<14話> 「帝龜アーケロン」 =Eパート=
私は隣のテーブルに座ったシーゲイルに声を掛けてみた。
「朝食、美味しいですね。船旅なのに凄いですね。焼き立てのパンとか」
そう言うとシーゲイルは上機嫌に返した。
「甲板にはプランターがあって、潮風にも強い野菜や柑橘類を育てている。あとで見てみな」
シーゲイルの居るテーブルからはコーヒーの匂いが漂ってきた。
ミルクコーヒーの様だ。シーゲイルは一口だけ飲む。
「俺たち王国の海軍は恵まれているのさ。帝国なんて劣悪だぜ。非常食の様な堅パンや、腐り掛けた肉、饐えた野菜を食べてやがるからな。おっと。食事中にすまねえな……。まっ、とにかく俺らの国は壊血病とは無縁だから安心しな」
(壊血病か。ビタミンCが不足すると起きるんだったな。あったなぁ、ゲームでも。確かレモネードを船に積んで出航して防いでいたな。いや、ライムジュースだったか?)
シーゲイルは何かを思い出した様だ。
「そういえば、この艦には乗せてねえが、鶏を乗せて卵をを生ませた事もあったんだぜ。朝から、うるせーの何のって……ハハハ」
「くすっ。そうなんですね」
「ちなみに俺が飲んでいるコーヒーのミルクは艦内で飼っている山羊の物だ。特別に俺だけ絞りたてのを入れて飲んでいる。あ、若い奴らには内緒だぞ」
食事が済むと、シーゲイルは艦橋に案内してくれた。
そして、階級の高い者たちを紹介して貰った。
さっきの食堂に居たお爺ちゃんは、この艦の技師長なのだそうだ。
故障時の修繕にとても頼りになるのだと、シーゲイルは褒めていた。
母艦の操舵手と艦長はシーゲイル直属の部下が行っているそうだ。
ではシーゲイルは何をしているかと言えば、他の二隻を含めた全体の指揮を執っているのだ。
その後、甲板に案内してもらった。
甲板にはプランターがあった。
野菜や柑橘類以外にも、ミニトマトとさくらんぼの間の様な野菜が出来ていた。
「良かったら、摘まんでみな」
私とイリーナは、摘まんで口にした。
「あ、酸っぱいけれど、甘くて美味しいです」
後からエミアスも摘まんで口にした。
どうやら「ライコ」と言うらしい。
この世界にのみ存在する野菜だ。
(野菜? いや果物か?)
最後に、艦の操舵をさせて貰った。
船尾楼という船の一番後ろの甲板に操舵輪が付いているのだ。
内部に白銅製の歯車があり、操舵輪を回転させると艦尾に着いている舵が曲がる様に出来ている。
操舵輪を一周させても、数度しか曲がらない。
沢山回転させる必要がある様だ。
ちなみに、白兵戦時には内部でも舵を切れる様になっているのだとか。
今は熊の様に大きな大尉、コージー君が操舵輪を握っている時間だった。
そして直ぐ後ろに別の少佐と呼ばれていた操舵士が居た。
少佐が帆を含めた全てを統括しているのだという。
何でも、操舵輪は最新技術の塊だという。
王国海軍のジーベック二隻には無いらしい。
シーゲイル曰く、そもそも一宗教が、軍艦を……それも最新鋭軍艦を持っているのがおかしいらしい。
エミアス曰く、各国の王や上位貴族が、パドロンとなっているから可能らしい。
しかし近年は、聖導教に取って代わられてきているのだそうだ。
エミアスは嘆いていた。
Fパートへ つづく




