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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第四章 4節   <15話>
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<15話>  「暗雲あるいは雷雲」   =Dパート=


「申し訳ございません。イリーナ様、リル様」

エミアスは頭を下げた。


「エミアス、何があったのですか?」

イリーナは哀しそうな声で問う。


「はい。端的に言ってしまえば宗教対立です。聖導教はここ数十年で勢力を伸ばしてきた新興勢力なので、聖母教が目障りなのです」


(宗教対立……。元の世界でも戦争や内乱の要因だったわね。それも同じ神を崇めている者達の間で)


イリーナはうつむく。

「私が……。私が居れば……」


「仰らないで下さい。私がお救い出来ていれば……」

エミアスは声を詰まらせる。


「ごめんなさいね、エミアス。そういう事ではないのですよ。貴女に落ち度はないわ。罪深いのは私なのだから」


イリーナは胸元で手を合わせ、呟く。

「魔女……。そうね、そうなのかも知れませんね」


「イリーナ様……」

今にも泣き出しそうな表情でエミアスは呟いた。


そんな顔を見ていられず、私は話題を変える。

「そういえば、総本山の事は何か分かって? あのアギデウスとかいう、うんち君が言うには、既に魔人に滅ぼされているらしいけれど」


エミアスは自身の隣で沈黙を貫いていた司祭に、頷いて合図を送った。


「ご挨拶が遅くなりました。わたくし、この教会の高位司祭、ハルモニアと申します。ここからは、私が答えさせていただきます」


司祭のハルモニアは八十歳を過ぎていよう老婆ではあったが、声が若く、顔を見なければ三十から四十代と思える程だ。


隣にいるエミアスと声の年齢こそ変わらないものの、ハルモニアは八十歳を過ぎた老婆であり、エミアスは二十代にすら見える容姿である。

しかし実際には、ハルモニアはエミアスの四分の一も生きていないのだ。


司祭ハルモニアは若い声で語る。

「10日前と5日前に魔人からの襲撃を受けたところまでは分かっております。ですがそれ以降、連絡が無いのです。そこで2日前に総本山へ向けて使者を出したのですが、連絡役や警護の雇った傭兵を含め、帰ってこないのです」


イリーナは真剣な表情で、教会にある聖母像を眺めながら言う。

「二度の襲撃……ですか。三度目もあるかも知れませんね」


ハルモニアは頷き、話を続ける。

「イリーナ様、5日前の襲撃から逃げ延びた修道女たちは、今この教会の施設で保護しています。その数は200名を越えています。それと他の街へも、散り散りに100名以上は逃げた様です」


(アーケロンで逃げた者や、司祭を合わせると500名以上か。結構な規模だなぁ)


イリーナは教会の聖母像へと歩み寄り、膝を落とし、深い祈りを捧げた。

教会内を暫く沈黙が包む。

聖母像は祈りを奉げるイリーナを見つめているかの様だ。

静まり返った教会。

イリーナの祈りに、神秘的なものを私は感じていた。


イリーナの祈りが終わると、それまでとは教会内の空気が変わっていた。

アギデウスの呪いが浄化されたような、そんな印象さえ湧く。


真剣な表情のイリーナ。

その後、この教会に隣接する施設へとおもむくという。

逃げ延びた修道女達に声を掛けに行く為だ。


イリーナは私に、申し訳なさそうな顔を見せた。

だが一瞬、私だけが分かるように微笑んだ。


そしてイリーナとエミアスは、脇の扉より出て行った。


聖女には聖女の務めがある。

私はイリーナという存在が少し遠くに感じた。

思い起こせば、軍港トゥーリン・ガルの教会でイリーナが奇跡を起こした時も、私は無力だった。


(いけない、いけない。自分を卑下するのは止めるわ。私に出来る事、私にしか出来ない事、それをやらなければ)


私はイリーナが祈っていた聖母像を眺め、ここ数ヶ月のイリーナとの思い出を振り返った。

その後、私は気を引き締めた。


そして残っている司祭ハルモニアに、エミアスへの言伝ことづてを頼んだ。

「キュリアを探す為に出かけてくる」と。


私は、教会を後にした。

自分のできる事をする為に。



Eパートへ つづく

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