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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第四章 4節   <15話>
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<15話>  「暗雲あるいは雷雲」   =Fパート=


私は、とっさに剣を構える。

敵だと本能で感じたからだ。


「イリーナ様……」

キュリアは小さな声でそう言い残すと、意識を失ってしまった。


崩れた建物の塵が収まると、ピンク色の髪が私の目に映る。

子ども向けアニメの主人公を彷彿させる、そんな少女が目の前で抜刀して突っ立っていたのだ。



「ちょっと、ちょっと、ここほこりっぺぇんだけど! シケた町だねぇ。港町だけにシケって訳かい? おぉ、こりゃ上手く語呂が合ったねぇ」

ピンクの少女は、文句を言いながらも上機嫌の様だ。

目を細め、口を開けて笑っている。


私は得体の知れないこの主人公格の少女を警戒し、GMのスキル「検閲」を即座に使った。


============================================================


<<Валентинаバレンティーナ・Walhallaヴァルハラ>>


称号:†ごっどますたぁ♡†


種族:超人


年齢:115歳


職業:勇者


============================================================



(はぁ!? 職業勇者?? 勇者って、そもそも職業ジョブなの?)


バレンティーナという名の勇者がこちらを見る。


「あやぁ? 誰でありんす?」

勇者は、新しい玩具を見つけた子どもの様な眼差しを私へ向けていた。


あまり気分の良い視線ではない。

正直、()()()では関わりたくないタイプだと思った。


だがしかし、私には確かめなければならない事がある。

キュリアが気を失う前に言っていた言葉が気になるのだ。


これは直感だ。

そして直感から、ある考察を導き出す。

「イリーナに何かあったのかもしれない。だから、キュリアが必死になって戦っていた」と。


私は直ぐに覚悟を決め、勇者と対峙した。


「一つ、聞いて良いかしら? イリーナはどこ?」

まさに直球だ。


面識のない私の唐突な質問に対し、勇者はニヤリと大きく口を開けて見せる。

そして、その口を腕で押さえ、私を見据えている。


私も見つめ続ける。

やや気圧けおされそうになるも、何とか心が踏ん張ってくれた。


正直、怖かったのだ。

イリーナがどうなってしまったのか、その回答を聞く事が。

更にこの勇者自体も怖かった。

得体が知れなさ過ぎる。それは未知への恐怖だ。


勇者は口に当てていた腕を振り払い、解放された口で言う。


「イリーナは、リーナは喰っちゃいやしたよ。今ぁ、あたいの多次元収納の中なのでさぁ」


私は自分で質問したにも関わらず、勇者の回答内容を理解するのに、数秒の時間を要した。

抜刀状態での数秒の熟考は、命の危険を伴うものだ。


「えっと、つまり……貴女はイリーナを連れ去ったのね。ここに倒れているキュリアを力でじ伏せて」


「キュリアっていうんですかい? 嬢ちゃん。名前までは、知りゃあせんぜした。でもそこそこ、強ぅござんした。刃物の腕前は、あたい以上でござんす」


(何という……。嫌な考察が結論と合致するなんて。でもまさかこの娘、プレイヤーじゃないわよね? この言葉、自動翻訳されていない気がするのだけれど。中の人、日本人なんじゃないの?)


だが、プレイヤーである証拠は今のところない。

私はサーチでプレイヤーはヒットしていなかったことを思い起こす。


彼女は一体、この世界において、どういう存在なのであろう。

皆目見当も付かなかった。

だが、特別な存在である事は間違いないであろう。



「お姉さん、お姉さん、強そうだけれど、あたいとってみない?」

勇者の口調が急に変わり、笑顔が不気味な物へと変わっていった。


「何故イリーナを?」

私は敢えて、その質問には答えず、質問で返した。


「リーナ、正確には邪神を取り戻すのは、魔王くんの意向だ。あとあと、あたいもリーナと遊びたい! だからかなぁ~? 本来の意識も戻ったみたいだしぃね」


勇者の不気味な笑顔が止むと、ネットリとした視線をこちらへ向けてきた。

そしてわざわざ、か細い声で言ってきた。

「お姉さん、優しいね。自分の命よりも、リーナが気になるの?」


「ええ。私の家族、私の妹だもの」

私は迷わず即答した。


勇者は剣を手にぶら下げながら、頭の後ろで両手を組んで言う。

「いいね、いいね、そういうの。あたいも好きよ」


そして今度は、剣と右手を頭の後ろに残し、左手の人差し指と親指をL字に構え顎に当て、続ける。

「ん~。そうね、あたいに勝てたら、リーナを開放したげる」


勇者の発言に私は困惑した。

それが表情に出ていたのかも知れない。


「大丈夫、大丈夫。倒したら永遠に多次元なんてぇ事は、ねえからさっ。そもそも、あたいを倒せたら、あのなら、自力で出て来られるっしょ。ね、何の心配もねえでやんしょ?」


(なるほど、さっきからリーナと言っていたけれど、イリーナと旧知の仲の様ね。イリーナを連れ去る事が出来た理由が、何となく分かったわ)


「ねぇ、だから全力でろよ。うん、うん、全力でおいで」


説得するというのも選択肢にはあるが、効果は期待出来ないであろう。

(どうする?)

私は、まだ迷っていた。

誘いに乗り、ここでイリーナを取り戻す為に、全力でいくべきかを。


(相手の強さが全く分からない)


(魔王より強いかもしれない)


(魔神クラスは間違いない)


(伏兵の心配もある)


(だが絶対に逃がすわけにはいかない)


(イリーナを絶対に連れ戻す!)


(そう、イリーナを救う為ならば、何でもしよう)


(だから殺ろう)


(うん、殺ろう)


私は手に持っている黄昏たそがれの剣を目の前まで持ち上げる。

そして側面のといの部分にキスをする。


「いいわ。決闘デュエル、しましょう」

私は剣を鍔を中心として無意味に一回転させ、剣を軽く構えた。



Gパートへ つづく

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