<2話> 「異世界と仮想の狭間で」 =Aパート=
西暦2046年、日本のベンチャー企業の「Walhalla社」が開発したフルダイブ型MMORPG「Ragna Saga」は、親会社である米国の医療ベンチャーの支援を受けて誕生した。
その親会社は、ある日本人医師がヒトの脳を電脳へと昇華する研究の為に立ち上げられたものであった。
最新の研究技術を使い、VR = 仮想現実世界を電脳世界へ科学革命させる。
その前段階が、Ragna Sagaで使われているフルダイブのシステムなのである。
私の名前は、坂神ゆり。
もうこちらの世界では名乗ることはないかもしれないけれど……。
職業はGM。
GMアバター名は「GM_ゆりっこ」です。
今、私は異世界か、仮想世界か、判らない世界に閉じ込められてしまいました。
白馬に乗った……、もとい白銀の竜に乗った王子様、私を助けに来て!
私は目を覚ました。
裸のままバスタブで、寝落ちをしてしまった様だ。
目の前でお湯に浮かぶ長く赤い髪。
ここが現実の今まで居た世界とは違うという事を思い起こさせる。
ぬるくなってしまったお湯。
私は髪の毛を両手で軽く前に束ね、水を切り、手拭いの様に左肩に乗せる。
髪の毛が落ちない様に左手で抑えながら、浴槽から抜け出した。
添えていた手を退けると髪は、左胸の脇を通り、するりと膝の手前まで落ちた。
床に水滴が落ちないように、用意してもらったバスタオルで、私は身体を軽く拭いた。
そして鎧ではなく、私服を装備した。
一瞬で私服姿となった。
髪の毛までセットされている。
「こういうところは仮想世界っぽいんだよね」
(しかも、普通に脱いだり着たりも出来るしさ)
(髪の毛を乾かさなくて良いのは嬉しいな。現実でこの長さなら、毎日ドライヤーだけで20分以上だよ……)
姿見鏡の前に立ち、自分の容姿を改めて確認した。
「戻れるのかな? 私……」
鏡に目をやる。
「女は愛嬌」
そう呟くと、現実逃避か、ファッションチェックを始めた。
(服はやっぱり、もう少しこの町に合いそうなのにして……っと)
自分のゲーム内で所持していた、戦闘用ではない、お洒落装備を思い起こした。
(赤い髪は、悪目立ちしそうだから、フード付きのコートも……っと)
「これで良し」
貴族の着る乗馬服のような格好に、目立たないようにと、普段は絶対に着ない朽葉色のコートを纏った。
「この《聖者の外套》だけ、おしゃれ用じゃなくてガチ装備なんだよね」
(強くてもゲーム内じゃ絶対に着たくない。デザイン的に。だって可愛くないんだもん。見た目は大事だよ!)
「女子力! 女子力!」
| ≪ 聖者の外套 ≫
| 防御力:65
| 追加効果:全ステータス+20
| 耐性:光を除く全ての属性攻撃
| 重さ:1.6kg
「念の為に、髪の色を変えるか」
(どんなバグがあるか分らないので、アバター設定は極力いじりたくない。イベントアイテムで髪の色を変えられるアイテムがあったはず)
| ≪ 重金属・ヘアカラー ≫
|エンチャント:一定時間内髪の色を変える
|使用可能時間:17時~24時(現地時間)
|効果時間:3時間
|再使用可能時間:5分
|説明:メタルなヘアカラーで夜の街へGo!
(これだ、これだ。これはメタルバンドのゲーム内ライブイベント時に配布したやつだ。あれは運営側だったけれど、楽しかったなー)
「メタルブラックを色指定して、これで良し」
髪の色が黒くなった。
ただし、メタルカラーなので美容室でトリートメントを入れて貰ったばかりの様にテッカテカだ。
それでも、赤い髪よりはマシであろう。
(フードは宿を出るまで被らないで良いか)
Bパートへ つづく




