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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第四章 3節   <14話>
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<14話>  「帝龜アーケロン」   =Aパート=

せっかくのGWなのに体調を崩してしまいました。

GW中は毎日2話投稿の予定でしたが、少しペースを落とします。

すみません。



私は聖水で全身が濡れたままの、意識を失っているイリーナを部屋へと運んだ。

武官が用意してくれた部屋は、貴族が駐屯する為の立派な部屋だった。


ソファーの上に布を敷いて貰い、そこにイリーナを横たえる。

私はイリーナの濡れた衣装をゆっくりと脱がす。

(この少女の細腕に、託さざるを得ない自分が情けない。せめて私が出来る事、イリーナを誠心誠意介抱しよう……)


全ての服を脱がし、お湯に浸して絞ったタオルでイリーナの全身を拭いてゆく。

背中を拭く為、イリーナの上半身を起こし、抱きかかえる。


すると突然、イリーナの顔が近づいてきた。


「ご褒美、いただきましたッ! これで勝つる」


突然の事に私は、拒む事も受け入れる事も出来ず、ただただ唇をイリーナに奪われたのだった。


全裸のイリーナは、私に身体を押し付けてきた。

「あぁ。お姉様、ついに私を運命から開放して下さるのですね。さぁ……」


「そのまま、寝てなさい!」

私は拳を握り、イリーナの頭の上でぐりぐりとした。


「痛い、痛い。お姉様痛いですよぉ」


「まったくもう……。でも、本当に良くやったわ。イリーナ」


つい、握っていた拳を緩めてしまう。

そして私は、イリーナの濡れた髪に触れ頭を撫でた。


「わーい。お姉様に褒められました。てへへ。生まれてきて良かったです」


「やれやれ、じゃあ自分で服を着なさいね」


「えー」

イリーナは何か、ぶつぶつと呟きながらも服を着た。


そして暫くすると、武官のヴィシャヌが部屋を訪ねてきた。


「イリーナ様、リル様、この度はご助力ありがとうございました。本当になんと申したら良いのやら……」


「その言葉、エミアスにも聞かせてあげて下さいね」

イリーナの笑顔が眩しい。


「エミアス様は私を許して下さるでしょうか?」

イリーナとは対照的にヴィシャヌの顔は浮かない。


「貴女の事を責めたりはしませんよ。ただ、ああ見えてエミアスは、傷付きやすいのです。長く生きている分、辛い思いもそれだけ多いのかも知れません。感謝の気持ちを持って接していただければ、貴女とも良い関係を築けますよ」


そう言い終えると、イリーナは私を見つめる。

私はイリーナを見つめ返し、頷いた。



エミアスは奥にある寝室のベッドで横になっていた。

ヴィシャヌは様子を伺いに、静かに入室したのだが、エミアスには気付かれてしまっていた様だ。

私はヴィシャヌの後から入室し、後ろに立った。


「リル様。それに武官殿。これは見苦しい姿を……」


「エミアス、イリーナは目を覚ましたわ。もう、元気一杯だわ」

私はエミアスを励まそうと伝えた。


「そうですか。それは喜ばしい」


寝室の方が暗いのだが、エミアスが微笑んでいるのは分かった。

エミアスはベッドから足を下ろし、靴を履こうとした。


「もう、エミアス……貴女はもう少し休みなさい」


「しかし……」


「まったく、イリーナが寝ている事にしておけば良かったわ。休みなさいよ」


「畏まりました。リル様」


ヴィシャヌは一歩前に出る。

「エミアス様、武官のヴィシャヌです。今朝は無礼を働き、申し訳ございませんでした」

そう言うと、両膝をエミアスの前で付き、懺悔ざんげする。


「良いのですよ……。貴女も辛かったのですね。目の前で多くの者が命を失いかけている。それにもかかわらず、自分の力ではどうする事も出来ない。そんな歯痒い思いを貴女は独りで背負い込んでいたのでしょうね」

エミアスはヴィシャヌに微笑みかけた。


ヴィシャヌは目をつぶり懺悔している為、その微笑みが見えないでいた。

けれども、優しい声色はヴィシャヌにも聞こえているはずだ。


エミアスは続ける。

「私もその様な辛い思いを何度も何度も、何度も何度も経験しています。私はイリーナ様を魔王の手より救い出す事が出来ませんでした。今でもそれは、私にとって辛い思い出です。そして私が助け出す事の出来なかったイリーナ様をリル様が助けて下さり、偶然にも私は出会い、今は一緒に旅をしています。困った時は、仲間を……友を……家族を頼れば良いのです」


そう言うとエミアスは、マザーと呼ぶに相応しい、慈悲深い微笑みを私へと向けた。


「今回の様な事態になったとしても、私には頼れる者など……」

ヴィシャヌは微かにまぶたを開く。

開いた瞼からは、微かに涙が滲み出ていた。


「ならば今後は、私を……私たちを頼って下さい。そう、私たちは良き友となれるでしょう?」


「エミアス様……。リル様」


エミアスは足をベッドへ戻すと、お臍の下を自ら手で摩る。


「八英雄……。あの頃私は、長男を身籠もっていました。故に八英雄と共に戦う事が出来なかったのです。八英雄と共に民を救う事が出来なかった――その事への償いの気持ちはありますが、後悔の念はありません。私の息子は今、森エルフの王の警護の任に付いています。魔王と戦う為に力を蓄えています。私は息子を誇りに思っています。ですから後悔の念などあろう筈がないのです」


(エミアス、ありがとう。イリーナの事をずっと思ってくれていて。それにしてもエミアスは、本当にお母さんだったんだね……)


「エミアス様……。申し訳ございませんでした」

ベッドにしがみ付き、ヴィシャヌは泣いていた。


「リル様に休む様に言われていますので、私はもう少しだけ、休む事と致します」

エミアスは、掛け布団を足へと掛ける。

そしてベッドにしがみ付いているヴィシャヌの頭を撫でた。

「ヴィシャヌ、貴女に聖母様の御加護があらん事を……」



私は二人を残し、寝室を出る。

すると出た先には、イリーナが居た。

(イリーナも気になって来ていたのか)


イリーナは私を見つめる。

そして腰を少し曲げ、私の唇に人差し指を当て、片目を瞑った。



Bパートへ つづく

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