<14話> 「帝龜アーケロン」 =Fパート=
私たちが乗っている母艦アーケロンは時間の掛かる、南化後に東へ進む航路を取っていた。
魔王軍は南方へは殆ど進行していない。
そういう情報もあった。
ただし、南方でも魔物はたまに出るらしい。
魔王軍には船がないのであろうか?
そして出航してから数日が過ぎたある日、幽霊船や海賊船の噂を聞いた。
なんでも、霧の濃い日は要注意なのだとか。
沈められた船が多いのだという。
さすがに海賊が狙うのであれば軍艦では無く、商船であろう。
海賊で軍艦を狙うヤツがいたら、そいつは余程のバカか、政治的な争いに関与しているか、であろう。
そして更に数日が過ぎた。
もう後、数日で目的地まで着くという所で、風の殆ど無い凪と言う状態になってしまったのだ。
ジーベック二隻は、凪でもある程度ならば航行できるのだそうだ。
二隻で牽引するか、これからシーゲイルは会議を開くのだという。
その為ジーベックの艦長二名も、この母艦へとやってきていた。
さすがに私は、航海の知識が乏しい。
兄がやっていた大航海時代のゲームで得られる知識程度しか持っていないのだ。
だから会議はエミアスに任せる事にした。
やる事もないし、停船中なので、私は甲板での釣りを始めた。
海釣り。ゲーム時代を思い出しながら。
食堂で残飯を貰って餌にしても良かったのだが、私は自分の釣り具を試してみたかったのだ。
アイテム収納から釣り竿、疑似餌、糸を取り出す。
この世界に持ち込めた数少ないチート級アイテム、恵比寿竿をついに試す時が来たのだ。
フローティング・ミノーと呼ばれる、海面に浮くをタイプの疑似餌を糸の先に付けた。
ミノーはゲーム内での量産品だ。
糸は結構強い蜘蛛系モンスターのドロップ品から、合成した物だ。
隣に居るイリーナは、先程から落ち着きが無い。
「なっ、何ですかっ。これは?」
私の釣り具に興味津々なのだ。
とりあえず私は、イリーナに釣った所を実際に見せてあげようと思った。
私はゲーム内と同じように、軽く振りかぶって狙いの所へとミノーを投げる。キャスティングというヤツだ。
ゲーム内ではこのキャスティングに、ステータス値や武器スキル値等が微妙に関与していた。
ここの甲板は結構高い。一層下の階には、大砲が並んでいるからだ。
それにも関わらず、狙い通り簡単にキャスティングが出来た。
(こ、これは……)
「私、冒険者を止めて漁師になるんだ」
私の冗談はイリーナに、完全スルーされた。
シラーっとした目と共に。
イリーナの視線が怖い。
≪リルは視線耐性が0.1上昇した≫
(え? なに?)
私は周りを見たが、声の主はいない。
それどころか、イリーナには聞こえていない様だ。
(そう言えば、いつだか思い出せないけれど、馬車でのイリーナとのやりとり中に「受け流しスキル」が上がったわね……)
そう考察していると、急に竿が引っ張られた。
魚が掛かった様だ。
必死に逃げようとする魚と、私との綱引き開始だ。
ゲームにおいても、筋力任せで強引に引っ張れば良いというものではない。
それを思い出した。
糸を動かない様、一瞬固定する。
すると竿がしなる。
私はリールという釣り糸の巻き上げ機で、軽く、しかし素早く糸を巻いていく。
引きが一定の強さになったところで巻くのを止める。
逃れようと、もがく魚。徐々に竿のしなりが増していく。
そして糸の引きに抗いきれない魚は、一瞬逃れるのを諦めた。
(今だ!)
私は一気にリールを巻き、糸を引く。
すると簡単に釣り上げる事が出来た。
「おー。さすがお姉様」
イリーナは両手を合わせ、子どもの様にはしゃぐ。
「これはシーバス、ですわね」
「スズキ、また おまえかー?!」
「スズキ? あぁ、学問上の分類はスズキ目ですわね。さすがお姉様。博識でいらっしゃる」
「え。いや。まあ……」
Gパートへ つづく




