<15話> 「暗雲あるいは雷雲」 =Bパート=
「おっ、お嬢様!? 私? が!?」
ぶつかった相手は、私より遙かに華奢に見える少女だったのだ。
少女に支えられ、お嬢様と言われたのだ。
私は何だか気恥ずかしくなってしまった。
おそらくいつもの通り、耳まで真っ赤だろう。
私は支えられながら、少女に見とれていた。
少女の金髪は、ブロンドと言うよりも白金寄りのプラチナブロンドに近い。
元の世界ならば、ロシアか北欧系であろう。
だが瞳の色は違っていた。
澄んだアメシストの様な紫色をしていたのだ。
私はその紫色の瞳に引き込まれ、魅了されそうになる。
だが徐々に恥ずかしくなり、目を合わせられなくなった。
「あ、ありがとうございますッ!」
そう告げ、なんとか自分の力で立ち上がる。
そして荷物を受け取り、私は逃げる様にその場を後にした。
私は路地を曲がり、人気の無い事を確認し、直ぐに荷物を自分のアイテム収納へとしまう。
(危ない危ない。危うく魅了される所だったわ。CHR値、半端ない。職業はアイドルスターなんじゃないのッ!?)
私はドキドキしている胸に手をやった。
(いや待った。そういえば、私とぶつかってよく平気だったね。普通は吹き飛ぶよ。余程、足腰が丈夫なのかな? 少女に見えて、実は武術の達人だったりして?)
私の心臓は、未だに強く脈打っていた。
暫く収まりそうにない。
「「わッ!!」」
先を行っていたはずのイリーナが、突然現れ大きな声を発したのだ。
「ひぃあわぶじょん」
私はあまりにも驚いた為、言葉にならない変な声を発した。
「えっ?」
イリーナは私の驚き様に驚いていた。
「いやあ、その、ドキドキしてて」
胸元に終始手を当てている私に、イリーナは不思議がっている。
「何かあったのですか?」
イリーナは、前屈みになっている私の胸元を凝視して続ける。
「男! ではなさそうですね」
私はイリーナと目を合わせず、少しずらして答える。
「何というか、雲の上の存在に声を掛けられた時の昂揚感?」
イリーナは直ぐに返した。
「子どもの頃に憧れていた英雄に出会った時の様な……? ですか?」
「あああああああ!」
「?」
「さっきの、絶対キュリアでしょ!」
私は漸くイリーナの顔を直視する。
「あぁ、お姉様……」
察したイリーナは、額に手を当て首を横に振り、私を非難する大げさなリアクションをして見せた。
「何と言いますか、そういう所……抜けてますよね、お姉様は。まぁ、妹分としては、完璧ではない、そういう所が可愛いのですが」
「止めてよね。恥ず、かしい……」
「それに、あんな可憐な少女だとは思わなかったのだもの。剣の達人だからゴツイと思っていたし。同じ八英雄のエルドルナよりも若いとはいえ、7~80代でしょ!?」
「何処かで聞いた様な言い訳ですね……。もう、お姉様、ルイダちゃんが『金髪ロングヘアの少女』と仰っていたではないですか」
「あぁ、そんな話もあったわね。あの後、色々あり過ぎて完全に飛んでたわ」
イリーナは、それ以上もう私を責めなかった。
そう、笑顔で私を慰めてくれたのだ。
「きっと直ぐに、また出会えますよ」
「そ、そうね……」
Cパートへ つづく




