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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第四章 4節   <15話>
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<15話>  「暗雲あるいは雷雲」   =Gパート=


黄昏たそがれの剣、私の愛剣。

私は彼女にこの世界へ来て以来、何度も助けられた。

思えば、この世界へ来た最初の晩も彼女に助けられたのだ。


この世界へ持ち込めた、私の数少ない本気ガチ装備。

彼女は耐久値が減らない、つまり破壊不能武器である。


「皮肉なものね。自分に出来る事をしようと誓ったのが教会であるのに。今から教会の倫理に反する決闘を始めようなんてね。じゃあ、イリーナを返して貰うわよ」


勇者は歯を見せ、不気味な笑みを浮かべながら近寄ってくる。


何の示し合わせもしていない。

それにも関わらず、互いの剣と剣を合わせた。

二つの金属音と伴に、火花が散る。

互いに間合いの外へと出て、距離を取った。



勇者の持つ剣も、かなりの業物わざものであろう事は想像出来た。

銀色の刀身に金色のとい。その樋には、なにやらルーンの様な紋様が刻まれている。


(八英雄キュリアを倒した実力者だ。注意せねば)


私の心配を他所よそに、決闘は淡々としたもので始まった。

まるで剣道の稽古の様に、剣と剣を重ね合っているのだ。


使っている武器は、ほぼ同系統の片手直剣。

各々片手から両手に持ち変え、徐々に剣速と威力が上がっていく。


勇者は盾を使うのが本来の戦闘スタイルであろうと、私は太刀筋から想像した。

一方、私の戦闘スタイルは日本刀を用いた古武術が元だ。

それは剣術を習っていた兄の影響なのだ。


仮想世界と現実世界には違いがある。

性別による筋力差を魔力にて補えるのもその内の一つ。

魔力による加護が存在するこの世界において、男女での戦闘力に差が生まれづらいのであろう。

そう考えると、剣を交えている勇者が、少女である事も頷ける。


「強ぅ、ござんすね。そこでお昼寝してる嬢ちゃん程では、ねぇですが」


勇者は右肩を押さえ、右手一本で剣をブイブイと振り回す。


「そんじゃぁ、いきやすよ? 面白れえ見せ物、出して下せえよ。じゃあねぇと、おっ死んじまいやすからねッ!」


勇者は振っていた腕を止め、魔力を剣へと走らせた。

「魔法剣エンチャントさうんだぁー!」


「!?」


勇者の剣が電を帯び、そして放電する。

バチバチと電気回路のショートする様な音が辺り一帯へと響いている。

空気中に舞ったほこりが雷に触れ、焦げた匂いが鼻を突く。


「大さーびす! 嬢ちゃんにも使わねえでおいた雷属性!」


「何が『大さーびす!』っよ。土属性の魔法を付けて、お返ししたい位だわ……」

口では強がってみた私だが、対処法が直ぐに思い浮かばないでいた。


「ああ、それ良ぅござんすね」


勇者は詠唱を始める。

攻撃の最大のチャンスであった。

だが私は鼻を突く焦げた匂いに、怯えていたのかも知れない。

何もせず、黙って出方を見る事しか出来なかった。


「上位雷撃魔術発動」


轟音と共に天空より雷が飛来し、勇者の持つ剣へと宿る。


「あれ? いっけね、属性を間違げえた」


(絶対、わざとでしょ……。本当に読めないわね。やり辛い子。対戦相手としては苦手なタイプだわ……)



魔法文字ルーンを用いた魔法剣に、魔術による追加の雷。


(あれ、マズイわね。絶対に剣を交えただけで、感電するヤツでしょ……)


距離を詰める勇者。

半歩下がる私。

お互い、剣の間合いへと達する。


いつの間にか構えが低く、刀を前方で横に構えてしまっていた。

無意識に私の剣が寝てしまったのだ。

気持ちで負けていた。


勇者が斬り付けてくる。

私は回避する。

わざとらしい大振りな一撃を重心を崩さずにかわし、連撃に備えた。


勇者の追撃は横薙ぎであった。

本来の私であれば、相手の剣を持つ手を狙って打ち込んでいた。

だが剣が寝ていた為に、私は隙を突く事ができなかった。


それゆえ、追撃に対して身体をよじり必死に躱す。

多少体勢を崩したが、なんとか避けきれた。

もし更なる追撃が来ていたら、完全に喰らっていたであろう。


私は横へ回り込む様に移動して、大きく距離をとる。


勇者は剣をもう一度構えた。

私は既に、どう倒すかよりも、どう躱すかを考える様になっていた。


私はひとまず、扉の付いていない石造りの民家へと逃げ込んだ。

先程から気になっていたのだが、周囲に人の居る気配が無いのだ。

あれ程賑わってた街であるのに。



「やはり敵は一人では無い」私はそう確信した。

しかし、目の前に敵が迫ってきている今、システムを使い調べる余裕など無い。


キュリアを置いて行くのは心苦しいが、助けに行った所を狙われる可能性も高い。

少なくとも私が敵ならば、抱きかかえて両手が塞がったタイミングで襲う。

逆に私が近寄らない方が、キュリアにとって安全な場合すらありえるのだ。

自身の安全を確保してから、あるいはいてから、助けに行くべきだ。


私は石の冷たい壁に背中を預けた。

更に冷静な判断ができるよう、深く息をした。

(さて……)


背中がほのかに温かく感じる。

私は慌てて壁から背中を離し飛び退いた。


石の壁がみるみる溶け、スライム状になっていく。

溶けた壁の向こうには、右手に雷を宿す剣を持ち、左手を突き出している勇者のしたり顔が見て取れる。

私はすかさず裏口から逃げる。


このまま、やられっ放しなのもしゃくなので、私は待ち伏せて追ってきた勇者の右側面を突いた。

少し恐怖に慣れたのかもしれない。


勇者はつかで、私の突きの軌道を変え、更に身をよじかわす。

余程焦ったのか、勇者は体勢を崩しその場に倒れ込み、尻もちをついた。


私は倒れた勇者に追撃をせず、建物沿いに逃げた。

勇者がどんな顔をしているのか、気になったが、正面から見る余裕などは無かった。


その後、子どもの鬼ごっこが続いた。

勇者は建物の角などで特に警戒しており、私を追う速度が明らかに遅くなっていた。


建物を抜け、通りへと出ると、勇者は上位雷撃魔術を再び発動させる。

効果時間が切れていたのかも知れない。

いつの間にかスパーク音が聞こえなくなっていたからだ。

私は勇者が尻もちをついた時に、剣を手放していたのを思い出す。


多次元収納を持つ相手だ、おそらく剣を巻き上げても次のが直ぐに出てくるであろう。

そして、盾を持たれてしまうと厄介だ。


「さ、遊びはおしめぇでござんす」


勇者がそう告げた時だ。

剣を構える私の前に、突然小さな立体魔術陣が三つ現れる。

この種の立体魔方陣に、私は見覚えがあった。


「良かった。間に合いましたね」



Hパートへ つづく

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