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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第四章 4節   <15話>
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<15話>  「暗雲あるいは雷雲」   =Hパート=


「良かった。間に合いましたね」


声の主は、エミアスであった。

その声に反応し、勇者は構えを解いた。

おかげで私は声のする方を見る事が出来た。

それとほぼ同時に、私の前に現れた三つの立体魔方陣も消えた。


エミアスのかたわらには、キュリアが居た。

キュリアの服は切り刻まれボロボロで、襲われた後の様な、酷い格好だ。

ロングスカートには切れ目が入り、下着の白いズボンと脚が見える。

そして服は胸元が切れ、乳房の下半分が丸見えだった。


「リル殿、ありがとうございます」

キュリアは左手を胸元に当てがいながら、頭を下げた。

その頬は僅かに赤い。


私は大きく頷く事でキュリアに応える。


そして、エミアスには目を合わせずに伝える。

それはエミアスに合わせる顔が無かった為ではなく、勇者から長く目を離せないからだ。

「ごめんなさい、エミアス。イリーナは既にあの子にさらわれてしまっていて……」


「はい。キュリア様から伺っております」

エミアスの声は、哀しみに溢れていた。

顔を見ずとも、私にはエミアスの表情が分かる。


そんな思いとは裏腹に、キュリアとエミアスの二人が駆け付けて来てくれた事が、私は純粋に嬉しかったのだ。

頼れる仲間と伴に闘えるのだから。


「あのピンクの髪の子、強いわ。対処は任せて。あと伏兵に気を付けてね。私も気を付けるわ」

そう告げると、エミアスが答える。


「ええ、私もキュリア様をお助けする時から、視線を感じておりました」


私は辺りを警戒しつつも、勇者から目を離さない。

だが、その様子に少し気になる点があった。

先程からこちらを眺め、黙っている勇者。

あれだけ戦闘中に喋っていた彼女が、黙ったままなのだ。


「ティーナ?」

そう声を挙げたのはエミアスだ。

戸惑ったまま口ずさんだ、そんな声色だった。


「ティーナ」と言われたからか、勇者の口調と声質こえしつがそれまでの物と一変した。

淑女の様な物言いへと変わったのだ。

「マザー、久しぶりですね。リーナの意識、戻って来たみたいで良かったです。あたしもね、凄く嬉しかったんですよ。でも残念だなぁ。リーナはあたしが貰っちゃうんですからね」

勇者は左手の人差し指を顎に当て、考えているそぶりをして見せた。

「そうだ、そうだ、エミアスお母様もおいで下さいよ、こちら側へ。昔みたいに三人で遊びましょうよ。ねっ。ねっ」



私は剣を持った右手を横へと大きく広げ、エミアスの回答を制止した。

「思い出したわ。勇者バレンティーナ、いえティーナさん」


私はいつだかは忘れたが、イリーナとエミアスが馬車でティーナという名前を口にしていた事を思い出した。


勇者ティーナは哀しみと嫉妬の混じった複雑な表情で、私を見つめてくる。

私はそれに対し、彼女を見つめ返す。

だが私は直ぐに目線をずらした。

そしてティーナの持つ剣を見て言う。

「エミアス、耐性魔術をお願い。雷、風、火、そして光ね」


「ぐぬぬぬ、ぬぬぬ」

ティーナは言葉にならないうめきをあげた。


(あっ……? え?)


エミアスは一瞬にして四つの耐性魔術を同時発動し、私に掛けてくれた。


私は右手を広げたまま、ティーナに近づく。

軽く左手を添え、自然な流れで正面に構える。

剣先を相手の喉元に定める、正眼の構えに移行したのだ。

そして互いの間合いを侵食し、剣と剣が交差する。


“一刀流・漆膠之付(しっこうのつけ)


重なり合う剣と剣。

ティーナの剣は私に制御され、私の剣のみが相手へと届く。

攻防一体のまま突き放つ。


黄昏たそがれの剣、その切っ先がティーナの左首頸動脈へと達する。

押さえ付けられた蛇口の如き勢いで、鮮血が飛ぶ。


ティーナの剣、合わせても痺れる程度。

「いける」そう感じた私はとどめを刺す為、打ち込もうとした。

だが、それは叶わない。


私の足元に、魔術陣が出現したからだ。

私は即座に魔術陣から飛び退いた。


するとそこから、メイド服を着た小柄な少女が飛び出してくる。

少女は濃い緑色の髪をしていた。

この世界では珍しい、髪の毛が肩の手前までしかない髪型だった。


そしてその少女に続き、私と同じ位の歳の女性が現れた。

この世界で初めて見る、黒く長い髪をしてしている女性だ。

その美しさと妖艶さに、一瞬心を奪われ掛けた。

だが身に付けている羽織袴の方に、私の興味は直ぐに移った。

この世界にも、日本国ジパング、あるいは遠東ひんがしの国が、存在する可能性を想像したからだ。


「不死鳥の円舞」

手に持つ扇を広げると、黒髪がなびく。

それと伴に扇から炎がで、鳥の型を成し螺旋状に飛ぶ。

空いた手で、意識を失い倒れ掛けているティーナを抱えていた。


「哀れなこと」

扇をたたみ炎が収まると、ティーナの首にあった傷がなくなり、さらに血色までもが一瞬にして戻っていた。


私は直ぐに体制を立て直し、剣を構えた。

メイド服の少女が突っ込んできたからだ。


その突進は私の想像を超えていた。

剣の間合いの内側へ、あっという間に侵入を許してしまった。

メイド少女は指を伸ばし、手刀を突き出してきた。

私は鍔元つばもと(=鍔に近い刃の部分)で懸命に防ごうとした。


  キ"ン"


想像と違い、聞いた事の無い音がこだます。

重金属同士の衝突と、軽金属同士の衝突とが、同時に起きた様な音だった。

しかもそれが、剣と手刀が衝突して出来た音なのだ。

「こいつはヤバイ」そう思った時だった。


私の横から現れた抜刀しているキュリアが、メイド少女に斬り掛かったのだ。

上段に構えられた黄金の刀身を持つ剣が襲う。

メイド少女は懸命に躱すも、間に合わず手刀で弾いた。


キュリアは激しい斬り込みの為、服からは胸が露出し、淡い色の突起部分が露わになってしまっていた。

だがキュリアは気にする事なく、追撃を放つ。


メイド少女は、ただの人では有り得ない魔拳師まけんしの様な超人的動きで、後方へと大きく飛び退いた。

それを見た私は、ソフィアの母である魔拳師まけんしユフィアの姿を重ねる。


惜しくもかわされたが、キュリアはずっと、この伏兵が現れる瞬間を狙っていたのかも知れない。

私はそう思った。


メイド少女は、抱えられているティーナの元へと駆け寄った。


エミアスも、私とキュリアの直ぐ後ろへと駆け寄る。

するとエミアスは、長い長い防御魔術を詠唱し始めた。

詠唱が終わり、私たちの足下に魔術陣が出現した時だ。


私たち三人を中心に、別の魔術陣が展開された。

その規模は、エミアスが展開させた魔術陣の十倍以上であった。



Iパートへ つづく

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