<14話> 「帝龜アーケロン」 =Hパート=
私は味を占めた。
シーバスの切り身を針に付け、マグロの内臓を捨てた辺りへとキャスティングした。
すると、入れた瞬間から、大きな手応えがあった。
(お? またマグロか!?)
今度も、相当な重量だ。
徐々に糸を巻いていく。
少しの格闘の後、竿の重みが一瞬にして消えたのだ。
(あれ? 逃げられた? それとも抵抗するのを諦めた?)
私は急いでリールを巻いた。
すると、僅かながら手応えが残っていた。
(良かった。逃げられたわけじゃあないね)
糸を巻き上げると再び重みを感じた、次の瞬間だった。
それは向こうからやって来た。
先程釣り上げたマグロの四倍はある、巨大なタコが甲板まで凄い勢いで、よじ登ってきたのだ。
甲板が重みで軋む。
(あ? これ……やっちまった?)
「え? 何? 何ですか、お姉様」
イリーナは、一瞬にして巨大タコの触手に捕まってしまった。
イリーナを捕まえた触手には、複数の吸盤が付いていて、イリーナも簡単には脱出できないでいた。
更に別の触手がイリーナを襲う。
青髪を触手で捕まれてしまった。
ネットリとした粘液がイリーナの髪にへばり付く。
(うわー)
私はイリーナを捕まえていた巨大タコの触手を黄昏の剣で、直ぐに切り落としてやった。
すると巨大タコは、墨を吐いて艦から逃げていった。
「白墨。黒くないんだね。へー」
私は感心していた。
白墨は見事にイリーナに命中していたのだ。
タコの触手からの粘液と、白墨にやられたイリーナ。
「うぇぇ。べたべた。それに少し痺れますぅ」
私はイリーナを慰めようと近寄った。
「イリーナ、臭ッ!」
私は思わず、鼻を摘まんだ。
「そんなぁ、お姉様、助けて下さいよぅ」
粘液まみれで、情けない顔をイリーナはしていた。
「お風呂に入ってらっしゃい。マリンちゃん探してくるから。部屋に戻っ……って、やっぱり戻らないで。臭いから」
イリーナは余程嫌だった様だ。
その場で直ぐさま、多次元収納からお湯を出したのだ。
そしてお湯を頭から浴びた。
私は収納からタオルを取り出し、イリーナを覆ってあげる。
「良かったわ。臭いが大分マシになったわよ。さ、中に行きましょう」
私は釣り具を収納に戻した後、イリーナの両肩に手を乗せ、一緒に艦内へと戻ったのだった。
イリーナは空いた果実酒の樽にお湯を入れて、裸になりお湯に浸かっていた。
仄かに、ワインの様な果実酒の匂いが漂ってくる。
(ワイン風呂、私もやってみたい……。ワイン飲みながら!)
「イリーナ、折角だから丸洗いしちゃいなよ。これあげるから」
私はイリーナの入っている樽に、洗髪剤を瓶ごと投げ入れた。
「こっ、これは……迎賓館の離宮の物ではないですか!? お姉様、いつの間に」
「あぁ、あそこのメイドに貰ったのよ」
「なるほど。では、有り難く使わせていただきます」
イリーナは樽の中で頭を洗う。
泡が立ち過ぎ、樽の縁を伝い泡が溢れる。
シャボン玉が私とマリンちゃんの元へとやって来た。
薔薇の様な香りが漂う。
そしてシャボンは弾け、ワインの香りと混ざり合う。
「お姉様? これ、どうやって流しましょうか?」
「そうね。イリーナを隣の空き樽に移すっていうのはどう?」
「了解です!」
私は真っ裸のイリーナを隣の樽に転移魔法で移す。
「ありがとうございます。お姉様」
イリーナは右手から収納内のお湯を出し、髪の毛に掛けて洗い流した。
「お姉様、次の樽にお願いします」
「え? あ、はい」
イリーナを次の空き樽へと移した。
イリーナが樽にお湯を注ぐ音が聞こえた。
(あ、これは長くなるな……)
「イリーナ、私、先に甲板に上がってるね。マリンちゃん、後は宜しく」
マリンちゃんはコクリと頷く。
「あ、はーい。私はもう少し温まってからにしますね」
「了解了解」
私はイリーナをマリンちゃん押しつけ……もとい、任せた。
Iパートへ つづく




