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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第四章 2節   <13話>
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<13話>  「Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.」   =Hパート=

Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.

褒め称え、感謝し、崇拝いたします、栄光あれ



そこは軍用病棟に併設された教会の内部だった。

備え付けられた木製のベンチの上とその足下に、数十列に渡り人が横たわっていた。

異様な光景だ。

野戦病院というものを私は実際に見た事が無いが、おそらくこの様な有様なのであろう。

なお、発狂した者は病棟で隔離されているのだそうだ。


状況を判断し、イリーナとエミアス二人掛かりで浄化の術を行使する事となった。

イリーナが浄化の術を使い、エミアスがそれを祟られた者たちへ頒布はんぷ(=広く配る)するのだ。


私はエミアスが死者甦生魔術を百人以上居た村人に掛けていた様を思い起こした。


残念ながら、司祭と修道女一人一人への祟りが強力で、エミアスの解呪術では解く事が出来ないのだそうだ。

大司教=ハイプリーストであるエミアスが解く事の出来ない呪い、確かにそれを受けた者は死んでいるのも同然なのかも知れない。

食事もままならず、餓死を待つしかない存在なのだから。


私もGMのスキルで調べてみたが、状態異常「呪詛じゅそ」となっていた。


解呪が困難と分かり、別の方法をとる事とした。

聖女イリーナの魔力を媒介にして発動する浄化能力を使うのだ。

それは魔術ではなく、魔法や魔導に近い。


解呪が絡んだ糸をほどく作業であるならば、浄化は糸をハサミで切ってしまう様な力業だ。


それを更に範囲化させるのだ。

途方もない魔力を消費するであろう事は明らかだ。

(終わった後のイリーナが心配だわ)



純白の衣を羽織った聖女イリーナと、正装の大司教エミアスは、教会の中央で向かい合った。


「エミアスお母様、後は頼みましたよ」

イリーナはそう告げると、両膝を床に落とす。


エミアスは聖水の入ったさかずきを傾け、イリーナの頭上から垂らす。

イリーナの衣服は聖水によって濡れ、肌に纏わり付いていた。


私は杯をエミアスから受け取る。

それが私に出来る、唯一の事だった。


「聖女イリーナに神の祝福を」

エミアスがそう言葉を発すると、イリーナは祈りを捧げた。

するとイリーナを中心に、聖なる光の渦が現れる。

途轍とてつもない量の魔素が集まってくる。

魔術に携わった事のない者でも視認が出来る程に。

そして徐々にイリーナの身体は、宙に浮き始めた。


エミアスは、浮いているイリーナの頭に手をかざす。

すると二人の腰の高さに、白く輝く巨大な立体魔術陣が出現した。

魔術陣は徐々に拡大し、教会をも飲み込み、そして併設している病棟へまで広がっていく。

次の瞬間、魔術陣は霧の様に消え、代わりに百以上もの小さな立体魔術陣が辺り一帯を覆った。

教会のステンドガラスを背景にした二人の姿は、まさに神の使途と呼ぶに相応しい。


そしてその状態のまま、数分の時が過ぎた。

(おかしい。事態が硬直している様に見える。死者甦生の時と同じく魔力不足により発動が遅延しているのか?)


時間が経つにつれ、祈りを捧げているイリーナの顔が、苦痛に歪んでいく。


私にはどうする事も出来ない。

苦痛に耐えているイリーナを私は、協力して支える事すら出来ないのだ。

(もどかしい)

無力な自分自身を嘆く。


その間にもイリーナの苦痛は凄絶せいぜつなもとなっているのだろう。

「あぐッ、んんんん……」

あのイリーナが苦痛で声を上げているのだ。常人ならば既に気絶している。


(イリーナ……)


そう心の中で名前を呟いた時だった。

イリーナの額に、邪神の文様が現れたのだ。

すると、瞬く間に百以上あった魔術陣は一斉いっせいに光を放った。


邪神が聖なる浄化の為の魔力を貸す。

その混沌たる秩序に、神々しさをおぼえた。


「神秘の光」


まさに、それだ。

百人以上の者たちが、徐々に起き上がるのだ。


「あぁ、聖女様……」

一人の者がそう呟くと、皆が手を合わせ、祈りを始めた。


イリーナの身体はなおも宙に浮き、聖なる光の渦が視認出来る。


どこからともなく、修道女の歌声が響く。

やがてそれは百人の音の渦となった。


イリーナはやがて、意識を失い空中に漂い始めた。

私は転移魔法でイリーナの元へ駆け付け、イリーナの濡れている身体を抱き締めた。


(お疲れさま。イリーナ)



14話へ つづく

賛美歌

『 Gloria 』 =  栄光


Gloria in excelsis Deo

Et in terra pax hominibus bonae voluntatis.

Laudamus te, Benedicimus te, Adoramus te, Glorificamus te.

Gratias agimus tibi propter magnam gloriam tuam.

Domine Deus Rex coelestis

Deus Pater omnipotens

Domine Fili

unigenite

Jesu Christe

Domine Deus Agnus Dei

Filius Patris

Qui tollis peccata mundi

miserere nobis

Qui tollis peccata mundi

suscipe suscipe

deprecationem nostram

Qui sedes ad dextreram, Patris

miserere nobis

Quoniam tu solus Sanctus

Tu solus Dominus,

tu solus altisisimus

Jesu Christe

Cum Sancto Spiritu

in gloria Dei Patris, Amen

in gloria, in gloria Dei Patris

Amen


= 出典参照 =

YouTube

パレストリーナ 祝福の賛美歌(ラテン語)

https://www.youtube.com/watch?v=-LXmFYhS7M8



【後書き】

13話をお読みいただき、ありがとうございました。


13話は3万字を越えて長くなってしまった為、2話に分けました。

それに伴いタイトルを変更しています。


13話「Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.」

    褒め称え、感謝し、崇拝いたします、栄光あれ

14話「帝龜アケーロン」


引き続き、14話お楽しみ下さい。


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