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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第四章 5節   <16話>
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<16話>  「未来」   =Bパート=


司祭のハルモニアは八十歳を過ぎていよう老婆ではあったが、声が若く、顔を見なければ三十から四十代と思える程だ。

一方のキュリアは同じくらいの年齢ではあるが、見た目は十代の乙女なのだ。

正体を明かしていないキュリアではあったがハルモニアと何故か互いに直ぐ打ち解けたのには、実年齢の近しさがあったのかもしれない。


「教会は暇な方が良い事もあるのですよ」

そう答えたのはハルモニアだった。


「失礼致しました。考えが及ばず」

そう謝罪したのはキュリアだった。


「式で忙しいのが、婚姻の儀式ならこれ程の喜ばしい事はないのですが……」

ハルモニアは下を向いていたが、視線を上げてキュリアの顔を見て言う。

「式は、ぜひ我が教会で!」


「え? あ、その……。あ、相手が……」

今度はキュリアが下を向いてしまう。


それを見たハルモニアは一段と可愛い声で、おどけて言う。

「あらあら。キュリアさんも例えばこの街で、運命の出逢があるかも知れませんよ?」


キュリアは照れながら、視線を元に戻した。

「そう、ですね……」


ハルモニアは年甲斐もなくはしゃいでいた。

「そう考えて生きて行ければ、毎日が素敵ではないですか」


「ハルモニア様は、本当に乙女でいらっしゃる」

そう述べたキュリアの顔は少し浮かない。


「あらやだ。もう……」

ハルモニアはキュリアの顔を見ず、両手を頬に当て照れていた。


キュリアは、ハルモニアの「そう考えて生きて行ければ」という言葉に対し、複雑な思いであろう。

「生きる……」

「そもそも自分が生きていると言えるのか?」

そう心の中で自問自答したに違いない。



「マザー、そろそろ大聖堂へとお願い致します」

修道女がハルモニアを呼びに来る。


残念そうな顔でハルモニアは修道女の呼びかけに応え、キュリアにお辞儀をした。

「昨日、総本山へ出向いた者たちからの報告が、無事に本日あれば良いのですが。来なければ次の手を考えなければ成りませんね。それではキュリアさん、続きは明日にでも」


「はい。ハルモニア様。窮地の際には()せ参じます。我が剣に誓い」

キュリアは胸に手を当て、王国式の敬礼をした。


「あら、騎士の様な事を……。キュリアさんが剣を振るっている姿をわたくしは想像も出来ませんが……お気持ち、ありがとうございます。キュリアさんの様な乙女が剣を持ち、そして人をあやめることの無い様な世界にしていかなければ成りませんね」

そう言葉を残し、ハルモニアは礼拝堂を後にした。


その後、キュリアは港へ向かった。

だがこの日も特別な事は何もなく、一日が過ぎていった。




翌朝、宿の近くの空き地にて、剣を持って修練に励むキュリアの姿があった。


「ふん」


「やー」


右手一本で剣を振るうキュリア。

流れるように持ち替え、左手一本で剣を振るう。

自身で数十年練り上げた型稽古。

ただの人の身であれば、数十年掛け剣の技術を積み上げた時点で肉体は最盛期を過ぎる。

故に人々は次の世代へと伝授し、世代と共に技が練られてゆく。

だがキュリアは、一代でその全てを築いていた。


キュリアの構えが徐々に二刀の剣を持つ事を想定した動きへと移ってゆく。

一刀しか手元にはないが、それでも二刀を構えていると錯覚させらる程、気迫の篭った所作だった。


二刀同時の斬撃、時間差の攻撃、攻防を振り分けた太刀筋、二刀受けからの攻勢。

様々な相手、様々な状況を想定し、懸命に剣を振るうキュリア。

額より滴る汗が眉を伝い目尻の横から流れ、顎より垂れ落ちる。

服の胸元部分や脇辺りからは、汗が滲み出ている。


キュリアの修練はいつの間にか、人を想定したもから、魔人や魔獣を想定した実戦的なものへと変わっていた。

まず初めに、実際よりもゆっくりとした動きで、想像した敵と闘う。

今まで魔人と闘ってきた経験から想定される動き、その想定を越える動き、様々な想定をし、考えながら自身も動く。

次に、素早い動きでそれを再現する。

キュリアは全力であり、剣の振りは速く、常人では何が起こっているのかを理解すら出来ない。

そして、それを何度も繰り返すのだ。


目の前に現れる魔人。

一体目を倒し、二体目も倒す。

三体目の攻撃を足捌きで避け、脇腹を斬り上げあばらを砕く。

別の剣で斬り口を突き、心の臓を貫く。

内臓から噴き出す鮮血は青く、キャリアの服を濡らす。


血飛沫ちしぶきか、べたべたする。ん……? あーーーーーー!!」

集中力が途切れたのか、突如キュリアは声を上げた。


「これは……返り血ではなく、汗……。しまった。どうしよう。この格好で帰るのは、とても恥ずかしい」

キュリアは自身の谷間の形にくっきりと汗が染めた箇所を両腕で隠す。

手にしていた黄金の剣は、そのまま地面に深く刺さった。


稽古の疲れからか、集中力が完全に途切れたキュリアは頭を抱えている。

しばしの静寂が包む。


「とりあえず、宿に戻ろう……」

そう呟くと、剣を鞘に収め空き地を抜けた。

裏通りから出ると行き交う人々の姿があった。

キュリアは胸元を押さえると、元の裏通りへと後退あとずさりする。

結局、宿へは裏道伝いに進み、裏口から入る事となった。



Cパートへ つづく

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