重ね合わせ様と試みる。

ところが、剣が交じり合うことは無かった。

追撃はキュリアの脇腹に、深く爪痕を残す。


キュリアは必死に剣で牽制をした。

もし攻める姿勢を見せなければ、そのまま斬り殺されていたであろう。


ティーナは一旦間合いを外した。

無理に攻める必要がなかった。

次も一方的に攻められる、そう思ったに違いない。


キュリアの服は上腕と脇腹の部分が裂けている。

服に付く血は、わずかに滲む程度で済んでいる。

中位回復魔術が瞬時に出血を収めたからだ。


「さあ、どうしやした? おっんじまいやすよ」

追い詰められたキュリアをティーナはあおる。


キュリアはワンピースのスカート部分を少し持ち上げ、剣を突き刺した。

布を裂く音が響く。

自身でスカートにスリッドを入れ、可動域を広げたのだ。

スリッドからはキュリアの細い脚と下着の一部が露出している。

そのスリッドから出た左脚を大きく曲げる。

キュリアはそれまでよりも体勢を低く構えた。


受けに回らない様、キュリアは激しく攻める。

しかし斬撃はそれまでと同様、剣を合わされて受け流される。


そして返す剣で、胸元を一文字に斬られてしまう。

これも後方へと実際には躱した筈だった。

それにも関わらず、やはり斬られてしまった。


キュリアは直ぐさま魔術で回復する。

もし、あと少し後方へ避けた距離が短ければ、心の臓にまで剣は達していたに違いない。


回復が終わると一文字に斬られた服の裂け目からは、豊満ではないが形の整った胸の下部が露出してしまっている。


鎧を少しでも身に纏っていれば、また違う展開になったかもしれない。

だが後悔は無いであろう。

もし剣まで置いてきてしまっていたら、闘うことすらも出来ず、逃がしてしまっていたのだから。


キュリアは剣を再び構える。


イリーナを救い出す為。

ルイダとの約束を守る為。


今まで救えなかった者たち。

目の前で消えて逝った者たち。


全ての思いを力とし、奮い立つ。


そんなキュリアをティーナの上段斬りが襲う。

キュリアは柄の部分に巧く剣を重ね、剣で受ける事に初めて成功した。


しかし体勢が少し崩れてしまったキュリアは、ティーナの追撃の突きを喰らってしまう。

突きを剣で弾こうとするも、見えている位置に、剣が存在しておらず、防げなかった。

そして連続突きをキュリアは喰らってしまう。


魔術で自己回復し身体は回復するも、服はぼろぼろとなり、魔力量も減り始めている。

徐々に追い詰められるキュリア。


キュリアはまだ諦めていなかった。

確かに剣を用いた近距離戦闘では負けている。

だがキュリアの最も得意とするのは中距離戦闘なのだ。


そう、キュリアは剣の達人であるが、同時に偉大な魔術師でもあるのだ。


――スキル「即効魔術」発動――

「トルネド・サイクロン」「プラズマ・ブラスター」


上位魔人より上の魔将にすらダメージを与える頃の出来る魔術だ。

古代魔法を魔術で再現した物で、高威力魔法を魔力消費量を抑えて魔術として行使するのだが、通常であれば代償として長い詠唱が必要となる。



キュリアのスキルにより、瞬時に発動した暴風と雷撃。

その二つが剣を構えるティーナに襲い掛かる。


「こりゃ、マズイ! うぎわぁぁやあぁぁぁぁぁぁ!」

ティーナは奇声を上げた。


だがしかし、暴風と雷撃のその二つは、ティーナの持つ剣に吸い込まれていく。

「な~~んてねぇ」


その様子を見て、キュリアは愕然とした。

師のブラギが持つグングニィルを思い起こしたに違いない。


一方のティーナは戯けて笑っている。

そして暴風と雷撃がキュリアを襲う。


「さらば!!」


暴風は渦となる。自然の物であれば渦は地表より垂直に伸びる。

だがこの竜巻旋風は水平に伸び、中心に雷撃を包み込み、更に雷撃を周囲に発生させて襲ってくるのだ。


キュリアはとっさに、反属性を含む土属性金属魔術を詠唱する。

キュリアの前に金属で出来た盾が現れるも、その術が発動したのは、僅かに直撃を受けた後だった。

雷撃は盾と剣により耐えきった。

だが、暴風には対処が間に合わず、キュリアの身体は竜巻旋風に飲まれてしまう。

風圧で呼吸もままならず意識を失い掛ける。

水平に飛ばされた後、上空へと舞い上げられ、そして意識の混濁した状態のまま上空で投げ出される。


自然の災害に抗えない様に、キュリアはただただ喰らう。

放たれたキュリアの身体は周囲の家々を薙ぎ払い、地面へと叩きつけられ、身体は何度か弾んだ。

物理防御の魔術が掛かっていなければ、それだけで即死していたであろう。


キュリアはそれでも意識を失わなかった。

起き上がる為に、うつ伏せに体勢を変える。

傷付いた自身に回復魔術を掛けようとする。

地面を必死に這いつくばるキュリア。


イリーナを護るとルイダに誓った。

「護るべき者をまた護れない」と、かつて祖国を救えなかった自身を嘆く。


「八英雄などと言われているが、このザマだ。自分が情けない。あの時も、そうだ……。私は無力だった」







「魔神……、私はこのまま……」

氷の監獄内にて、微かな声が幾重いくえにも反響する。


瞼を閉じたらそのまま二度と開ける事はできないと思いつつも、キュリアは瞼を閉じた。

凍て付く寒さにより痛覚のみが残り、閉じた事により視覚までも奪われる。

微かに残る聴覚。

誰かの近づいて来る足音が、幻聴であるのか、それすらも分からない。


だが突然に、失ったと思われていた味覚が反応を示す。


「甘い……? いや、酸っぱい……。それと、暖かい」


キュリアは徐々に意識を取り戻す。

失われていた魔力が徐々に戻り始め、視覚が回復していく。


そして目の前に赤銅色の何かが、ぼやけてはいるが徐々に見えてくる。


「あぁ、ヴァナディース様……なのですか? これは夢か幻か。それとも既に死者の国なのか」


生命魔力マナが枯渇していた為、生命の果実を貴女に与えました」




ぼやけていた視界が戻る。

するとキュリアの目に映ったのは、赤銅色の髪ではなかった。

映ったのは、魂の(ほむらが、そのまま形となり出でた炎の様に真っ赤な色の髪だった。


「あぁ、私はまた助けられたのか……。イリーナ様のお姿を拝見し、更にはルイダ嬢の話を思い出した。あの薔薇のお嬢様はきっと、イリーナ様を魔王軍から解放したリル殿に違いない……」

虫の息であったキュリアは、どこか安堵の表情を浮かべ、その場で意識を失い、前のめりのまま倒れ込んだ。


意識を失った筈のキュリアの口が微かに動き、声が発せられる。


「イリーナ様……を……」



Gパートへ つづく

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