<13話> 「Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.」 =Fパート=
Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.
褒め称え、感謝し、崇拝いたします、栄光あれ
軍馬が快走できる様に整備された街道を二時間、ユニコーンは走り続けていた。
イリーナの多次元収納内にいる間に、魔力の補充が済んでいた様だ。
(多次元収納は、内部の時間の流れがとてもゆっくりだったけれど、魔力の回復量は外の時間が基準なのかな?)
そんな疑問を思い浮かべていると、窓の向こうに、自然の岸壁を利用した要塞が見えてきた。
丁度、湾になっていた為、側面の窓から見る事が出来た。
「エミアス、そろそろかな? 岸壁に要塞が」
「見て参ります」
エミアスは頷き、そう答えた。
「あ、私も見たいな」
そう返した私に、イリーナが言う。
「あー、お姉様だけずるい」
結局三人で運転席へと移動する事になってしまった。
細身の女性とはいえ、さすがに三人は狭い。
立ったまま、外の様子を見る為に並んだ。
「ちょッ。イリーナ、止めなさいって。わざとでしょ……」
イリーナが私の胸の谷間に、ぐりぐりと後頭部をうずめてくる。
「はいッ」
イリーナのその「はいッ」という返事が、「ぐりぐりするのを止めます」なのか、「わざとで正解です」なのか、私には判断が付かなかった。
ただ一つ言える。イリーナは、私の胸を立ったまま枕にしている。
(よちよち)
私はイリーナに何故か母性を擽られた。
母性、母性本能、これらは私がこの世界へ来てから特に感じる様になった。
それまでは、私は末の妹であった為、むしろ甘える側である事の方が多かったからだ。
(イリーナのおかげで、私も成長できているという事なのかな?)
「あ、お姉様、確かに何か見えましたよ」
イリーナの言葉に、エミアスが応えた。
「ああ、あれは軍艦ですね。戦列艦と言いまして、大砲を100門程搭載しています」
「へー。そっ、そー、なんだー」
「リル様、露骨に興味無さそうですね」
「そんな事ないよー」
(いやー、お兄ちゃんのやってた大航海時代のシミュレーションゲームをよく見てたから、既に知ってるのよ。ゲームで得た知識ってヤツさ。ふっ)
「なんか、子供の頃に兄からマニアックな船の説明をされた事を思い出しただけよ……」
イリーナが意地悪く私に言う。
「お姉様の大好きなお兄様ですねッ」
「あっちの船は?」
私は話題を変えて誤魔化す。
「あれ、は? ん!? あれは!!」
エミアスは大げさに驚き、続ける。
「あれは聖母教の、聖戦母艦アーケロンではありませぬか! なぜ、この国に?」
馬車が近づくにつれ、エミアスが聖戦母艦アーケロンと言った船の全貌が見えてきた。
白い帆柱が数本、そこに白い横帆と縦帆が複数付いている。
先頭の縦帆には紅色で聖叉が描かれ、一番後方の縦帆には亀を象った絵が描かれている。
船体は王国軍の戦艦(=バトルシップ)よりも一回り小さい。
小さい分、速力があり、更に小回りも効く。
元の世界で言うのであれば、フリゲートだ。
「あああああああ!」
私の胸元でイリーナは、大きな声を上げた。
それは滅多に聴く事の出来ない、驚きの声だった。
そして声を上げると、イリーナは私の方を振り向き、顔を私の胸元に埋めて隠した。
「どしたの?」
私が聴いても、イリーナは答えなかった。
私はエミアスの方を見た。
するとエミアスは、ポンと手を叩く。
何か気が付いた様子だ。
私はまだ分からず、帆船を再び見つめた。
船の先頭に女神を模した様な像が付いているのを発見した。
「あ!」
(ぷー。もしかしてあの像ってイリーナなんじゃ? あー、これは恥ずかしいね)
私は漸く理由が分かった。
つい顔がニヤついてしまう。
(あ、ダメだ。耐えられない……。イリーナごめん!)
「あはははははハハハハハハハ」
私は我慢できず、声に出して笑ってしまった。
「くす。くすすすすす」
エミアスも私に釣られて笑い出した。
なんとか我慢しながら笑っている様だ。
「あー、おなか痛いっ。笑って」
「もー! お姉様、酷いです!」
イリーナは、その後暫く顔を私の胸に埋めたままでいた。
Gパートへ つづく




