<14話> 「帝龜アーケロン」 =Cパート=
せっかくのGWなのに体調を崩してしまいました。
GW中は毎日2話投稿の予定でしたが、少しペースを落とします。
すみません。
軍港トゥーリン・ガルでは篝火が焚かれ、準備が進められていた。
軍港が明るい分、未明の海はより暗く感じる。
私たち三人は、既に母艦アーケロンへと乗り込んでいた。
本来であれば、沖合までボートか小型のガレー船の様な手漕ぎ船で行き、そして乗船する。
しかしアーケロンは船渠、つまりドッグに一旦収容されていた。
その為、沖合までは距離がある。
いくら足の速いアーケロンとはいえ、四角い横帆の多い帆船である。
湾内は風が弱く、自然に任せれば、いつ出航できるか分からない。
そこで、沖合まではガレー船が二隻で牽引する事となった。
(さすが軍港だわ)
沖合では既に、監視及び速攻が得意なジーベックと呼ばれるタイプの船が二隻、待っているのだと聞かされていた。
なんでも、縦帆が船体から大きくはみ出す程大きいのだとか。
「さすがに、まだ眠いわね。沖へ出て合流したら、一眠りしましょう」
(お世話係のマリンちゃんに言っておこう)
アーケロンはガレー船に牽引されているのだが、ガレー船には漕ぎ手がおり、それを統率する為、ホイッスルが吹かれていた。
なので、それが収まるまでは寝るのは無理であろう。
客室は狭く、イリーナとの二人部屋であった。
エミアスには隣の机がある一人部屋を割り当てられてはいた。
だが、沖合まで三人一緒に居る事とした。
部屋には小さな四角い格子窓があり、曇りガラスではあったが外の様子がうかがえた。
二人部屋は狭かった。ベッドが二つ、部屋に隙間無く並んでいて、足先の方に申し訳程度の戸棚がある。
だが、船の寝床は狭い方が良いのだ。それは波で船体が揺れ、転がるからだ。
ベッドも船に固定されて動かない様になっている。
戸棚の上には亀の装飾や置物もあったが、全て固定されていた。
ベッドの上に三人が座り、座談会が催されていた。
いつの間にか、外からはホイッスルの音が聞こえなくなっていたからだ。
そして話題はエミアスの事へと移る。
「それにしても、エミアスがお母さんだったとはね」
「お姉様、私も知りませんでしたよ」
「その話ですか」
エミアスは珍しく、私たちの前で照れていた。
長く伸びた耳まで赤い。
「そういえば、エミアスの耳って長いよね」
私は疑問を直ぐ、口にした。
「お姉様、無神経にも程があります」
狭い部屋の中、いつになく真剣なイリーナの顔が迫る。
(あれ? 聞いてはいけなかったのか。身体的特徴を言う時は気を付けねば)
今日、エルフといえば耳が長い。
だがそれは、昭和に流行った「ロードス島戦記」というアニメの影響なのだと、ゲーム開発陣のメンツから聞かされていた。
だからこの世界のエルフを見た時に耳が尖っていない事を自然と受け入れていたのだった。
エミアスは、少し困ったといった仕草をした。だが怒ってはいない様だ。
(私はエミアスを困らせてしまったのか……)
エミアスは一呼吸置いた後、語り出した。
「リル様。私は魔神の血が混じっている森エルフだから耳が長い」
(エルフは原種に近づく程、幼く見える……だったわね)
確かにエミアスはこの世界での原種からはほど遠い容姿だ。
「ごめんなさい。私……、エミアス……。私、深く考えずに聞いてしまったわ」
エミアスは辛いであろう自らの血筋を私に明かし、さらには微笑みを私に向けてくれているのだ。
こんなに仲間と出会えた、それは本当に素晴らしい事だ。
私は償いをしようと、心に誓うのだった。
「イリーナ様、お心使い痛み入ります。以前は、この血を呪った事もありましたが、この血による力のお陰で救えた命も沢山ありました。ですから、今は恥じてなどおりません。そして誇れるものではない事も重々承知しております」
辛い思いをした者は、様々な生き方をする。
辛さ悔しさを糧とし、邁進する私の様な者。
辛さの分、他人に優しく出来るエミアスの様な者。
そして最後は、自分の辛さを他人に味合わせようとする者。
イリーナの隠された心の闇は、これに起因するのかも知れない。
目の前でイリーナは、眉間にしわを寄せている。
「エミアス、一つ聞いても良いですか?」
「何で御座いましょうか?」
イリーナは不機嫌な顔で言う。
「ぱぱ、誰よ? 私に結婚していた事と、子供がいた事を黙っていた罰です! 白状しなさい。大司教エミアス!」
エミアスは恥ずかしそうに下を向きながら、呟く。
「八…雄…べ……です」
「え? 聞こえませんよ? エミアス」
(イリーナ、相変わらずね……)
「八英雄のエルフ、ベネリです」
エミアスは投げやり気味に言い放った。
私とイリーナは、思わず顔を見合わせた。
「八英雄でエルフって、スパスの兄じゃん!」
「え、あ。はい」
もじもじしながら、エミアスは続ける。
「母親が違う為、ベネリとは似ていませんが、確かに船で送って下さったスパスさんは、私の義理の弟です」
「わーわー。何でエミアスは黙っていたのですか!」
「本当にね」
「あぁ、何というか、言うタイミングを逃していました。すみません」
その後、逃げるようにエミアスは話を変え、話題は母艦アーケロン、その名の由来へと移った。
この母艦には帝龜アーケロン、その紋章が入った帆が張られているのだ。
エミアスが言うには、怪物クラーケンを撃退した伝説の亀である「帝龜アーケロン」の話が元になっているのだそうだ。
いつの間にかガレー船は居なくなっていた。
そして母艦は沖合に着き、母艦より二回り小さいジーベック二隻と合流していたのだった。
Dパートへ つづく




