<14話> 「帝龜アーケロン」 =Jパート=
「退避! 退避! 戦闘員も含め、総員、中央甲板から退避せよ! 巨大な怪獣だ!」
誰かの声が響く。
(え? 南の海なのにクラーケン? いや、大王イカの化け物? 名持ちの怪獣なのか!?)
目の前には、巨大な大王イカの様な怪獣が居たのだ。
すかさず、GMスキル「検閲」を発動させる。
種は「アーク・テウシス」。
名は「アーケイオス」。
(どうする? 戦うか? いや、無理だ。イリーナもエミアスもいない。それに甲板で暴れられたら、母艦が大破するかも知れない)
幸いにも今、アーケイオスは暴れていない。
よく見ると、アーケイオスの直ぐ下には、魔術師魚人の杖や、棍棒が落ちていた。
(あ、お食事済みなのね……。察し)
とりあえず、私は船尾楼甲板へと退避した。
そこには、銛を持ったコージー大尉が居た。
(良かった。コージー君も無事の様だ)
私はアーケイオスの方を向いた。
すると不思議な光景を目の当たりにする事となる。
周囲の霧が集まり、白い霧が形を現わしたのだ。
帝龜アーケロン、おそらくそうなのであろう。
白い霧が帝龜アーケロンとなり、アーケイオスと対峙したのだ。
辺りは静まりかえり、人々は沈黙した。
暫く、対峙したままのアーケイオスとアーケロン。
誰もが固唾を呑んで見守る展開だ。
「ケ"ソラvsカ"メラ?」
私は子どもの頃に見た大怪獣映画を思い出してしまった。
(ポップコーンでも食べながら見たいな……。味は、キャラメル・ソルト。いやペッパー・ソルトにしよう。あぁ、黒胡椒の香りが効いて……)
「くしゅッ」
すると、銃声がした。
誰かが銃を暴発させてしまったのだ。
そしてさらに、アーケイオスの真下で、轟音が響き、母艦までもが揺れた。
「え?」
「どこのアホだ! 大砲撃ちやがったのは。怪獣さ、刺激するでねー! 皆で死にてーのかぁ?」
その怒号に反し、アーケイオスはあっさりと逃げていった。
そして甲板上で、一斉に歓声が上がる。
「オオオオオオォォォォォォォ!」
「あ、終わったのか……」
私は安堵した。
「お前ら、今夜は祝杯だ!」
そう叫んで喜んだのは、さっきまで怒号を飛ばしていたコージー大尉だった。
(お疲れさま、コージー君)
「帝亀アーケロンのお陰ですね」
エミアスはそう言うと、私と目線を合わせなかった。
「お姉様、それは貴重な物を見られましたね」
イリーナは、平然としていた。
(んー。イリーナなら「ずるい。お姉様!」とか言うと思ったのにな)
「なーんか、妖しい……」
私は二人の顔を見る。
「じとー」
エミアスは相変わらず視線をずらし、イリーナは引きつった笑顔をしていた。
「まっ。いいわ」
私はアーケイオスが逃げて行った後、イリーナとエミアスの様子を見る為に、甲板から艦内へと降りて行った。
そして一階層降りた所で、この二人に出くわしたのだった。
この階は砲撃用の大砲が並んでいる階層だ。
「それにしても、海上で大型魔物に襲われたら、太刀打ち出来ないね。船を壊されたら大変だもの」
(海上でのモンスターとの戦闘とか無理ゲーだわ)
「それでしたら、海の上で戦えば良いのですよ」
エミアスは突然、大砲用の穴から飛び降りた。
「え? ちょっと、大丈夫?」
私とイリーナは穴から頭を出し、下を覗き込んだ。
二人の長い髪が垂れる。
真下を見ると、エミアスは海面を歩いていたのだ。
「マジか」
私は思わずイリーナの方を見た。
「イリーナできる?」
イリーナもきょとんとして、子どもの様に答えた。
「うんん」
「だよねー。それが普通だよね。あぁ、良かった」
私の中で良く分からない安堵感が広がったのだった。
Kパートへ つづく




