<14話> 「帝龜アーケロン」 =Kパート=
その晩、星を見ながらの宴会が始まる。
私の母方のお祖父ちゃんは、漁師だった。
マグロの遠洋漁業で船頭をしていたのだ。
ただしお祖父ちゃんは、末っ子の私が生まれる前に癌で亡くなっていたのだが。
母もお祖母ちゃんも、魚を捌くのがとても上手だ。私も捌くのが得意な方だ。
私の釣ったマグロは料理長に預け、調理も任せていた。
宴会時にそのマグロを出して貰う為だ。
だから、オリーブオイルの様なソースが掛けられ、マリネとして振る舞われた。
海兵隊には、漁師の息子が多いらしく、私は何故か直ぐに打ち解けた。
どうやら冒険者としてではなく、巨大マグロを釣り上げた者として賞賛された様だ。
シーゲイルはアワアワを飲んでいた。
私はラム酒にした。柑橘を絞って入れ、サッパリ味だ。
私は周りの軍人をどんどん酔い潰していった。
私は、ほろ酔い気分だった。
「何で私の事、怖がるのかしら?」
若干だが、くだを巻いて海兵隊員に聞いて回る。
(若干だよ?)
「姐さん、そもそも、あっしらよりデカイし。腕っ節めっちゃ強そうだし」
そんな回答が何度か返ってきたのだ。
「あー。やっぱり、そこか……」
(アバターって大きいよね、身長。スタイルを良くする為に)
「お姉様、こちらにいらしたのですね」
あらかた酔い潰した所で、イリーナがやって来た。
「あ、イリーナ。このマグロ美味しいよ」
私は更に酔いが回っていて、上機嫌だった。
「はい。私も先程、頂きました。美味しかったです。それにしても、この様な大きな魚を釣ってしまうなんて、驚きましたよ」
「あぁ、それ。釣った私が一番驚いてる位だわよ」
そして私はマグロをもう一口食べる。良く咀嚼する私。
「マグロ、うっま。醤油が欲しい。ワサビが欲しい!」
「醤油ですか? そう言えば、麒麟を討伐しに遙か東方へ赴いたのですが、その時に口にしましたね」
「なッ! 今すぐ麒麟の髭で転移して行こう!」
「お姉様……。だいぶ酔っていますね」
「あ、はい……」
翌朝、深酒にも関わらず酔いの覚めていた私は、部屋を抜け出す。
こっそりと転移し、マストの天辺に足を掛け、空を見上げていた。
そこで私を待ち受けていたのは、「絶景」だった。
何処までも続く澄んだ空。
そこを流れる浮浪雲たち。
地平線の彼方まで続く、ターコイズブルーの海。
自然豊かな情景は、魔王軍の侵略など微塵も感じられない程、穏やかなのだ。
今、私がここにいる事は、下の甲板の人たちには気が付かれていない。
そうであろう。ここはマストにある監視用の場所よりも、更に上なのだから。
帆は音を立てて風を受け、私も当たる風が心地良かった。
昨日までの凪(=無風)が終焉を迎えた事は、流れゆく雲たちが証明してくれている。
遠くには先行するジーベック二隻が見受けられる。
私は膨らむ帆と帆の隙間から、甲板の方に目をやった。
船尾楼にはコージー大尉は居なかった。別の者が操舵輪を握っていた。
(昨日、飲み過ぎたのね……)
中央甲板に目をやるとイリーナがそこには居た。
プランターの野菜を愛でている様だ。
海や空の青に負けない、イリーナの青き髪が風を受け靡いていた。
「イリーナ。私の大切な家族。私の可愛い妹」
イリーナを私は、暫く見つめる。
「この笑顔をいつまでも護ってあげたい」私は強く、そう思った。
「イリーナ……」
そして、翌日。
母艦は聖母教の総本山に近い港町、スミュールへと着いたのであった。
15話へ つづく
13~14話をお読みいただき、ありがとうございます。
13話は長くなってしまった為に、2つに分けました。
13話が2万字を超えた為に、分けたのにも関わらず、
14話も2万字を超えてしまいました。
結局、2話合計で3万5000字程あります。
自分で言うのも何ですが、結構面白く書けたと思っています。
さて、物語の第I部はいよいよ大詰めです。
八英雄キュリアとの出会いはどういった形で実現するのでしょうか?
皆さま、お楽しみに!
ソフィアのイラストをヒトこもる先生に描いて頂きました。
ありがとうございます。
「表紙」や「第二章 章末付録」で、ご覧いただけます。




