<14話> 「帝龜アーケロン」 =Dパート=
私たちは一眠りした後、朝食を食べる為に食堂へと向かった。
アーケロンには窯があり、焼き立てのパンが振る舞われていた。
そして僅かではあったが新鮮な野菜もある。
他には豆類や葉物野菜の酢漬けや芋、チーズの様な乳製品まであった。
思ったより豪華だ。
厨房には聖母教の修道女が複数名いた。
イリーナとエミアスが助けた者たちだ。
厨房以外にも数十名、一緒に乗っているのだという。
厨房で取り仕切っていたのは、年配の司祭だった。
軍の年配の料理人たちまで尻に敷かれている。
まさに女将か御局といった具合だ。
三人で食事をしていたら、マリンちゃんがやってきた。
割烹着の様なメイド服を着ていた。
「マリンちゃん、相変わらず可愛いね」
そう言うと、マリンちゃんは頬を赤く火照らせていた。
その後、視線を戻したらイリーナと目が合った。
少しだが、イリーナは頬を膨らまし仏頂面をしていた。
(もしかして嫉妬? 子どもに? え?)
「食事、お持ち致しましたのに」
マリンちゃんはお世話係りとしての責務を果たそうとしていたのかもしれない。
「まぁ、いいじゃん。こうやって皆で、がやがややりながら食べるのって、旅をしている身としては貴重なんだよ、マリンちゃん」
私がそう言うと、隣のテーブル席から声を掛けられた。
「お、嬢ちゃん、分かってるじゃねえか」
目を向ける。声の主は私より少し年上であろう海兵のお兄さんだった。
「そこの金髪ねえちゃんが、大司祭様だろ? 宜しくな」
するとその隣に座っていた背の低い海兵が、テーブルから身を乗り出して言う。
「青髪のお嬢ちゃん、えらくべっぴんだな」
そして更に隣の中年の海兵が連鎖して言う。
「うちの娘になんねいかい? 息子に嫁がこなくてなー」
すると背の低い海兵は啖呵を切る
「お前の息子になんて勿体ねえ。俺の嫁だ!」
(お母さん、許しませんよ!)
「嫁にするなら、俺は金髪ねーちゃんだな」
今度は別のテーブルへと連鎖する。
「ありがとうございます」
エミアスは笑顔で返した。
イリーナとエミアス、嫁にしたいと軍人からの人気を直ぐに獲得した様だ。
「俺の嫁」争奪戦に、今度は技師であろう小柄なお爺ちゃんまで参加してきた。
「青髪の嬢ちゃんは、わしの孫にどうじゃ?」
そしてお爺ちゃんは白くなっている顎髭を摩り続ける。
「そうじゃな、金髪のエミアス様はエルフの血が入っていそうじゃし、わしと同い年くらいじゃろうから、わしの嫁じゃで」
「ありがとうございます。ご縁がありましたら」
にこやかに答えるエミアス。
(あなた、既婚者でしょ!)
私は、ふと思った。そして口に出す。
「あれ? 私は?」
すると最初に話しかけてきたお兄さん海兵が言う。
「可愛いけど、関わったら死にそう……」
「ほっとけ~ぇや」
(死のオーラでも出ているの? 私から……)
「おう、楽しそうじゃねえか。俺も混ぜろよ」
声には聞き覚えがあった。
「かっ頭!」
声の主はシーゲイルだった。
シーゲイルは、トレーに朝食を乗せて持ち、技師のお爺ちゃんの隣に座った。
すると若い海兵たちは、逃げる様にトレーを下げて食事を終えていった。
周りのテーブルには、お爺ちゃんと中年が数人が残るだけとなった。
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