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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第四章 5節   <16話>
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<16話>  「未来」   =Eパート=


「お嬢ちゃん、あたいのリーナに用?」

さらに、一呼吸置いて続ける。

「それとも、あたいに用かい?」

お嬢ちゃんと呼ぶ声の主は、キュリアよりもむしろ若く見えた。

淡い薄紅色の髪がなびき、イリーナを隠す。


「いえ。その……」

死神に会う覚悟でいたキュリアの前に現れたのは、口を閉じていれば大国の王女としか思えない程に品格のある少女だった。

その差にキュリアは困惑する。


イリーナは死神の少女を腕で制止し、前に出る。

それをキュリアは笑顔で迎えようとする。

「イリーナ様、キュリアと申しま――」


言い終える前に、イリーナは言葉を被せる。

「ごめんなさい。巻き込んでしまい」


「え?」

キュリアが声を上げた直後だった。

イリーナの姿が何の前触れもなく消える。

神隠しにでもあったかの如く忽然と。

転移とも違う、何かが目の前で起きたのだ。


消えたその先では、死神の少女が右手を挙げて、何かを握り掴む仕草をしていた。


「残念。感動の場面なんてぇ、ありゃあしゃーせんぜぇ。リーナは、あたいの多次元収納中なのでさぁ〜」

悪びれる様子もなく、冷めた様子も見せず、死神少女は難しい顔で言い放った。


「おい、イリーナ様をどこへ?」

キュリアが声を凄ませる。


「いやいや。今、言いやしたぜぇ」

眉間にしわを寄せ、更に難しい顔で言った。


「何らかの術で、イリーナ様を貴殿がとらえている……という事なのか? ならば返してもらう」


キュリアのその言葉を聞き、死神少女は難しい顔を止める。

目を細め、細いまぶたの隙間からキュリアを見つめるのだ。

「嫌でありんす。あたいはティーナ」

死神少女であるティーナはつやっぽい声で名乗りを上げ、明後日の方向を指差す。

「返して欲しくば、そう、あのお山の頂へと来なしゃんせぇ」


「あの山? 総本山、……な……の?」

そう聞き返すキュリアに、ティーナは二度頷いた。


「なるほど。しかし、ここで何もせず逃す訳が無かろうに……」

剣の柄に手を掛けるキュリア。


力尽ちからずく……ってぇ訳ですかぃ? お嬢ちゃん、止めておいた方がよぅござんすぇ」

死神の少女ティーナも剣に手を掛ける。


黄金の光を放つ剣を抜くキュリア。

黄金のルーンが刻まれた剣を抜くティーナ。


「てぇい、すっこんでろぃ」

ティーナは大上段から、片手で打ち放つ。


キュリアは体捌きでティーナの右手側へと剣を突き出したまま避け、そのまま両手で横に薙ぐ。


避けられた大上段、振り下ろした剣の腹で横薙ぎを防ぎ、空いている左手で剣の腹を支えるティーナ。

踏み込んで避けた為、横薙ぎは鍔際つばぎわの速度が乗らない部分に剣を重ねられ、防がれてしまうキュリア。

互いに剣を走らせると火花が散り、金属の擦れ合う高音が微かな残響となる。


一度、互いに間合いの外へと出ると、二人がほぼ同時に術の詠唱を開始した。


上位物理防御力上昇フィジカル・プロテクション

上位物理防御力上昇ふぃじかる・ぷろてぇぃくしょ


先に詠唱を完遂させたキュリアが一気に間合いを詰め、上段から攻める。

「ぜや」


ティーナはキュリアと違い、半歩下がり体を横にして右へとかわし更に剣でもいなす。

交差している剣はそのまま持ち上がり、距離が縮まると鍔迫り合いと化す。

そこからティーナは前蹴りを放った。

キュリアの腹部に衝撃を与えた。


「ぐっ」

キュリアの顔は苦痛で歪むも、牽制の一振りをする。

ティーナの顔は笑みで歪み、その場に仁王立ちをする。


一呼吸置き、キュリアは反撃する。

中段に構え、距離が詰まった所で両手で突きを放った。


ティーナは突きを鍔元つばもとなし、交わしたまま剣を走らせる。

またしても距離が詰まった。


キュリアは突きの勢いのまま体当たりをし、相手の重心を崩そうとする。

だが、ティーナの重心は殆ど崩れない。

そして、そのまま抱き付かれてしまう。


「いいね。君」

そう言うと、ティーナはキュリアの首筋に舌を這わせる。


「なっ!」

キュリアは剣から片手を離し、ティーナを押し退ける。


距離を取るキュリアの背筋が凍る。

死神に首元を狙われた。

首筋の舐められた痕に冷気を感じる。

キュリアは手と袖で、その箇所をぬぐった。



剣術に関してはキュリアが圧倒していた。

それにも関わらず、キュリアは攻めきれず、最初はむしろ押されていた。

ティーナの剣による受け流しの技術には卓越したものであったからだ。

また、ティーナは軽装とはいえ胸当てや小手等を装備している。

それと比べてしまうと、キュリアは裸同然の装備なのだ。

防御魔術で多少ならば防げるとはいえ、強撃を喰らえば致命傷となってしまうからだ。


ただ、最初こそ押されていたキュリアではあったが、徐々に巻き返していく。

その理由は明確だった。ティーナの剣による攻撃が、キュリアに全く当たらないのだ。


攻めあぐねてきたティーナに、焦りの表情は無かった。

ティーナからすれば「子どもの剣術ごっこに付き合ってあげた」その程度なのかも知れない。



「嬢ちゃん、強ぅござんすねぇ。だがこれで、もう六段目おしまい


ティーナは剣を横にし、ルーンの刻まれた黄金の樋部分に指を二本這わせる。


「えんちゃうんとウィンド」


ルーンが呼応し、剣の周りにある空気が音も無くただ歪む。



Fパートへ つづく

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