<15話> 「暗雲あるいは雷雲」 =Eパート=
私はまず、キュリアと最初に出逢った場所へと向かった。
可能性は低いが、また出逢えるかも知れないと考えたからだ。
(あの出逢いは、今考えても恥ずかし過ぎるわ。パンを銜えていた事は、バレない様にしよう)
歩くこと、十数分。現場へと辿り着いた。
お昼時が近い為であろうか、先程よりか幾分、人通りが少なくなっていた。
だが、これといってキュリアに関する手がかりは無さそうだ。
私は情報処理機構を使用した。
これはGMだけの能力ではない。
ゲーム内においては、プレイヤーであれば誰にでも使えるものだ。
情報処理機構の検索機能を使用した。
ゲーム内では街の中のプレイヤーを検索できる。
パーティ-を組む時に使ったりする。
「やっぱり、誰もヒットしないか……」
この検索機能、この世界へ来てから何度か使ったが、反応した事がないのだ。
「( ^ω^)・・・」
これはプレイヤーを検索する為の機能である為、ノンプレイヤーキャラ(=NPC)には反応しない。
そして、この世界の住人にも反応しないのだ。
「知ってた!」
私はシステムを瑕疵制御状態へ移行した。
これはGMの能力というより、管理者権限だ。
(さて、これでこの世界に居る人間にも干渉できる訳だけれど……。そうね、この場所へ来るまでの10分間で思いついた事を何個か試してみるとしましょう)
まず試したのが、検索機能だ。
使用すると、頭の中で人々の位置情報と名前が広がってくる。
範囲が広過ぎたのか、膨大な量に及んでしまっている。
概算で1万は超えていたのだ。
そこで検索範囲を周辺だけにした。
すると今度は100人程度になった。
うまく絞れた様だ。
(よしよし)
だが結局は、キュリアと思しき者は見つからなかった。
(残念……。まぁ、そんな簡単には見つからないよね。近くに宿を取っていたら、などとも考えたのだけれど)
私は次の策へと移る事とした。
システムを瑕疵制御状態のまま、過去の情報記録の解析をするのだ。
これは場所に対して行う場合と、人物に対して行う場合とがあるが、今回は場所に対して行った。
人物に対して行った場合、プレイヤーやNPCの過去の振る舞いを全て見る事が出来るのだ。
ゲーム内では、他人のプライバシーにも関わる為、GMの私でも不必要には使わない。
訴えがあった時にのみ調べるのだ。
これは規約に基づく、我々運営側の権利であった。
よって、この世界でも人に対して使う場合は了承を得てからにしようと、私は心内で決めていた。
ログ解析には時間が掛かった。
監視カメラの記録映像を巻き戻しながら見ている様な感覚だ。
十五分以上、その場で経過したであろう。
だがその甲斐あり、私は体感時間から大体の時刻を割り出し、自分とキュリアのログを発見したのだ。
(あ、自分の過去ログを解析すれば、時間特定がもっと早かったかな? いや、まあ、あまり変わらないか)
私は過去ログを元に、キュリアの足取りを追った。
時間と手間の掛かる作業ではあるが、これならば確実だ。
拡張現実(=AR)の如く、私には目の前にキュリアの像が見えている。
まるで立体映像の様に。
私は通行人にぶつからない様、気を付けながら足取りを追う。
キュリアが最初に向かっていた方向は、教会とは別の方向だった。
だがしかし、何故か途中から進路が変わり、教会の方へと徐々に近づいていった。
キュリアの像を追う事、数十分。
それは突然だった。
爆発した様な音が周囲にこだましたのだ。
すると次の瞬間、目の前の建物が崩れ、私の直ぐ脇へと、少女が吹き飛ばされてきたのだ。
少女の服はボロボロとなり、肌が露出していた。
傷こそないものの、服には斬撃を受けた痕跡が至る所にあった。
私は横で倒れているこの少女の金髪に、見覚えがあったのだ。
先程まで追っていた像と同じ、プラチナブロンドの髪。
そう、これが八英雄キュリアとの二度目の出会いだった。
Fパートへ つづく




