<13話> 「Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.」 =Eパート=
Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.
褒め称え、感謝し、崇拝いたします、栄光あれ
暫く噂話を魚に飲食とを共にしていた。
会話のキャッチボールってやつをね。
すると突然、剛速球を投げ付けられてしまった。
「そういえば、お嬢ちゃん達だろ? 傭兵ギルドで、傭兵どもをコテンパンにのしたのって」
「ふはーッ」
私はスパークリン果実酒の炭酸ガスが肺に詰まり窒息死をしかけた。
「噂、広がるの早いね。ビックリしたわ」
そう告げると、漁師の男が親指で後ろを指した。
目をやると、ファンキーな髪型の男がいた。
髪の毛の真ん中が抉られた様に無いのだ。
(あ。デコピン男だ……)
「俺ら漁師は、傭兵どもと対立している訳じゃねえが、仲が良い訳でもないから、安心しな。それから、俺らに喧嘩ふっかけてきたら返り討ちにするがな」
「――でよお。それが強えのなんのって……。俺は姐さんに惚れちまったぜ。見ろよこの髪型! この傷は、俺からすれば勲章だぜ!」
デコピン男は、私からの視線を感じたからなのか、こちらの方を向いた。
「あ! あ! 姐さん!!」
「黙れ、デコ助」
(どう見ても落ち武者だろ!)
デコ助の奥には、イリーナに踏まれていた蜘蛛男がいた。
失禁したからか、服装が違っていたが、間違いない。
蜘蛛男は、イリーナがいる事に気が付くと、祈る様に両手を合わせていた。
男は何か一皮剥けた様に見える。
「ああ、女王様……」
蜘蛛男の発言に、私は思わず頷いた。
(やっぱりね……。変な方向に目覚めちゃったか。狂信者がまた増えたね。ちなみに女王様じゃなくて聖女なんだけどな)
漁師たちもかなり酔っ払っていた。
だからなのであろうか、何故か傭兵も含めて、皆でワイワイ楽しく飲む事になった。
縁というのは怖ろしい。
何が原因で繋がりが出来るか分からない。
先程コテンパンにのした男たちと一緒に飲んでいるのだ。
相手によっては報復の為、執拗に付け狙われる事だってありえる。
それが「姐さん」と慕ってきているのだ。
(男心は良く分かんないな……。でも、だからといって女心が良く分かる訳ではないけどね……)
カウンターの方を見ると、エミアスが一人で飲んでいた。
かなり深酒をしていそうだ。
(なんか、哀愁漂ってるな……。苦労の多い人生なのかな)
結局、私たちは昼から飲み始めたのに、夜遅くなってしまった。
「姐さん」と慕ってくる傭兵、デコ助に宿の手配を任せていた。
驚いた事に、そのデコ助は爵位を持つ団長だったのだ。
案内された宿は、高級な貴族御用達の場所だった。
(怪しい宿だったら、今度は頭に風穴を空けるところだったが、マトモな宿で驚いたわ)
料金もデコ助が払ってくれていた。
(やるじゃん。お酒飲んで気が大きくなっただけかも知れないけれど)
別れ際に、泣いてこう言われた。
「姐さん! 本日は、厳しく教育していただき、ありがとうございました! 次にヴァノスなどの王国南部へお越しの際は、おいらにお供をさせてくだせい!」
デコ助に名前を名乗られたが、私は直ぐに忘れてしまうのだった。
翌早朝、人通りの少ない内に私たちはユニコーンに牽かれて出立した。
漁師街の朝は早く、街道へ出るまでに何台かの馬車とすれ違った。
昨日深酒をしていたエミアスは、死にそうな顔をしていた。
(そういえば、二日酔いのエルフって初めて見たわ。やっぱハーフエルフだからなのかな?)
「エミっち大丈夫? イリーナに浄化してもらったら?」
イリーナは、昨日の復讐とばかりに、顔がニヤニヤしている。
「だ、大丈夫です。神から与えられた試練、耐えてみせます」
「いや、神様は関係ないでしょう。深酒したのエミアスだし」
エミアスは私に事実を告げられ、ショックを受けたのか、暫く硬直していた。
エミアスの硬直が解け、二日酔いもイリーナによって浄化された頃、馬車は海岸沿いの街道を走っていた。
窓を開けると、海風が心地良かった。
Fパートへ つづく




