<14話> 「帝龜アーケロン」 =Bパート=
せっかくのGWなのに体調を崩してしまいました。
GW中は毎日2話投稿の予定でしたが、少しペースを落とします。
すみません。
ここ軍港トゥーリン=ガルには現在、海軍ではなく海兵隊という特別遊撃部隊が滞在中なのだと、武官のヴィシャヌは教えてくれた。
(まさか、魔導遊撃大隊で隊長が幼女って事は流石にないだろうね?)
ヴィシャヌには王よりの親書を昨日の内に渡しておいた。
私たち三人は翌日、つまり今日なのだが、武官の書斎へとやってきていた。
「お二人とも、もうすっかり回復されたのですね。良かったです」
「はい! ご褒美を貰いましたから」
イリーナは満面の笑みで言う。
「そうなのですか?」
「内緒です!」
ヴィシャヌにイリーナは即答した。
(あぁ、お墓の中まで内緒にしておいて下さいな、イリーナ様。ご褒美で私からしたなんて誤解が生じたら、私がそっち系の人だと思われるし。中世ヨーロッパでは見つかったら処刑されていたらしいけれど、この世界は大丈夫なのかな? 私が聖女を誑かしたって事にされたら大変だわ……)
結局ヴィシャヌは、それ以上深く問わなかった。
「どうぞ、お掛け下さい」
そう言われ、私たちはソファーに腰掛ける。
おもむろにヴィシャヌは机の上のハンドベルを手に取り、鳴らした。
リンリンリン
すると直ぐに部屋へと、緩めのカールが特徴的な金髪ショートヘアの幼女が入って来た。
(何この娘、めっちゃ可愛い……。本当にお人形さんみたい。見ているだけで癒やされるわ)
ヴィシャヌは使用人であろう幼女に言う。
「マリン、隊長さんを呼んできてくれるかしら?」
(あぁ、良かった。この幼女が隊長なのかと思ってドキドキしたわ。マリンちゃんっていうのか)
「はい」
マリンちゃんは、短くそう答え、隊長さんを呼びに行った。
そして待つこと数分。
マリンちゃんは顎髭の生えたオッサンを連れて戻ってきた。
「失礼します。遊撃隊を纏めているシーゲイル・ロックウェイブ、中佐であります」
シーゲイルは私たちに敬礼をした。
(中佐って事は、結構偉いよね)
「ロックウェイブ中佐、貴様にはこちらの聖母教大司教様と国賓二名を聖母教総本山近くの港街、スミュールへとお連れして貰いたいのだ。そしてこれは王よりの勅命でもある」
「大司教様でも驚いたのに。え? 王様からですか!?」
シーゲイルは目をパチクリしている。
「秘匿性が高い任務だ。その旨も」
ヴィシャヌが言い終えた直後に、シーゲイルは聞いた。
「えっと。一つ質問しても良いですかい?」
「なんだ?」
ヴィシャヌには質問が想定外だった様だ。
「そっちの赤髪のお嬢さんも国賓って事ですが、護衛の冒険者なんですかね? 俺らなんかより、絶対的に強いですぜ」
その言葉に真っ先に反応したのは、イリーナだった。
「お姉様は、無双無敵なのです!」
「ちょっと、ちょっっと、私は宮本武蔵か?」
(あれ、デジャビュったぞ。このやりとり、何処かでした様な……)
「誰です、それ?」「誰でしょう?」
皆が顔を見合わせて、知っているか確認するも、誰も知らず、首を傾げていた。
「あぁ、宮本武蔵? ごめんごめん。私の国の昔の伝説の、最強の剣豪」
「お姉様、『の』が多すぎます……。まぁ、意味は分かりますけれども」
イリーナからツッコミが来た。
「あ、はい……」
(素直に反省)
そして、いつもの様にエミアスが話を戻す。
「私たちに護衛は必要ありません。その代わり、母艦アーケロンと共に私たちをスミュールへと、連れていっていただきたいのです」
シーゲイルは頭をボリボリとかいている。
「あの母艦、異様に足が速いですぜ。武官殿、少数精鋭で我々も高速艦を選びますか? それとも戦艦で編隊を組んで護衛しながら進みますか?」
武官ヴィシャヌは嬉しそうにしており、口元が少し笑っていた。
「中佐、貴様が呼ばれた時点で、既に分かっているであろう」
「安全な、後者ですかね?」
「光栄であろう。スリルと冒険の航海が待っている、前者だ」
「ですよね……」
シーゲイルは頭をかくのを止め、片手で頭を抱える。
「名誉ある任務だ。達成の暁には、二階級特進も……」
言い終える前に、イリーナが感嘆の声を挙げた。
「まぁ、凄いですね!」
シーゲイルは真顔で答える。
「それ、俺、死んでません?」
「イリーナ、それ死んだ時のヤツだから……」
意味をよく理解していなかった様だ。
私は援護を出した。
「そうなのですか?」
イリーナはまだ腑に落ちない様だ。
その疑問をヴィシャヌが笑顔で答える。
「いやいや、冗談ではなく、あり得るのだぞ。それに爵位も変わるかもしれん。そうすれば娘に少し楽をさせられるのではないかな? 中佐殿」
「娘、居るんだね。独身かと思った」
思わず口に出してしまった。
(初対面なのに失礼だったかな?)
私たち三人は、一様に頷く。
すると何故か、それまでずっと部屋の隅で大人しくし、会話に参加しなかったマリンの顔が真っ赤になっていたのだ。
(まさか?)
私はその推測を口にしてみた。
「え、マリンちゃんが? 娘? まぁそう言われれば目元とか、たしかに似ているかなー」
マリンちゃんは、小さな声で「はい」と答えた。
「マジかー。当たってしまった」
「娘の為だ、頑張るか」
シーゲイルは運命を受け入れる事にした様だ。
「そう言えば、祟りの原因、不明でしたよね」
エミアスが口にした疑問は、確かに未解決であった。
ヴィシャヌも解決の糸口を探っている様だ。
「艦自体は問題ないのです。ここまで牽引して来られたのですから」
「では、やはり外的要因。襲われた? 或いは既に祟られた状態で出航したのか?」
「生存者たちの証言では、出航の数日後から、体調の悪い者が徐々に増えていったそうです」
「それだけでは、どちらか分かりませんね。まぁ、もし仮にその災厄を振りまく魔物が居たとしても、イリーナ様の結界で防げますから、大丈夫でしょう」
エミアスは言い終えるとイリーナを見た。
イリーナは無言で頷く。
ヴィシャヌも頷き、シーゲイルへと命令を下した。
「今日中に準備を整えよ。未明に出航だ。明け方には沖合だ」
Cパートへ つづく




